オンボーディングという言葉の意味とは何でしょうか。人事関係者の中で最近耳にすることが増えた、「オンボーディング」という用語。
「新入社員の即戦力化と離職防止を行うための仕組みの整備」を意味するこの言葉は、船や飛行機に乗り込んでいる状態を示す「on-board」からの連想で生まれました。
何もわからない状態の新入社員を戦力として独り立ちできるまで企業がサポートする様子を、乗り物が出発地点から目的地に送り届けるさまに例えています。
オンボーディングと従来のやり方との違いは?
このオンボーディングは、アメリカで生まれた考え方で、日本では外資系企業を中心に、新入社員の受け入れ体制として採用されてきた考え方ですが、一体どこが日本の従来の仕組みと異なるのでしょうか?
違い1.「新入社員」の指す範囲
多くの日本企業が、新卒入社を基本にした一括受け入れの仕組みを前提としているところ、オンボーディングは「新卒入社者と中途入社者を区別しない随時の受け入れの枠組みである」という点が異なります。
違い2.継続的な定着支援の視点
オンボーディングでは採用直後の研修だけではなく、離職の芽を摘み取り職場へ順応させていくための定着支援の視点があります。日本では、特に前職で社会経験のある中途入社者への視点は依然弱い傾向があります。
上記のような違いは、アメリカの労働市場の流動性の高さに起因し、様々な企業を渡り歩いてキャリア形成する社会の中で、中途入社者の重要性が相対的に高く、また、雇い続けたい優秀な社員の転職を思い留まらせるような施策が企業に求められてきたという背景があります。
一方、日本では大企業を中心にした終身雇用制が根強く残りつつも、今後の変化として、労働年齢人口の減少により売り手市場化が進むことが予想されます。
徐々に労働市場が流動性を増していく中で、上記の2つの要素の重要度は上がっていくと考えられるため、注目を浴びているのがオンボーディングです。
自社でオンボーディングの仕組みを作るには?
上で触れたようなオンボーディングの考え方は、採用から定着までの一連のプロセスであるため、どこから手を付けていいのかがピンと来ない方も多いのではないでしょうか。
オンボーディングの具体的な施策を考える前に、現状を整理する上で有効な2つの視点をご紹介します。
視点1.対象の区分
新卒・中途を問わない受け入れの仕組みといえども、スキル有無によって求められる施策は異なりますので、依然として新卒・中途という区分は有効な視点となるでしょう。
とはいえ、オンボーディングの考え方として特に強調しておきたいのは、「スキルを持って入社した即戦力社員であれ、実力を発揮してもらうために職場への順応の橋渡しが必要である。」ということです。
中途社員の中でも、ポテンシャル採用の若手と、ポストに招聘したプロフェッショナル人材とは大きく異なるため、むしろ、「社会経験の有無」と「スキルの有無」という2軸による整理で、どの層の定着が優先課題かを検討してみるのもよいでしょう。
視点2.時系列
定着支援と聞くと、入社後の受け入れをどうするかに目が行きがちですが、雇用のミスマッチの原因は採用に遡ることもあります。
定着がうまくいかない場合に、採用から入社数か月までを時系列順に整理し、課題を見つけ出す視点もまた重要です。
(1)採用期
面接~入社の過程ですでに自社と求職者とのギャップが生じていないか?
例)
現場との擦り合わせが足りずに歓迎されない人材を採用している。
業務理解度が低いまま内定が出るため入社後にギャップを抱くことが多い。 など
(2)順応期
業務面ではない、「職場への慣れ」の段階に問題はないか。
例)
現場の受け入れ意識が低く声かけも少ないため、特に社会経験のない新卒者が疎外感を抱いている。
新卒者に比べ、中途入社者の配属後は現場に任せきりになっている。 など
(3)戦力化期
自社で通用するスキルを身に付ける段階に問題はないか。
例)
上司によってOJTの質のバラつきがあり、新卒社員の成長に大きな差が出る。
専門スキルを持ったキャリア採用者が、企業文化の理解不足から期待された成果が出せていない。 など
上記の2つの視点を組み合わせて考えてみることで、自社の受け入れ体制の強みと弱みを理解していくことが重要となるでしょう。
おわりに
この記事で、オンボーディングについてのイメージを深めていただけたでしょうか?
重要なことは、新卒中途問わず、あらゆる新入社員は、職場に慣れて力を発揮していくまでの過程で支援を必要としているということです。
今後の生産人口の見通しからすれば、従来採用・定着させられなかった人材をいかに活用するかということは、あらゆる企業にとって生命線となるでしょう。築き上げてきた自社の文化や強みに、まだ社内にない多様な人材を橋渡しすることこそ、オンボーディングが目指すものなのです。
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