人材の流動化が進む日本企業において、社員に長く働き続けてもらうために重視されているのが「エンゲージメント」です。
従業員の企業に対する「愛着心」や「信頼」を表す言葉ですが、日本では企業に対するエンゲージメントが低い傾向にあると言われています。
エンゲージメントを高めるにはどのような対策を進めるとよいのでしょうか。今回の記事では、エンゲージメントが低い企業の特徴やその原因、エンゲージメントを高める施策について紹介します。
目次
人事領域における「エンゲージメント」とは?
人事領域においてエンゲージメントは、従業員の会社に対する「愛着心」「愛社精神」「思い入れ」を意味する言葉として用いられます。
一般的には「従業員エンゲージメント」と表現され、企業と従業員とがよい影響を与え合いながら、共に成長できる関係の構築を指します。
従業員エンゲージメントが高くなると、従業員が能動的に業務に取り組み、「生産性の向上」や「離職率の低下」など企業経営にプラスの影響をもたらすと言われています。そのため日本でも、エンゲージメントの向上を目的とした施策に取り組む企業が増えています。
エンゲージメントについて、詳しく知りたい方はこちらの記事も合わせてご一読ください。
日本企業におけるエンゲージメントは世界でも特に低い?
日本企業で従業員のエンゲージメントが注目され始めたのは、世論調査や人材コンサルティングを手掛ける米ギャラップ社が実施する、仕事への熱意度調査「エンゲージメント・サーベイ」で出た結果が背景にあります。
2017年に発表された調査結果によると、日本には「熱意あふれる社員」が6%しかおらず、調査対象の139カ国中、132位でした。エンゲージメントは、企業の生産性や業績と深い関わりがあるとされるため、日本の企業でもエンゲージメントを高めるべく、経営者や人事担当者が対策に乗り出しています。
(参考:日本経済新聞『「熱意ある社員」6%のみ 日本132位 米ギャラップ調査』)
エンゲージメントが低い企業の3つの特徴
エンゲージメントが低い傾向にある企業にはどのような特徴があるのでしょうか。問題点を洗い出してみましょう。
- 従業員の仕事に対するモチベーションが低い
- 離職率が高い
- コミュニケーションが円滑ではない
特徴(1)従業員の仕事に対するモチベーションが低い
エンゲージメントの低い企業では、従業員が仕事にやりがいを見出せず、モチベーションが低い状態で働いている傾向があります。
モチベーションの低い従業員の割合が多いと「ネガティブな発言をする」「無気力な状態で業務にあたる」など、職場に良くない影響を与えることもあるでしょう。
このような状況では、従業員は企業の進むべき方向を理解・共感できない恐れもあります。
特徴(2)離職率が高い
エンゲージメントの低い企業は、離職率が高い傾向にあるとも指摘されています。「この会社で働きつづけたい」という心理的価値が低いとも取れます。
つまり、給与や立地などの労働条件が良かったとしても、よりやりがいを感じられる仕事や志の高い企業へ移ってしまう可能性があると言えるでしょう。
特徴(3)コミュニケーションが円滑ではない
エンゲージメントの低い企業では、社内での円滑なコミュニケーションが行われていないという特徴も見られます。
上司や同僚と十分なコミュニケーションが取れない職場は、社員にとって「働きにくい」環境だと言えるでしょう。
業務で何かトラブルが発生した場合に、問題解決までに時間がかかったり、丁寧な対応ができなかったりと、顧客に対しても良いサービス・品質を提供できなくなってしまいます。
その結果、企業の売上や信用にも悪い影響を及ぼしてしまうと考えられます。
エンゲージメントを低下させる4つの原因
従業員のエンゲージメントはどのような原因によって低くなってしまうのでしょうか。エンゲージメントを低下させている4つの原因について解説します。
- 時間と賃金がリンクする「勤務時間制度」
- オーバー・コンプライアンスな企業姿勢
- 織の複雑化と仕事の細分化
- 職能型人事制度の採用
原因(1)時間と賃金がリンクする「勤務時間制度」
エンゲージメントを低下させる制度として、時間と賃金がリンクする「勤務時間制度」が挙げられます。
日本企業の多くが「9時~17時」などの勤務時間制度を採用しているため、優秀な従業員が「効率的に早く仕事を終わらせる」「業務改善を行って時間を短縮する」といった成果を出しても、決められた時間までオフィスにいなければ賃金を控除されてしまう仕組みになっています。
その結果、従業員は「決められた時間を満たすようにゆっくりと仕事を進める」ようになってしまうでしょう。
能力を存分に発揮する必要がない職場では、従業員のエンゲージメントも低下してしまうと考えられます。
原因(2)オーバー・コンプライアンスな企業姿勢
エンゲージメントが低い日本企業で起きている現象として、「オーバー・コンプライアンス(過剰法令順守)」があります。
社内外で何か起こるたびにルールが作られ、手続きやチェック、監視が増えていく企業姿勢を指します。
リスクマネジメントを目的としているとはいえ、過剰な規制を続けていると「意欲を持った従業員の挑戦が排除され、成功の喜びを味わえない組織」を作ってしまうことになるでしょう。
このような組織では、エンゲージメントの向上は望めなくなってしまいます。
原因(3)組織の複雑化と仕事の細分化
「組織の複雑化」と「仕事の細分化」もエンゲージメントを低下させる原因と考えられています。
組織が大きくなるほどに組織形態は複雑化し、縦割りになります。縦割りになると、他部署がどのような業務を行っているのかわかりづらい状況になり、仕事の細分化によって顧客の顔も見えづらくなるでしょう。
組織の複雑化は、必要な手続きやルールの増加、調整のために多大な時間を費やすことにも繋がります。
上司や同僚との「報・連・相」のコミュニケーションにストレスが多くなるだけではなく、誰のために仕事をしているのかわからない状態では、モチベーションも低下してしまいます。
原因(4)職能型人事制度の採用
現在も多くの日本企業で根付いている「年功序列」や「終身雇用」を前提とした職能型人事制度も、エンゲージメントを低下させる原因となっているようです。
職能型人事制度では、会社の人事異動で与えられる仕事に対応できる「汎用的な能力」が求められるため、専門性の高い仕事に対するプロ意識は希薄になっていくと考えられます。
エンゲージメントは、従業員のプロ意識に基づき、自分の使命や役割が明確化された職場環境で高まると言われています。
それぞれの強みや使命があいまいな環境では、プロ意識とともにエンゲージメントを高めることは難しいでしょう。
エンゲージメントが重要視されるようになった背景は?
企業においてエンゲージメントが重要視されるようになった背景には、どのような理由があるのでしょうか。
少子高齢化による人手不足
エンゲージメントが注目される背景には、人口減少による人手不足があげられます。
総務省統計局の「人口動態及び世帯数(令和4年1月1日現在)」によると、2022年1月時点の日本の総人口は、前年と比べて約62万人減少しており、経済活動を担う生産年齢人口(15~64歳)は約60万人減少しています。
一方で、65歳以上の高齢者人口は約16万人増加と過去最多となりました。
企業の人材獲得競争が激化する中、従業員のモチベーションを向上させ、企業の業績アップが期待できるエンゲージメントが今注目されているのです。
(参照:総務省「人口動態及び世帯数(令和4年1月1日現在)」)
転職希望者の増加
終身雇用の崩壊や年功序列の見直しに伴い「定年退職まで一つの会社に勤める」という労働観が変化したことで転職を希望する従業員が増え、優秀な人材ほどより好条件の企業に転職してしまう傾向にあります。
人材の流動性が高まる中、企業は自社の人材流出を防ぎ、定着率をあげるためにエンゲージメントの向上を重視しています。
価値観の多様化
従業員の働き方に対する価値観の多様化も、エンゲージメントが重要視される理由の一つです。
近年、働き方改革の推進や新型コロナウイルスの流行などの社会情勢の影響を受け、従業員のライフスタイルも変化しています。
多様な価値観を持った従業員に意欲的に働いてもらうためには、企業理念に共感し、働くことの意義を共有できる職場環境や、ワークライフバランスを重視した働き方を選択できる人事制度が必要です。
企業理念の理解を高めるためにも、エンゲージメント向上は重視されています。
エンゲージメントを高めるメリットは?
エンゲージメントを高めることで、企業が受けるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは主に3つのメリットについて紹介します。
- 離職率の低下
- 生産性の向上
- 顧客満足度の向上
離職率の低下
エンゲージメントの向上は、離職率の低下が見込めます。
エンゲージメントの高い従業員は自社への不満が少なく、仕事に対してのモチベーションが高い傾向にあります。
仕事にやりがいを感じたり、企業理念に共感したりすることで、企業に対する貢献意欲も高まり人材の定着が期待できます。
結果として、人員補充による採用コストの削減にもつながります。
生産性の向上
エンゲージメントの高い従業員が増えることで、企業に活気があふれ生産性の向上にもつながるでしょう。
エンゲージメント向上は、企業の営業利益率や生産性によい影響をもたらすという研究結果もあります。
従業員のエンゲージメントが向上することで、成果を上げるための行動が増加し業績アップも期待できます。
(参照:株式会社リンクアンドモチベーション「『エンゲージメントと企業業績』に関する研究結果を公開」)
顧客満足度の向上
エンゲージメントを高めることで、顧客満足度が向上します。
従業員が自社への愛着や信頼感から、自発的に業務に取り組めるため、商品やサービス品質向上につながるでしょう。
企業に対してよいイメージが定着することで、認知度が高まり人材の応募が増えるメリットもあげられます。
エンゲージメントを高める有効な施策とは?
エンゲージメントを高めるためには、「働きやすさ」「やりがい」「ビジョンの共有」「ミッションの明確化」の4点が良好であることが大切です。
この4点について有効な施策を紹介します。
「働きやすさ」を高める施策
「働きやすさ」は、ワーク・ライフ・バランスの推進によって高めることができるでしょう。
ライフスタイルが変化しても仕事と家庭を両立できるように、「テレワーク」や「短時間勤務」といった働き方改革の推進や、福利厚生などの制度の充実を行いましょう。
「やりがい」を高める施策
「やりがい」を感じる仕事や職場にするために、企業と従業員が納得できる適切な人員配置や人事評価制度の構築を目指しましょう。
リーダーシップのある人材を育成し、適正に評価することは、エンゲージメントを高める上で大きな意味を持ちます。
リーダーを育成するという観点で、「タレントマネジメント」は従業員個々の能力やスキルを最大限に活かすために有効な施策です。
また、人事評価では目標管理制度である「MBO」や、上司や同僚、部下など複数の立場から多角的に評価をする「360度評価」などを取り入れる企業も増えています。
「ビジョンの共有」で貢献意欲を高める施策
「ビジョンの共有」は、企業と従業員の目標がリンクし、自発的な貢献意欲を高めることに繋がります。
従業員に企業のビジョンを浸透させるためには、研修やOJTなどの人材育成はもちろん、マネジメント層の教育にも力を入れる必要があるでしょう。
他にも、全社員ミーティングを毎週実施して、会社全体のビジネスの状況をトップ自ら説明する場を設けることも効果的です。
社員全員が質疑応答できるなど「積極的な経営目標の共有・開示」を行い、エンゲージメント強化に繋げましょう。
「ミッションの明確化」で浸透度を高める施策
企業理念やミッションを明確化させ従業員に浸透させることも、エンゲージメントの向上に有効です。
経営のトップが主体となりミッションを明確にすることで、従業員の能動的な行動意欲を促すことができます。
エンゲージメントを高めるために有効な施策の事例については、こちらの記事も合わせてご一読ください。
エンゲージメントを測る方法は?
現在、エンゲージメントの計測方法で広く用いられているのはアンケート調査です。
エンゲージメントの推移を確かめるアンケート調査のことを「エンゲージメントサーベイ」と呼び、定期的にアンケートを実施して計測します。
従業員にいくつかの質問に回答してもらい、愛社精神の度合いを測ることで、課題を洗い出し施策へとつなげます。
以下では、エンゲージメントサーベイの流れと実施方法について詳しく説明します。
エンゲージメントサーベイの流れ
エンゲージメントサーベイの準備から課題解決までの流れを、6つのステップに分けて詳しく紹介します。
STEP1.実施目的の共有
まず、エンゲージサーベイを実施する目的を従業員に共有しましょう。目的を伝えずに実施すると従業員の不信感や不満につながり、満足のいく回答を得られないことも。あらかじめ実施理由や従業員側のメリットを伝えることで、自主的に回答しやすい環境を整えましょう。
STEP2.質問項目の決定
次に、質問項目を決めます。効果的な調査をおこなうためにも、質問意図がしっかり伝わる内容にすることが重要です。質問項目の作成は自社でおこなう方法と、外部委託する方法があります。
STEP3.実施
エンゲージメントサーベイを実施します。繁忙期の実施や頻繁な調査は従業員の負担となるため、4半期ごとなど、自社に合った適切なタイミングと頻度でおこなうのがポイント。 回答漏れを防ぐために、期限前にリマインドして回答を促しましょう。
STEP4.結果の分析、課題の明確化
回答を回収後、会社全体や部署ごとで集計・分析します。結果から企業や従業員の現状を把握し、人事上の課題を明確にします。
STEP5.課題解決のための人事施策決定
分析から見えた課題の解決に向けて人事施策を決定します。優先順位を設けてより重要な課題から着手しましょう。 従業員の理解と協力を得られるよう、施策内容を説明してから実施します。
STEP6.施策の効果測定
エンゲージメントサーベイを再度おこない効果を測定します。思うような効果が得られない場合は、別の施策を打ち出す必要があります。PDCAを回しながら改善に努めましょう。
エンゲージメントサーベイを実施する2つの方法
エンゲージメントサーベイは、自社でおこなう方法と、外部の専用サービスを利用する方法があります。それぞれのメリット・デメリットについて以下で紹介します。
メリット | デメリット | |
自社 | ・質問項目を自由に設計できる ・長期的なコストがかかりにくい |
・実施や集計・分析の手間がかる |
専用サービス | ・設計や分析の手間がかからない ・豊富な分析ノウハウをもとにしたサポートが充実している |
・コストがかかる ・質問項目の自由度が低い |
自社でおこなう場合、質問の項目や数を自由に設計できるのが魅力です。
専用サービスを利用するよりもコストを削減できますが、質問の設計から実施、分析・集計、施策の企画立案まで、一連の工程を自社でおこなうため手間や負担がかかります。
データから課題を洗い出し、具体的な施策につなげるのが難しいと感じる企業もあるでしょう。
一方で、専用サービスを利用する場合、コストはかかりますが手間と負担は軽減できます。
また、その道のプロによる経験やノウハウを活かした効果的なエンゲージメントサーベイが期待できるでしょう。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社に合った方法を選びましょう。
エンゲージメントを高めるにはコミュニケーションが鍵
従業員同士がお互いに尊重し合える質の高いコミュニケーションを取ることが、エンゲージメントを高める上で大切です。ここでは、エンゲージメント向上に活用できるコミュニケーション方法を紹介します。
心身の状態を毎日チェック
従業員のエンゲージメントを高めるには、日々のコミュニケーションが欠かせません。
「毎日10分程度の打ち合わせをする」「業務終わりに報告の時間を設ける」といった目的で面談を設定し、進捗だけでなく悩んでいることや困っていることなどを積極的に吸い上げるようにしましょう。
チャットツールを活用したコミュニケーションも有効です。
従業員の心身の健康をチェックするために「パルスサーベイ」を取り入れている企業もあります。2~3分で回答できる調査で、現在の心理状況をはじめ、直属の上司や職場に対する満足度などを知ることができるツールです。
アンケートや面談を定期的に実施
毎日のコミュニケーションだけでは情報量が少ないため、定期的にアンケートや面談も取り入れていきましょう。
月に1度といったペースで1on1などの面談を設定し、目標や課題をクリアするためのサポートを積極的に行います。
また、従業員のモチベーションやエンゲージメントを知るためのアンケートは、半年に1回から1年に1回程度のペースで実施し、従業員のエンゲージメントを正確に測るようにしましょう。
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「パルスサーベイ」や「エンゲージメントサーベイ」、日頃の感謝の気持ちをポイントとして付与しあう「ポジティブポイント」など、チームパフォーマンスを向上させるための機能が充実しています。
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まとめ
欧米企業の影響を受けて、日本でもエンゲージメントを重視する企業は増えていますが、日本企業特有の風土や制度によってエンゲージメントは低い状況にあります。
企業経営にプラスの影響をもたらすとされるエンゲージメントを高めるには、エンゲージメントを低下させている原因を把握した上で対策を講じることが大切です。
今回の記事を参考に、エンゲージメントを高める対策に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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