働き方やライフスタイルの変化から、定年を待たずに退職する人や転職を目指す人が増えています。そんな中注目されてきているのが「イグジットマネジメント」です。
イグジットマネジメントとは、雇用の出口に関する計画や管理を指しますが、日本企業では採用活動と比較し、取り入れている企業は多くないのが現状です。
今回の記事では、イグジットマネジメントの考え方や重要性について紹介します。
目次
イグジットマネジメントとは?
「イグジット・マネジメント(Exit Management)」とは、「組織の出口(exit)を管理する」という意味を持つ言葉です。
組織の健全な新陳代謝を促すために、「雇用の入口」にあたる採用活動とともに、「出口」に相当する退職や個人との関係解消について、戦略的に計画・管理する人材マネジメントを指します。
これまで「組織の出口」とは、「退職」のみを意味することが多かったと言えるでしょう。
しかし、人材不足が深刻化するこれからの時代には、「出口に向かう過程」を含めたマネジメントで、社員と企業の双方が納得できるよう円満に進めていくことが望まれます。
イグジットマネジメントが持つ3つの重要性
ここでは、日本企業におけるイグジットマネジメントが持つ重要性について、3つご紹介します。
年齢に関わらず活躍できる場を提案することができる
近年は、終身雇用の前提が崩れ始めたことなどによる影響で、定年を待たずに退職する人が増えています。
また、転職の売り手市場が続いていることにより、若手を中心に人材の流動化が進んでいます。多くの人が自身のライフプランやキャリアステップなどを重視した退職・転職を選択するようになってきていると言えるでしょう。
社員の状況を鑑みて、このまま会社に残ってキャリアを描いていくのか、離職し他の場所でキャリアを伸ばすのかなど、いくつかの選択肢を提案することが重要です。
年齢に関わらず、社員が活躍できる場を提供することが企業には求められます。
会社組織の新陳代謝を図る
ITなどによる技術革新や経済のグローバル化が進む中、多くの企業では事業サイクルの高速化を念頭に置いた人材の確保が最重要課題となっています。
そのためは、自社が求める人材像を明確にすることが大切です。
自社の人材像に基づき、採用だけでなくイグジットマネジメントを行うことで、自社を支える人材だけが残るようになり、組織は健全な新陳代謝を図ることができます。
会社のブランディングの向上に繋げる
ポジティブな転職や円満退社による個人との関係解消を目指すことは、会社のブランディングの向上にも繋がります。
社外価値の高い人材を社内で育てることができれば、退職した社員の活躍によって出身企業の評価が高くなることも期待できるでしょう。
「この会社で数年働けばどの会社でも通用する」というように、組織が社員に対して最大限の人材開発やキャリア開発を行い、エンプロイアビリティ(雇用されうる能力)を養成することが重要です。
イグジットマネジメントの取り組み内容
イグジットマネジメントの取り組みには、主に「離職防止」「ポジティブな離職を促進」「再雇用の促進」の3つが挙げられます。それぞれの取り組みについてわかりやすく紹介します。
- 離職防止対策の実施
- 個のスキルやキャリアに合わせた離職の提案
- 定年を迎えた社員の再雇用促進
離職防止対策の実施
優秀な人材に対しては、雇用の出口を用意するのではなく、離職防止の対策をしておくことが大切です。
リテンションの観点では、給与や福利厚生などの条件面だけでなく、働きやすい環境づくりやワークライフバランスの推進など、報酬以外の施策にも取り組むことが求められます。
一度退職を決めると意思を覆すことが難しくなってしまうので、決意する手前で気付けるよう、普段からのコミュニケーションが重要となるでしょう。
個のスキルやキャリアに合わせた離職の提案
本来、退職はネガティブに捉えられやすい傾向にありますが、イグジットマネジメントを取り入れることで、個のスキルやキャリアに合わせて離職を提案することができるため、双方がポジティブに受け止めることができます。
離職を促す際にトラブルが起きてしまうと、社内に悪影響を及ぼすだけではなく、社外にも悪評が知れ渡ってしまうリスクがあります。
お互いが気持ちよく雇用関係を解消できるよう、退職面談などコミュニケーションの場を設けるとよいでしょう。しっかり事前準備をした上で円満な雇用関係の解消を心がけましょう。
定年を迎えた社員の再雇用促進
今後増加していくであろうシニア社員に対しては、経験や知識を活かして活躍できる場を整備して再雇用し、自社での活用を図ることも企業にとって有益な人材確保の手段となるでしょう。
退職制度として「積極雇用型」「メリハリ活用型」「転身支援型」の3タイプに分けてアプローチすることができます。
「積極雇用型」は、60歳前の社員と同等もしくはそれに近い働き方や貢献を期待し、処遇することを基本的なスタンスとしています。
「メリハリ活用型」は、多様性な働き方を用意し、個人の意欲や能力に応じて処遇するスタンスです。一方「転身支援型」は、シニア社員の雇用はできるだけ抑制し、社外への再就職や独立を支援する方法です。
まずは、自社にどの方法が適しているのかをしっかり見極めることが重要です。導入する際には、社員に対しどのような選択肢があるのかや制度の内容についてしっかり伝えるようにしましょう。
イグジットマネジメントの具体策とは?
組織の健全な新陳代謝を促すイグジットマネジメントに取り組む際に、人事担当者はどのようなことを意識すればよいのでしょうか。離職防止アドバイザーに、イグジットマネジメントの具体策について聞いてみました。
教育研修事業部 ゼネラルマネジャー
離職防止アドバイザー
イグジットマネジメントに取り組む際に人事担当者が気をつけることとは?
離職を決意した社員を引き止めたい場合、本当に辞めなければいけないのか、理由や状況を確認することが第一ステップになるでしょう。退職理由がポジティブな場合は、思い切って背中を押してあげることも大切です。
イグジットマネジメントを進める上で、企業は、社員がずっと働き続けてくれることを「当たり前」と捉えるのではなく、「いずれ辞めてしまうかもしれない」ことを前提に、「お互い良い関係で働き続けられるためにはどうすればよいか」を考えることが重要でしょう。
そのためには、社員同士のコミュニケーションが活性化するような取り組みを実施したり、人事制度の見直しを行ったりと、社員の不満を解消するような施策を積極的に取り入れていく必要があります。
ネガティブな退職は新規雇用に影響を与えてしまうリスクや、会社の価値やブランディングを下げてしまう可能性があるという危機感は持っておくとよいかもしれません。
若手社員に対するイグジットマネジメントで気をつけることとは?
新人や若手社員の離職率の高さに悩む企業も多いことでしょう。
業務に少し慣れる頃になると、「自分はこの会社で何を身に付けられたのか」と働き続けることへ疑問を抱くようになる傾向があります。
若手がこの先のキャリアパスで悩まないよう「2~3年働いて身に付いたスキルには市場価値が付いている」「他の会社でも活かせる力が付いている」と、自社で働くことでの価値を伝え続けることが重要です。
自分には「エンプロイアビリティ(雇用されるに値する能力)」があると知ることで、もっとこの会社で力を伸ばしたいと思うかもしれません。
「新しいことにチャレンジしたい」という理由で転職を選んだ場合、それはポジティブな転職です。他社で力を身に付けて、自社に戻ってくることもあるかもしれません。それが本来の意味での「人材の流動化」ではないでしょうか。
イグジットマネジメントとして成功した事例は?
アルバイト雇用の事例ではありますが、大手ファストフード店ではアルバイトスタッフが辞める際に、学生の卒業にあわせて3月に「卒店式」を行いました。
すると、卒店式を迎えるまでスタッフが働き続けたり、卒業したスタッフが新たな後輩を紹介してくれたりなど、ポジティブな変化が生まれたそうです。
卒業を機に退職するスタッフに対し、「卒店」という形でポジティブに送り出せたことが、良いエネルギーを生み出したのでしょう。
しかし日本では、イグジットマネジメントのための取り組みを積極的に取り入れている企業は多くないのが現状です。
出口のマネジメントだけでなく、従業員とのアライアンス契約など契約形態の方法を増やすといった努力が必要になってくるかもしれません。
イグジットマネジメントで組織の健全な新陳代謝を目指す
現在の日本企業では、年齢で一律に雇用関係を終了する「定年制度」から、「年齢に関係なく活躍できる」「自律的なキャリア・ライフプランを選択できる」という働き方にシフトチェンジしています。
今後、優秀な人材を確保し、企業が成長していくためには、採用と同様に、イグジットマネジメントの取り組みが重要視されるでしょう。
組織の健全な新陳代謝を目指し、自社でもイグジットマネジメントを取り入れてみてはいかがでしょうか。
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