人事領域において、「従業員が会社に対して愛着心を持っている状態(帰属意識)」という意味で用いられる「エンゲージメント」。
エンゲージメントが高い企業では、従業員の仕事に対するモチベーションは高く、離職率も低いと言われています。
人事担当者の中には、自社におけるエンゲージメントがどのレベルなのか、知りたいと考えている人も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、エンゲージメントの測定方法や質問例、調査をおこなう際のポイントについて紹介します。
目次
エンゲージメントサーベイとは
エンゲージメントサーベイとは、従業員と組織の関係性を表す従業員エンゲージメントをスコアリング(定量化)するための調査のことです。
近年、少子化や終身雇用制度の崩壊などにより、深刻な人手不足が課題となっています。
企業は、人材の離職防止や生産性の最大化のための人事施策を講じる必要に迫られており、そのための有効な手段として従業員と会社との関係性にフォーカスしたエンゲージメントサーベイが注目されています。
組織のエンゲージメントを調査する手法
エンゲージメントサーベイ以外にも組織のエンゲージメントを調査する方法があります。ここでは3つの調査方法とその特徴、エンゲージメントサーベイとの違いについて詳しく紹介します。
従業員サーベイ
従業員サーベイは、エンゲージメントサーベイも含む「従業員向け調査の総称」として用いられます。具体的には、人事部が人事制度の改定や導入による効果のスコアリング及び改善を目的に実施する調査のことです。
IT化が進んだことで、多くの従業員を対象にした調査もしやすくなりました。結果が数値化できるため課題を見つけやすくなるのが特徴です。
組織とのつながりを調査するエンゲージメントサーベイと比べると、従業員サーベイの方が広義的な意味合いが強く、エンゲージメントのみならず従業員の働く環境に対する満足度や改善点を調査する場合に実施されることが多いと言えます。
パルスサーベイ
パルスサーベイは、定期的に短いスパンで簡単な質問を繰り返しおこなう調査手法です。
人間の脈拍(パルス)を繰り返し測って健康かどうかを検査するように、パルスサーベイでは1~5分程度で回答できる質問に、毎日や週1、月1など定期的に回答してもらいます。
コンピュータを使用して比較的手軽に実施できるアンケート調査のため、日課として取り入れやすいのが特徴です。アンケートの内容は、現在の心理状況を問うものや、上司や職場に対する満足度を問うものなど、時期や範囲を限定した質問を実施します。
エンゲージメントサーベイとは違って、従業員の状態をリアルタイムでチェックできるため満足度や離職兆候などの情報収集に適しています。
また、従業員に承諾を得た上で心拍数などの生体データを測定し、エンゲージメント測定に利用するなど、幅広い活用が期待されています。
一方で、繰り返し何度も調査するため、従業員への負担やストレスになりやすいと言うデメリットもあるので注意が必要です。
モラールサーベイ
モラールとは、フランス語で「士気」「意欲」を意味します。モラールサーベイは、年に1回~数カ月に一度、組織として目的を達成しようとする従業員の意欲度合いを測定するための調査方法です。
従業員のやる気をスコアリングする手法として体系化されたモラールサーベイでは、本音を引き出し組織や職場の改善に活かせるという特徴があり、このモラールが高ければ高いほど従業員のパフォーマンスも上がると言われているほか、事故率や離職率、欠勤率とも強い相関関係があるとされています。
エンゲージメントサーベイとは異なり、実際に調査する際にはできるだけ本音を引き出すために無記名でおこなうのが一般的です。最近では、外部のサービスを使ってWeb上で回答する方法も導入されています。
エンゲージメントサーベイの活用目的
エンゲージメントサーベイの実施目的は、従業員の「本音」を知り、見えた課題から組織を活性化することです。
従業員のエンゲージメントを把握することで、企業は改善のための施策やさまざまな対策を講じることが可能になるだけでなく、結果として従業員のエンゲージメントを高めることができ、生産性の向上や離職予防などが期待できます。
エンゲージメントサーベイをおこなう目的や得られるメリットについて紹介します。
目的(1)組織課題をデータで可視化
エンゲージメントサーベイは、従業員のエンゲージメントをデータで可視化できます。
データから組織の状態を客観的に把握することで、課題を洗い出すことも可能です。データを根拠に組織改善に向けた施策をおこなうため、効率のよい課題解決が期待できます。
しかし、従業員の本音を引き出すためには、従業員がストレスなく回答できる環境を整えるなど、適切なエンゲージメントサーベイをおこなうことが大切です。
直属の上司や同僚との対人関係など声に出しづらく可視化されにくいものなどは、匿名での実施により本音を引き出すなど工夫しましょう。
目的(2):従業員とのギャップを把握
エンゲージメントサーベイを実施することで、従業員が組織に抱いている理想と現実のギャップを的確に把握できます。
従業員との関係性を客観的な指標として可視化し、企業だけでなく従業員自身が自分と組織の状態を顧みることでそのギャップに気づくことができるのです。
理想と現実のギャップを解消するためには、まず現状を把握した上で組織の改善を図り、継続的に施策を実行し続けましょう。
エンゲージメントサーベイの結果を社内で共有し、定期的に組織全体で課題に対する意見交換をして改善につなげるなど、適切なエンゲージメントサーベイの活用が効果的と言えます。
目的(3)人事施策に活用してエンゲージメントを向上
エンゲージメントサーベイを人事施策に活用することで、従業員のエンゲージメント向上が期待できます。
エンゲージメントサーベイの数値により洗い出された人事上の課題に対して、企業は改善や解決のための施策を打ち出すことが可能です。
人事上の課題には、従業員のモチベーションの低下やコミュニケーション不足による生産性の低下、主体性の欠如など、業務に影響を与える課題が挙げられます。
エンゲージメントサーベイで従業員の現状を把握した上で、1on1の実施や必要な環境整備など改善施策をおこないエンゲージメントの向上を図りましょう。
従業員のエンゲージメントを向上することは、モチベーションや生産性の向上につながり、結果として離職防止にもなります。
しかし、エンゲージメントサーベイを実施したからといって、すぐに従業員のエンゲージメントが高まり結果が出るわけではありません。
結果を出すためには、定期的にエンゲージメントサーベイを実施して従業員のコンディションを把握し、改善のための手立てを講じることが大切です。
目的(4)チーム運営に活用して課題を自分ごと化
エンゲージメントサーベイは、チーム運営にも活用できます。前述したように、コミュニケーション不足や主体性の欠如など、チーム運営にも影響する課題が見えてきます。
管理職に結果を伝え、チーム内で原因や改善点についての話し合いをおこなうなど、取るべき解決策を明確化しましょう。
また、エンゲージメントサーベイとフィードバックを繰り返すことで、組織課題を「自分ごと化」できるようにもなります。従業員が主体性を持ってポジティブに仕事に取り組めるため、チーム運営にも好影響を与えてくれるはずです。
チーム内の課題解決を図ることは、チームで働く従業員一人ひとりの成長を後押しすることにもつながります。
エンゲージメントサーベイを実施する際のポイント
エンゲージメントサーベイは、実施すればそれでよいわけではありません。
忌憚なき従業員の「本音」を引き出すためには、実施する目的やタイミング、回答する従業員からの理解など、実施する上で気をつけたいポイントがいくつかあります。
以下で説明する点に気をつけて、効果的なエンゲージメントサーベイを実施しましょう。
- 目的を明確にして従業員からの理解を得る
- 継続的に実施する
- 従業員の負担にならないよう注意する
- 「形骸化」を防ぐ
ポイント(1)目的を明確にして従業員からの理解を得る
エンゲージメントサーベイを実施する際、まずその目的を明確にして従業員に説明することが大切です。
エンゲージメントサーベイに対しての理解が得られないと、否定的な考えにより回答率が低下したり、サーベイの有効性に悪影響を及ぼしたりすることも。
説明不足のまま回答を求めると、従業員のエンゲージメントが低い会社では、企業に対する信頼度の低さからサーベイに対しても疑心暗鬼に陥ってしまい「本音」を聞き出せない可能性もあるかもしれません。
エンゲージメントサーベイをより効果的なものにするためにも、実施する目的や意義はもちろん、従業員にとってもメリットであり決して不利益にならないことを説明して、従業員からの理解を得ましょう。
ポイント(2)継続的に実施する
エンゲージメントサーベイは、継続的に実施することがポイントです。
一度おこなっただけでは、従業員のエンゲージメントの向上は望めません。サーベイとフィードバックを繰り返すことで、実施した施策の効果測定や改善が期待できます。
たとえ現状の課題を改善できたとしても、めまぐるしく変化する社会情勢の中、新たな課題が現れるのは時間の問題です。
継続的におこなったサーベイ結果の推移にも着目し、従業員と組織の状態を把握して適切な人事施策に役立てましょう。
ポイント(3)従業員の負担にならないよう注意する
エンゲージメントサーベイを実施する際は、回答する従業員の負担にならないよう注意しましょう。実施する時期や回数、回答にかかる時間など、通常の業務に支障が出ないよう気をつける必要があります。
たとえば、繁忙期の実施や、始動して間もないチーム・組織への実施はおすすめしません。実施時期や方法を誤ると、従業員の「本音」を聞き出すことは愚か、従業員の負担になってしまい本末転倒です。
また、回答後に必要となる分析や調査をおこなうのも従業員だと言うことを忘れてはいけません。自社の現状に合わせた仕組みづくりと従業員に負担がかからない方法で、エンゲージメントサーベイを実施できるのが最善です。
ポイント(4)「形骸化」を防ぐ
エンゲージメントサーベイの実施において、形骸化を防ぐことも重要です。
従業員の「本音」を引き出すことで課題が洗い出されるエンゲージメントサーベイにおいて、ただ実施するだけでは定型業務になってしまい効果が得られないおそれがあります。
形骸化を防ぐためにも、エンゲージメントサーベイをおこなう意義やメリットなどを周知することが大切。
エンゲージメントサーベイへの回答に慣れてしまわないよう、前回の結果の振り返りやフィードバックをおこなうなど、企業内で対話や議論をすることを心がけましょう。
エンゲージメントを測定するための3つの指標を踏まえた質問例
エンゲージメントを測定するためのアンケート調査には、「総合指標」「熱量のレベル」「エンゲージメントを向上させる要因」という3要素が盛り込まれています。
ここでは、エンゲージメントを測定する際の指標となる3要素を踏まえた質問例を紹介します。
企業に対する「総合指標」を知るための質問
「総合指標」とは、従業員が現在の企業を総合的に見てどのように評価しているのかを理解するための指標です。
企業に対する「総合満足度」「期待度」などの把握を目的としています。質問は、会社へのロイヤルティ(忠誠心)がどの程度あるのかを測定できる内容がよいでしょう。
〈質問例〉
- 仕事を探している友人や知人、親族に自社を勧めたいですか?
- この1年間に仕事上で学び、成長する機会を持てましたか?
- 職場に自分を一人の人間として気遣ってくれる上司や同僚はいますか?
- 仕事上で自分の成長を励ましてくれる人はいますか?
仕事に対する「熱量のレベル」を知るための質問
「熱量のレベル」とは、従業員が仕事に対して意欲や価値を見出しているかを知るための指標です。
仕事に対してやりがいを感じる「熱意」、熱心に仕事に取り組める「没頭」、仕事を楽しみ生き生きと働ける「活力」などの度合いを確認することを目的としています。
質問は、従業員の仕事に対する姿勢がわかるような内容を採用しましょう。
〈質問例〉
- 仕事をしていると時間が経つのを早く感じますか?
- 仕事をする上で、自分の最も得意とすることをおこなう機会を毎日持っていますか?
- 自分の仕事を正確に遂行するために、必要な設備や資源を持っていますか?
- 自分の同僚は質の高い仕事をすることに専念していますか?
「エンゲージメントを向上させる要因」を知るための質問
「エンゲージメントを向上させる要因」とは、「組織との関わり方」「職務の難易度」「業務上必要な資質」などを指し、従業員自身が企業に対して貢献できているという感覚があるかを知るための指標となります。
質問は、自己肯定感や当事者意識に関する内容がよいでしょう。
〈質問例〉
- 仕事上で自分の意見が考慮されているように思いますか?
- 組織全体における戦略目標を理解していますか?
- 会社の使命・目標において自分の仕事は重要なものと感じていますか?
- 最近1週間で、良い仕事をしていると褒められたり、認められたりしましたか?
アンケート調査をおこなう際の注意点
アンケート調査をおこなう際には、いくつか注意しなければならない点があります。それぞれについて詳しく説明します。
- 調査の目的を共有し、閲覧範囲について説明する
- 集計から分析まではすばやく対応
- アンケートの頻度と設問数
注意点(1)調査の目的を共有し、閲覧範囲について説明する
エンゲージメント調査の目的は、アンケート結果から企業や従業員が抱える問題点を洗い出し、改善することです。そのため、調査目的を従業員に共有することが重要です。
調査結果については、人事担当者だけが把握するのではなく、従業員に対して結果に対するフィードバックをおこないます。そして調査結果を受けて、企業が問題点についてどのような改善を図るのかを従業員に示しましょう。
また従業員から率直な回答を得るために、閲覧範囲について説明しておくことも大切です。
注意点(2)集計から分析まではすばやく対応
アンケートによって抽出された問題点に対して迅速な対応をおこなうために、集計から分析までは調査からなるべく日を空けずにおこなうことが重要です。
分析結果と過去の調査結果を比較し、変化の大きい項目があった従業員に対しては、面談をおこなうなどのフォローを実施しましょう。
注意点(3)アンケートの頻度と設問数
まず、実施する側と回答する側ともに負担が少ないことが大切です。日次・週次の高頻度でおこなう「パルスサーベイ」は、設問数を2~3分で回答できる1~10問程度とします。
一方、「エンゲージメントサーベイ」は、半年に1回から1年に1回程度の月次・年次の頻度で実施します。設問数は50~100問程度とし、20~40分程度の時間を設けて回答します。
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エンゲージメントサーベイを実施後、エンゲージメントをどう高めていくか
エンゲージメントサーベイを実施後に必要なステップには、主に以下のものがあります。
ステップ(1)結果の分析と課題の明確化
ステップ(2)課題解決のための施策を検討
ステップ(3)施策効果を測定するための継続実施
エンゲージメントサーベイを実施したら、まず集計結果を分析しましょう。つぎに、分析結果から浮き彫りとなった課題の解決を図るために必要な施策を検討し実行します。
実施した施策の効果が出ているかどうかを確認するためには、継続的なエンゲージメントサーベイの実施が求められます。
エンゲージメントを高めるためには、実施したエンゲージメントサーベイの結果を人事や経営陣だけでなく、従業員にも共有しましょう。
従業員を巻き込んで働きやすい環境について考えることで、自分ごと化が進み、エンゲージメントを高める一助になります。
また、繰り返しになりますが、エンゲージメントサーベイは一度実施したら終わりではありません。定期的におこない、継続的に組織と従業員の状態を把握して課題解決していくことが大切です。
まとめ
エンゲージメントの測り方として、アンケートによる「モニタリング」と「調査」が多く用いられています。
実施頻度や質問数の異なるアンケート調査を組み合わせることで、調査結果の充実を図ることができます。
調査の目的や結果を従業員と情報共有し、問題点の改善に取り組めるように、エンゲージメントを測るアンケート調査を導入してみてはいかがでしょうか。
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