就職活動の早期化や売り手市場などを背景に、採用活動に力を入れている企業では「通年採用」が注目されています。
従来の新卒一括採用では人材の確保が難しくなってきている現在、新卒採用を成功させるためにはどのように通年採用を進めていけばよいのでしょうか。
今回の記事では、通年採用の概要や導入にあたってのメリット・デメリット、企業の導入事例などをご紹介します。
目次
通年採用とは?
通年採用とは、企業が一年を通して採用をおこなうことです。
季節や時期、新卒・中途を問わず、必要に応じて採用活動をおこないます。
欧米や外資系企業では一般的な採用方法ですが、日本では毎年同じ時期に新卒者を一定数採用する「一括採用」が主流とされてきました。
しかし近年は、新卒人材の獲得が難しくなってきていることもあり、海外留学からの帰国学生や外国人留学生、既卒者など、幅広い人材を対象とする通年採用の必要性が高まっています。
通年採用と一括採用の違いとは?
通年採用 | 一括採用 | |
特徴 | 一年を通して採用活動をおこなう | 同時期に一括して採用をおこなう 経団連の協定にならい、直近では採用広報解禁は3月、選考解禁日は6月 |
採用活動期間 | 通年 | 解禁日を皮切りに5カ月程度 |
内定辞退への対応 | 補完計画を立ててカバーしやすい | 補完が難しい 内定者フォローが重要 |
採用対象 | 新卒、第二新卒、既卒、留学生、海外の大学生 など幅広く対応 | 新卒予定者以外には対応しにくい |
「通年採用」と「一括採用」の大きな違いは、採用の活動期間です。
限られた期間に多くの学生を一度に選考する新卒の一括採用と違い、通年採用は一年を通して採用活動をおこないます。
一括採用では、多くの学生を比較し、自社に適した学生を効率的に選考できるほか、一度におこなうことで手間やコストを削減できるのが特徴。
新卒の通年採用では、学生同士の比較は難しくなる一方、応募のタイミングは学生次第となるため、学生一人ひとりと向き合いじっくりと見極められるのが特徴です。
通年採用と中途採用の違いとは?
通年採用と中途採用の大きな違いは、採用対象が異なるという点です。
中途採用は、社会人経験のある求職者が対象となります。
そのため、様々なスキルや経験を持った人材がいることが特徴です。
一方、通年採用は新卒・中途に関わらず、すべての求職者を対象とした採用方法を指します。
通年採用では社会人経験を問わないことから、年間を通して自由に応募しやすいことが特徴として挙げられます。
なぜ通年採用を導入する企業が増えたのか?
通年採用が拡大している理由として、「就活ルールの廃止」「就職活動の早期化」「グローバル化」などの影響があげられます。
2018年にこれまで就職活動のルールを主導する存在だった経団連が、就活ルールの指針廃止を発表。
これを機に、各企業が独自の考えで採用活動をおこなうようになったことも、通年採用が増えてきている理由の一つです。
また、政府主導のルールでは現在も選考開始を大学4年生の6月としていますが、若手人材を獲得するために各企業が採用活動を早期化させている点も影響しています。
さらに、近年はテクノロジーの発展により急速にグローバル化が進み、事業発展のためにも多言語を話せるグローバル人材の確保が重視されています。
しかし、海外と日本の大学では卒業時期が異なるため、一括採用だとグローバル人材に対応しにくいとの課題がありました。
このような背景もあり、通年採用は加速的に拡大していくと考えられます。
通年採用の現状
就職活動の短期化や売り手市場など、新卒採用市場が激化している現在、通年採用を導入する企業は年々増加しています。
就職みらい研究所によると、2023年卒の採用方法として通年採用をおこなった企業は26.7%、2024年卒採用では30.9%に上り、通年採用の実施割合が上昇しています。
また、2025年卒採用で通年採用を検討している企業は31.9%と、およそ3社に1社の割合で通年採用を検討していることが分かりました。
政府も企業に対して、多彩な人材の活躍の促進や、学生への多様な選考機会の提供といった観点から、通年採用の積極的な導入を促しています。
参考:就職白書2024・就職白書2023(就職みらい研究所)
通年採用の導入メリット(企業側)
通年採用の主な導入メリットを見ていきましょう。
- 学生と出会う機会を増やすことができる
- 時間をかけてより多くの学生を選考できる
- 既卒者や留学生などの多様な人材を採用できる
- 内定辞退が起きても補填できる
学生と出会う機会を増やすことができる
企業が通年採用を導入することで、多くの学生と出会えるメリットがあります。
短期決戦の一括採用と違い、通年採用は採用活動期間が通年のため、就職希望者もスケジュールに余裕が持てます。
他社との選考日の重複を避けることもでき、応募しやすくなるでしょう。
時間をかけてより多くの学生を選考できる
通年採用は、一括採用と比べて時間的な制約が少ないのが特徴です。
一括採用では出会いにくい学生との接触機会を増やすことができ、時間をかけてより多くの学生を選考できるのがメリットといえます。
また、結果を出す期限が決まっていないことで企業側は余裕をもって選考を進められます。
既卒者や留学生などの多様な人材を採用できる
通年採用では、一括採用では対応が難しい既卒者や留学生にも対応可能です。
各学生に合わせて選考できるため、グローバル人材や学外の活動を積極的におこなっている学生を採用しやすくなります。
多様な人材を採用すれば対応できる業務も増え、企業の成長にもつながります。
内定辞退が起きても補填できる
採用人数が目標に達しなかった場合、一度締めきった募集を再開するのは手間がかかります。
すぐに募集をかけたとしても学生は集まりにくく、内定者の補填は困難なケースが多いです。
通年採用では、必要な人数をその都度採用できるため、内定を辞退されてもすぐに補充対応ができるのもメリットとしてあげられます。
通年採用の導入デメリット(企業側)
通年採用はデメリットも踏まえた上で導入を検討しましょう。
想定されるデメリットを3つご紹介します。
- 採用工数や費用が増える可能性がある
- 採用広報が難しい
- 一括採用とのバランスの維持が必要
採用工数や費用が増える可能性がある
「通年採用」では、一年を通して採用活動をしている状態です。
応募者のピーク時期が読みにくく、面接担当者のスケジュールの確保など、必要な日程や工数を踏まえた年間計画を立てるのが難しい点がデメリットとなります。
また、求人掲載期間や選考期間も伸びるため、結果として担当者の負担やコストが増える可能性もあります。
採用広報が難しい
通年採用では採用広報が難しい点もデメリットにあげられます。
一括採用では就職活動期間に合わせて広報活動をおこなえますが、通年採用では企業から学生にアプローチしていくことが重要です。
認知度の低い企業は採用広報に苦戦する傾向があります。
既存社員に協力を呼びかけ、SNS上での情報拡散や自社に合う人材を紹介してもらうなどの工夫が必要です。
一括採用とのバランスの維持が必要
通年採用を導入する企業が増える一方、短期でスケジュール通りに就職が決まる一括採用を望む学生も多いです。
いつでも応募できる通年採用は「滑り止め」と考えられてしまう恐れもあります。
通年採用へシフトしすぎると一括採用希望の優秀な人材を逃す可能性があるため、一括採用も継続しつつ、バランスを維持しながら採用活動を進めるとよいでしょう。
「一括採用で人材を集め、足りないところを通年採用で補う」といった方法が、人材確保の成功ポイントです。
通年採用の導入メリット(学生側)
つぎに、通年採用における学生側のメリットを紹介します。
- ゆとりを持ったスケジュールで就職活動ができる
- 応募可能な企業数が増える
- しっかりと準備をしてから選考に参加できる
ゆとりを持ったスケジュールで就職活動ができる
通年採用のメリットとして、採用期間が定められていないため、学生側が時間にゆとりを持って就職活動に取り組める点があげられます。
従来の一括採用では、短期間で複数社に対して就職活動をする必要があり、プレッシャーに感じる学生も少なくありません。
通年採用では、時間的にも心理的にも余裕が生まれるため、慌てることなく一社ごとの選考に集中して参加できます。
応募可能な企業数が増える
スケジュールに余裕ができるため、応募できる企業が増えることも通年採用のメリットです。
一括採用では、「採用期間に帰国が間に合わない」「企業同士の選考期間が被った」などの理由から、応募を断念する学生が多く見受けられます。
しかし、通年採用では年間を通して就職活動ができるためスケジュールが組みやすく、より多くの企業に応募できます。
しっかりと準備をしてから選考に参加できる
入念な準備をしてから選考に臨めるのも、通年採用の特徴です。
エントリーシート作成や企業分析、面接対策など、事前準備のために十分時間を割くことができます。
学生はそれぞれの企業に合わせた対策をじっくりと進めることができる他、一社ごとの選考に専念できるため、納得できる就職活動がおこなえるでしょう。
通年採用の導入デメリット(学生側)
通年採用にはデメリットも存在します。
ここでは、学生における主なデメリットを2つ紹介します。
- 採用のハードルが高くなりやすい
- 能動的な情報収集が必要になる
採用のハードルが高くなりやすい
通年採用では、採用のハードルが高くなりやすいというデメリットがあります。
一括採用と比べて通年採用では、学生側だけではなく企業側にも時間的な余裕が生まれます。
企業側も学生一人ひとりの能力をじっくり見極める時間が持てるという特徴があるため、採用基準が高くなり一括採用よりも狭き門となる可能性もあります。
能動的な情報収集が必要になる
通年採用は、企業独自の日程でおこなわれるため、自身で一から情報収集しなければなりません。
就職情報サイトが充実している一括採用と違い、企業によってスケジュールにバラつきがあるため、エントリーシートの締め切りや面接日程など、他社と混同しないよう自身で管理する必要があります。
通年採用を成功させる重要なポイント
さまざまなメリットのある通年採用ですが、ただ取り入れるだけでは成果が出せるとは限りません。
ここでは、通年採用を成功させるためのポイントを4つ紹介します。
- KPIを明確に設定する
- 採用市場を幅広くとらえる
- 学生のスケジュールを把握する
- オンラインツールを活用する
(1)KPIを明確に設定する
まず、通年採用を導入するにあたり、目標達成の評価指標であるKPIを明確に設定します。
効率的な採用を実現するためには、一括採用やほかの施策と同様に、目標の達成状況を定点観測し、パフォーマンスの動向を把握することが重要です。
選考に時間をかけることが可能になる通年採用においては、採用人数よりも「選考辞退率」や「内定承諾率」など実際に採用できたかどうかを注視しましょう。
KPIを設定した上で、必要な広報戦略などの施策を実施し、ターゲットの母集団形成を目指します。KPIを明確にすれば、目標達成までの具体的な道のりが見えてきます。
進捗状況を見て、広報や採用プロセスの見直しを随時おこなうことで、通年採用のデメリットでもあるコストの増大を防ぐことも可能になります。
(2)採用市場を幅広くとらえる
新卒以外の人材もターゲットとなる通年採用では、一括採用と競合が変わる可能性があるため幅広い視点から採用市場をとらえる必要があります。
加えて、今後導入する企業が増えることが予想される通年採用では、これまでバッティングしなかった企業と競合するケースも出てくるでしょう。
さまざまなタイプの人材がターゲットとなることから、人材用件や募集条件、採用基準などの見直しも必要です。
自社の状況に合わせて、人材要件を広げたり採用基準を変えたりすることも検討しましょう。
(3)学生のスケジュールを把握する
通年採用は横並びのスケジュールで動く一括採用と違い、学生のスケジュールを把握することも重要なポイントです。
学生の傾向を調査・理解した上で、学生に合わせた採用計画を立てる必要があります。
長期休暇やテスト期間といったスケジュールに合わせたり、留学生や海外の大学生の卒業時期に合わせたりと、採用ターゲットのスケジュールを調査してそれぞれに対応しましょう。
応募者の状況に合わせて動ける通年採用のメリットを生かし、個別の事情に配慮しつつ関係性を深めていけば、採用につながる可能性は高まります。
余裕のある面接のスケジュール設定を組んだり、オンライン選考をおこなったりと応募者に寄り添いながら選考活動を進めることが、通年採用を成功させるポイントです。
(4)オンラインツールを活用する
オンラインツールの活用も、通年採用には欠かせない要素の一つです。
近年では、多くの企業が採用においてもオンラインツールの導入を進めています。
説明会や面接でWebミーティングのオンラインツールを活用すれば、地方や海外在住の学生でも参加しやすい環境を整えることが可能です。
学生はわざわざ企業に出向く必要がないため気軽に参加できることから、企業はより多くの学生と出会えるなど企業側にとっても大きなメリットがあると言えます。
また、採用効率を高めるため、管理ツールを導入する企業も増えています。
通年採用は、候補者への連絡業務など一括採用よりも担当者の負担が増すため、効率化を課題に感じている企業も少なくありません。
管理だけでなく、AIによる分析を選考の判断材料にするなど、新たなサービスの提供も進んでいるため、自社に合ったサービスを導入して効率化を図り、通年採用を成功させましょう。
通年採用の導入事例
通年採用を導入している企業の事例を紹介します。
自社で通年採用を導入する際の参考にしてください。
事例(1)学生主体の採用を実現
大手人材サービス会社は、2016年から新卒一括採用を廃止し、30歳以下を対象に「ポテンシャル採用」や「キャリア採用」を実施しています。
「就活の時期を固定することで、学生に本当にやりたいことを断念させてしまうのは非常にもったいない」という考えのもと、「学生が働きたいときに働く」という学生主体の採用環境を整えているそうです。
通年採用を導入することで、「第二新卒や既卒者に対して平等な機会を提供」「就職活動時期の多様化に対応」などの実績につながっているといいます。
事例(2)普遍的(ユニバーサル)な採用を導入
大手通信サービス会社では、企業が必要な時に必要な人材を採用するための手段として2015年から普遍的(ユニバーサル)な採用を開始しています。
新卒既卒を問わず、30歳以下のポテンシャル採用を導入しているほか、入社時期を4月、7月、10月と3回実施しているのが特徴。
世界でNo.1を勝ち取った経験者のみを対象とした採用枠を設けたり、就労体験型インターンシップを実施したりと、柔軟性のある選考をおこない、能動的な採用に取り組んでいます。
事例(3)通年採用と一括採用を併用
大手アパレル製造・販売会社では、2011年から新卒の一括採用と併用して通年採用を導入。通年採用では、将来の幹部候補生として「グローバルリーダー社員」の採用を目的に、新卒既卒を問わないポテンシャル採用をおこなっています。
入社時期は一括採用の3月と海外勢の人材を視野に入れた9月の年2回。
大学1、2年生でも選考を受けることができ、選考を通過した者には、3年以内ならいつでも最終面接を受けられる「FRパスポート」を発行するなど、早期に人材と接点を持てる仕組みづくりに切り替えています。
事例(4)職種別に通年採用を実施
大手インターネットサービス会社では2015年からエンジニア職の新卒一括採用を廃止し、職種別に通年採用を導入しています。
グローバル化に対応できる優秀な人材の採用に「新卒か、中途か」という区別は必要ないとの考えから、学生であっても挑戦でき、即戦力となる優秀な人材の採用をおこなっています。
年齢や職務経験、入社時期を限定しないことで、多様な価値観を持つ人材獲得を目指しているようです。
通年採用におすすめのツール
通年採用における効率化を図るうえでおすすめのツールをご紹介します。
OfferBox
OfferBoxとは、「豊富な登録学生数」と「適性検査」をかけ合わせた学生検索システムを取り入れ、学生に直接オファーを送る新卒採用向けダイレクトリクルーティングサービスです。
オファー開封率は89%と高く、「会いたい学生」に企業側から直接アプローチができるため、採用活動の最適化が可能です。
専任の担当者によるフォローも充実しており、自社の状況を考慮したオファースケジュールの策定も実施。
煩雑になりやすい通年採用の欠点を補い、優秀な人材獲得に貢献するでしょう。
sonar ATS
sonar ATSとは、各種オペレーションの自動化やデータ集計といった採用業務のデジタル化を通じ、採用活動の効率化を図る採用管理システムです。
サービス導入企業は、規模や業種を問わず1,700社以上の利用実績を誇ります。
新卒・中途採用といった垣根なく人材をストックできるため、通年採用に向けた採用施策としても活用可能。
応募者に向けた連絡も自動化でき、自社の採用担当者は面談などのコア業務に集中できます。
TRACE
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採用サイトを通して、就職活動をおこなう学生に自社の魅力を発信できます。
らくらく内定者フォローオンライン
らくらく内定者フォローオンラインとは、入社までの期間をアプリで手軽にサポートできるツールです。
内定者フォローオンラインでは、定期的なコミュニケーションや内定者への不安・疑問に向けたアンケートなどを実施。
企業と内定者が継続的な接触を持つことで、双方における安心感を構築できるといった特徴があります。
アプリで気軽に交流できるため、採用時期が異なる通年採用の内定者に向けたフォローもしやすくなります。
関連サービス:らくらく内定者フォローオンライン
まとめ
通年採用は一年を通して採用活動をおこなうため、「時間をかけてより多くの学生を選考できる」「既卒者や留学生などの多様な人材を採用できる」などのメリットがあります。
一方で「採用工数や費用が増える可能性がある」「採用広報が難しい」などのデメリットも考えられます。
今回の記事で紹介した企業事例やポイントを参考に、自社にとって効果的な通年採用について検討してみてはいかがでしょうか。
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