売り手市場が続く中、「求人をかけても応募がない」「採用するのが難しくなった」という状況は珍しくないのではないでしょうか。
このような背景から「優秀な人材を流出させないこと」を最大の目的としたリテンションマネジメントを重視する企業が増えています。
今回の記事では、リテンションマネジメントを成功に導くための具体的な施策と取り入れたい研修についてご紹介します。
そもそも「リテンションマネジメント」とは何なのかについて知りたい方は以下の記事からお読みください。
目次
「リテンションマネジメント」を取り入れている企業はどのくらい?
少子高齢化などで人材確保が難しく、入社後3年以内の離職率の高さが問題となっている近年では、業績や年齢、経験などに関わらず、全社員を対象にリテンションマネジメントを行う企業が増加しています。
厚生労働省の「平成30年若年者雇用実態調査の概況」のデータによると、「定着のための対策を行っている」事業所は72%にも上り、多くの企業でリテンションのための取り組みを行っていることが伺えます。
具体的な対策として、「職場での意思疎通の向上」や「本人の能力・適性にあった配置」などを取り入れている企業が多い傾向にあります。
しかし、企業が効果的だと考えているリテンションマネジメントと従業員が望む施策とではギャップが生じる可能性もあるでしょう。リテンションを考える際には、まず社員の声を聞き、「社員が望む働き方は何か」を実現するための施策を検討することが重要です。
リテンションマネジメントに有効な施策とは?
ここでは、リテンションマネジメントに有効だとされている施策を4つご紹介します。
- ワーク・ライフ・バランスの重視
- 社員の希望を重視した配置
- 仕事の成果に見合った報酬や評価を提供
- 風通しのよい職場環境の整備
施策(1)ワーク・ライフ・バランスの重視
社員がこの会社で働き続けたいと思うためには、ワーク・ライフ・バランスの取れた働き方ができるかどうかが重要でしょう。
企業自らが「休日を取りやすくする」「残業をしない」といった職場環境の整備を進め、副業やリモートワークなど、柔軟な働き方の選択肢を用意することが求められています。
施策(2)社員の希望を重視した配置
社員の配置を会社が一方的に決めるのではなく、社員自身の希望を踏まえて適切に配置することは、リテンション施策として有効だと言われています。社員が持つスキルや経験、キャリアプランを確認・把握した上で、どのような選択肢があるのか提案しましょう。
社員の能力開発を目的としたジョブローテーションを定期的に行い、マッチする業務を見つけることも大切です。
施策(3)仕事の成果に見合った報酬や評価を提供
「正当に評価され、成果に見合った報酬が得られる」ことは、社員のモチベーションに大きく影響します。役割や成果に応じて、賃金の見直しを視野に入れる必要があるでしょう。
それと同時に、多面的に社員を評価できる「360度評価」や、同僚同士がお互いに仕事の成果や貢献に対して賞賛や報酬を送り合う「ピアボーナス」などの評価制度の充実も図りましょう。
施策(4)風通しのよい職場環境の整備
リテンションに成功している企業には、「コミュニケーションが活発」「風通しのよい職場環境」といった特徴があります。社員一人ひとりがいきいきと働ける職場環境では、仕事へのモチベーションも自ずと高まっていくでしょう。
社内コミュニケーションの活性化を図る施策として、1on1ミーティングやメンター制度など面談の機会を積極的に設ける、社員の健康状態や心理的状態などがわかるツールを導入するなど、労働環境の整備も効果的な施策となるでしょう。
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リテンションマネジメントの成果を上げるための研修
本来、企業における社員研修は人材育成が目的ですが、研修を行うことで社員の定着率を高める効果も期待されています。ここでは、リテンションマネジメントの成果を上げるために有効な研修について、階層別にご紹介します。
新入社員向け
新入社員は研修によって「横の繋がり」をつくることがリテンションとして効果的だと考えられます。
例えば、研修時間を長めに設定することで同期同士の繋がりが深まり、実務に移っても切磋琢磨する仲間として、お互いに向上できる関係性の構築に繋がったケースもあります。
また最近では、新人研修を複数社の内定者や新入社員と合同で行う「集合型研修」を導入している企業も多いようです。これは他社の社員から刺激を受けながら学べるというメリットがあります。
若手社員向け
入社2~3年目になると研修の機会が少なくなる傾向があります。仕事や職場環境に慣れた若手社員には、スキルアップを目的とした研修を用意しましょう。
例えば、組織の視点を踏まえた目標設定や成果を上げるために必要なプロセスを習得する「目標管理研修」、後輩指導の基本を学び、将来のリーダー候補となる土台をつくる「後輩指導基礎スキル研修」など、若手社員の自律的な行動を促し、成長促進となるプログラムが効果的です。
主体的な行動が取れるように育成することで、仕事へのモチベーションが向上し、定着率を高めることに繋がるでしょう。
若手社員向け研修に関する詳細はこちら 「ネクストスキルプログラム」
リーダー層向け
リーダー層に求められるのは、経営陣の考え方や会社の方向性を理解した上で、チームの運営計画の立案から部下の育成までを行うマネジメントスキルです。
とはいえ、実際は部下のマネジメントに悩みを抱えるリーダー層は多く、マネジメントへの不安から離職を考えてしまうケースもあるようです。
企業の成長にはリーダー層のマネジメントスキルの向上がマスト条件とも言えます。「経営マネジメント」と「チームマネジメント」の両面を包括した研修を導入し、チームでの成果にコミットするリーダーへの変革を目指しましょう。
リーダー層向け研修の詳細はこちら 「リーダー育成プログラム」
女性管理職向け
近年ではライフスタイルや就業に対する意識の変化から働き続けたいという女性は増加していますが、出産などのライフイベントを機に離職する女性は依然多く、海外主要国と比較しても、女性管理職の割合は圧倒的に低いのが現状です。
女性の雇用を促進し、女性リーダーを育成するためには、「働きやすい環境・制度の整備」と「人材の育成・教育」の推進が求められています。
男性・女性に関わりなくマネジメントに必要な能力開発を目的とした「キャリアアップ研修」とともに、まだロールモデルが多いとは言えない女性リーダー特有の不安に対し、対策となる機会を意図的に生み出して育成していくことが重要です。
リテンションを成功させるための具体策とは?
優秀な社員の定着を目的としたリテンションマネジメントに取り組む際に、人事担当者はどのようなことを意識すればよいのでしょうか。
リテンションマネジメントの専門家である青山学院大学の山本寛教授に、リテンションマネジメントの具体策についてお話を伺いました。
キャリア研究の第一人者
【プロフィール】
青山学院大学経営学部にて人的資源管理論を担当し、働く人のキャリア発達とそれに関わる組織マネジメント問題を専門として研究。最近では「組織のリテンション・マネジメント」にも研究テーマを広げ、近著『なぜ、御社は若手が辞めるのか』(日経プレミアシリーズ: 新書)では日本の人事部「HRアワード」入賞。キャリア研究の第一人者として多数の学術賞を受賞している。
「山本寛研究室」http://yamamoto-lab.jp/(参照)
リテンションマネジメントを成功させている企業やその具体策とは?
厚生労働省が発行している「若者が定着する職場づくり取組事例集」でも紹介されていますが、独立系のITサービス企業であるI社は、優秀な人材により長く働いて活躍し続けてもらうために、教育研修体系や働きやすい環境の整備に取り組んでいます。
その施策の一つとして、新人研修の時期を2カ月から6カ月に延長し、一般的には入社から半年後に行うフォローアップ研修を3年間行いました。
研修期間の延長は、新入社員同士の一体感の醸成や能力開発、配属のミスマッチの防止などに良い結果をもたらしています。
新人研修後には「社内インターン制度」を行い、プログラマーやシステムエンジニアなど職種別採用で入社した人にも、必ず全事業部の業務を経験させているそうです。
自己分析や適性で初任配属先を決めるとミスマッチが発生しやすかったのに対して、社内インターン制度によってしっかりと適性を見ることができ、最適な配属先を決定できるようになったようです。
また、新入社員研修の様子は新入社員自身の手でDVDに編集し、家族に送付しているそうです。DVDを観た家族から「いい会社に入ったね」と喜んでもらえることは、働く意欲に繋がるようですね。
制度の導入後は、毎年40~50名採用して、3年以内の離職率は3~4名だそうです。これは、転職者が多いIT業界において奇跡的な数値だと言えるでしょう。
リテンションを強化させるためにはどのような研修が有効でしょうか?
私がおすすめしたいのは「キャリアデザイン研修」です。社員一人ひとりがキャリアプランを見つめ直す機会を持つことが大切だと考えています。
「今後どのような仕事がしたいのか」「そのために必要な知識や経験は何か」など棚卸ししていくことで、「まわりの人は辞めても自分はこの会社で頑張りたい」という意識を身に付けることができます。これは、多くの企業が課題に感じている退職の連鎖を止めることにも繋がるでしょう。
また、「メンタリング研修」も効果的です。マネジメント層を中心にコミュニケーションに特化した内容を詳細に学ぶことで、社内でのコミュニケーションを強化し、リテンションに繋げることができます。
まとめ
社員を定着させるためには、引き留める施策だけを用意するのではなく、社員研修を通じてフォロー体制の構築や意識改革に取り組むなど、新たな施策の導入が必要になるかもしれません。
優秀な人材により長く働き続けてもらえるように、リテンションの対象を明確にし、自社に適した施策について検討してみてはいかがでしょうか。
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