「縁故採用」とは、自社の社員や業務上の関係者からの紹介で人材を採用する採用手法の一つです。
縁故採用は、通常の採用フローとは異なるイレギュラーなケースも存在し、導入にはいくつかの注意点が必要ですが、企業にとってメリットも多数存在します。
今回の記事では、縁故採用のメリット・デメリット、導入事例を紹介するとともに、縁故採用と混同されがちなリファラル採用との違いについても詳しく紹介します。
目次
縁故採用とは
縁故採用の「縁故」とは、血縁・姻戚による深いつながりを指します。
縁故採用とは、血縁関係に加え、深い中の友人・知人、業務上の関係者の親族など、個人的なつながりを利用した人材を企業が採用することです。
一般的に「縁故採用」というと経営陣や一部社員による「コネ採用」というイメージを与えるかもしれません。
かつては、ネガティブなイメージで使われることもありましたが、採用難の昨今では、採用コストの削減や優秀な人材と出会える機会として、注目されている採用手法です。
縁故採用に法律的な問題や違法性はある?
民間企業における縁故採用には、法律上の違法性はありません。
しかし、国家公務員や地方公務員の採用において縁故採用がおこなわれた場合、地方公務員法および国家公務員法違反となります。
公務員の採用は、「受験成績や勤務成績、その他の能力の実証」によりおこなうことが法律で定められています。万が一、実証をおこなわない縁故採用で採用された場合、採用取り消し処分を受ける可能性も。
国家公務員の人事も同様に、能力本位で公正におこなう必要があると定められており、縁故や政治などにより影響を受けることは許されません。
採用において多様性や透明性が求められている現代では、縁故採用を禁止する企業も増えています。都市部の大企業のみならず、地方の中小企業やベンチャー企業、スタートアップ企業なども縁故採用の禁止に踏み切っているようです。
また、「コネ採用」というマイナスなイメージを持たれがちな縁故採用では、「公平性に欠ける」という不満が生じやすい傾向にあります。
トラブルを避けるためにも、募集要項に「社員や役員と三親等以内(子、兄弟、甥姪、孫など)の者は応募できない」と明記して応募を禁止したりするなど、厳しく規制している企業も増えてきています。
リファラル採用との違いとは
縁故採用と近い採用手法に「リファラル採用」があります。リファラル採用とは、自社の社員からの人材紹介や推薦による採用手法のことです。
縁故採用とリファラル採用それぞれの特徴を、共通点と相違点から見ていきましょう。
(1)自社社員「人のつながり」を採用活動に活かす
(2)紹介による採用のため応募者の企業理解が深くマッチ度や歩留まりが高い
(1)主導者の違い
縁故採用は紹介者主導で企業と候補者の接点を作る一方、リファラル採用は採用戦略の一貫として企業が主導
(2)選考フローの違い
縁故採用は入社を前提とした紹介が多く、通常の選考フローを介さない場合が多数。
一方、リファラル採用は通常の選考フローを経て採用可否を判断することが多い。
(3)採用基準の違い
縁故採用は、採用基準として紹介者とのつながりの深さが重視される一方、リファラル採用は候補者の適性や本人が持つスキルなどを重視する。
上記でまとめたように、縁故採用とリファラル採用では、採用までのプロセスと結果が異なります。
縁故採用の導入メリット
縁故採用導入には次のようなメリットが挙げられます。
採用人材の身元がはっきりしている
紹介者が「自社の関係者」であるため、経歴詐称のリスクが低いと考えられます。
また、人のつながりから採用をしていくことで、組織内の結びつきをより強くできる点がメリットとして挙げられます。
入社後の活躍に期待ができる
家族や親族など近しい間柄からの紹介であれば、紹介する人物が「仕事内容や社風に適正があるかどうか」のイメージがつきやすく、自社に適正な人物かどうかを判断できます。
また、紹介される側も企業体質や業務内容について事前に紹介者から聞けるため、入社後のギャップが少ないといえるでしょう。
入社後も紹介者によるフォローが想定され、組織や業務に早く慣れ即戦力として活躍が期待できます。
採用コストが削減できる
縁故採用は、求人サイトへの掲載費や人材紹介会社への紹介手数料を支払う必要なく、人材を獲得できます。
また、採用の難しい職種でも縁故採用を活用することで採用確率が高まることもメリットの一つです。
採用・選考にかかる時間を短縮できる
一般的な採用や選考は、準備期間も含めると長期的な時間と手間を要します。
一方、縁故採用は、候補者が役員や社員の知り合いであることから、選考や採用に関する連絡はもちろん、入社までの手続きが円滑に進みやすいという特徴があります。
選考時は、候補者からの自己紹介や会社に関する説明を最低限にすることも可能。採用フローの簡素化にもつながり、採用担当者が選考にかける作業工数の削減も期待できます。
内定辞退・早期退職のリスクを低減できる
紹介者を介した採用は内定辞退や早期退職のリスク低減にも効果的です。
候補者は、紹介者から自社の実情を聞き「自分の希望に本当に合致しているのか」を事前に判断ができるため、入社時のミスマッチが生じにくいのが特徴です。
さらに入社後においても、悩みが生じた際などに紹介者が相談役を担うことができます。候補者の性格や考え方を考慮したフォローができるため、継続的な就労が期待できるでしょう。
縁故採用の導入デメリット
縁故採用には複数のメリットがありますが、次のようなデメリットもあるため注意が必要です。
採用計画が立てにくい
縁故採用は、求人広告や人材紹介を活用した場合と比べ、応募人数の見込みが難しいです。
そのため、組織が必要とする人数確保のための採用計画を立てにくいというデメリットがあります。
また、紹介から入社までのタイミングが予測できないことから、緊急性の高い新規プロジェクトや欠員募集では縁故採用を利用しにくい点もデメリットといえます。
既存社員がネガティブなイメージを持つ可能性がある
縁故採用は、周囲から「コネ入社」と認識される場合もあり得ます。
通常の選考や面接を経て採用された既存社員の中には、不公平感から、縁故採用で入社した社員に対してネガティブなイメージを持つ可能性も考えられます。
縁故採用で入社した人材が、採用後にスキルや能力不足と周囲から見られないよう、採用側は注意が必要です。
紹介者との関係に配慮が必要
縁故採用では、紹介者と採用者の「個々の関係性」に注意すべきです。
身内や関係者を同じ職場に採用することは、メリットとなる場合も多くありますが、反対にその人間関係がマイナスに働くことも考えられます。
セクハラやパワハラなども含め、紹介者と採用者との関係性から生じるパワーバランスや人間関係に組織として配慮が必要となります。
不採用にしづらい
縁故採用の運用ルールが明確に定められていないと、紹介された候補者が会社の採用基準を満たさない場合でも、紹介者との人間関係やビジネス上のつながりを背景に不採用にしづらいことも挙げられます。
また採用後、スキルや能力不足を理由に異動や処遇変更があった場合、紹介者と企業側のトラブルに発展するなどの懸念も考えられるでしょう。
大量採用や複数ポジションの募集には不向き
縁故採用は社員の伝手を頼るという特性上、多くの人材を集めにくいといえるでしょう。
他の採用方法と比べると、いつまでに何人候補者が集まるといった見通しが立てにくい傾向にあるため、大量採用や複数のポジションでの募集は難しいです。
多くの人材確保を計画する場合は、縁故採用だけでなく複数の採用チャネルを取り入れ、必要な人数を確保できる対策を検討しましょう。
多様性を持った組織には不向き
縁故採用は、紹介者と似た性質を持つ人材が集まりやすいため、多様性を持った組織を形成したい場合には不向きな傾向にあります。
多様性はビジネスにおいて、企業の競争力強化や創造力向上といった観点から不可欠です。既存社員の性質が多様性に欠ける場合には、縁故採用の導入は慎重に検討しましょう。
縁故採用をおこなったほうがよいケースとは
メリット・デメリットを踏まえた上で、縁故採用を導入したほうがよい主なケースを2つ紹介します。
(1)応募者が集まらない場合
求人サイトや人材紹介会社を通して採用活動をおこなっていても応募者が集まらない場合、縁故採用が効果を発揮できます。
人材獲得競争が激化している昨今において、人手不足は深刻な課題です。従来の採用チャネルにプラスして縁故採用を取り入れることは、一人でも多くの候補者に出会えるきっかけになります。
人材を紹介してくれた自社社員に、インセンティブとして報奨金を支給し縁故採用を促進している企業もあります。新たな「攻め」の採用手法の一つとして、自社の社員や役員の伝手を頼り、人手不足解消に役立てましょう。
(2)社員の離職率が高い場合
採用した社員が入社から半年や一年で辞めてしまうなど、社員の定着に課題があり、離職率が高い企業は縁故採用の導入をおすすめします。
縁故採用であれば、候補者は実際に企業で働いている紹介者から説明を聞いた上で「自分に合っているかどうか」を判断します。
紹介者も候補者の人となりを理解した上で紹介するため、採用後のミスマッチが起こりにくい傾向にあるのです。
また、入社後も紹介者にフォローをお願いして、業務面や人間関係などの不安を軽減することで人材の定着率アップが期待できます。従来の採用手法による人材定着に苦戦している企業は、縁故採用の導入を積極的に検討してみてください。
縁故採用の導入までの流れ
企業が縁故採用を導入し、採用を成功させるには手順に沿って準備をすることが重要です。縁故採用の導入までの流れは次の通りです。
(1)運用ルールの決定
制度としての枠組みを整えましょう。「ターゲットとする人物像」「紹介対象の人物要件と、対象外の人物要件」「紹介報奨制度の有無」などもルールに含めます。
(2)社内告知
社内に制度を浸透させます。継続的に働きかけ、社内での理解を深めましょう。問い合わせ先についても周知します。
(3)募集開始
募集時のポイントとして、「私の知人にこんな人がいる」というような相談ベースの紹介も可能にします。いきなり本エントリーとなると紹介者も応募者もハードルが高くなるためです。
(4)選考開始
一般的な選考フローとは異なる場合もあります。書類選考の免除や顔合わせのみで選考するケースも考えられます。自社にあう方法を検討しましょう。
(5)採用
通常の採用フローと同じく内定通知~入社手続きをおこないます。
縁故採用を成功させるために注意すること
縁故採用を成功させるためには、入社者に対する適切なフォローが必要不可欠です。
縁故採用された入社者を特別扱いするのではなく、既存社員や一般入社による社員と同様に接することが大前提となります。公平に接する旨は、縁故採用された入社者や紹介者に対して事前に説明し、理解を得ておきましょう。
紹介者の役職が高いなどの理由から業務内容や待遇をほかの社員と差別することは、社員間に摩擦が生じるだけでなく、既存社員が企業に対して疑念や不満を抱く原因になってしまいます。
最悪の場合、人材流出につながる可能性もあるので、いかなる場合においても特別待遇は避けるべきです。
また、人事担当者や管理職は、既存社員に対しても配慮が必要です。縁故採用された入社者と、既存社員や一般入社の社員の人間関係が悪くならないよう注視しておきましょう。
仕事を指導する立場の社員が、接し方に戸惑うなど無用な気を遣う必要がないよう、一般入社の社員と同様に指導できる環境を整えることも人事や管理職の大事な役割です。
公平性を担保するために、あらかじめ明確なルールを定め、縁故採用による入社者の配属先に共有しておくなどもよいですね。
他の採用手法と並行しておこなうのも効果的
縁故採用は、自社で働く社員が、候補者の資質や能力を見極めたうえで自社を紹介するため、合理的な採用方法です。
しかし、縁故採用だから必要な人数が必ず確保できるとは限らず、候補者が1人も集まらないといったケースも考えられます。
縁故採用は、採用計画が立てにくく継続的な採用は見込みにくいため、「採用手段の一つ」という認識のもと、他の採用手法と組み合わせて実施すると効果的でしょう。
縁故採用に代替する採用手法
縁故採用と似た採用手法に「リファラル採用」と「アルムナイ採用」があります。それぞれの特徴について以下で紹介します。
リファラル採用
リファラル採用とは、自社の社員に自社で活躍できそうな知人や友人を紹介してもらう採用手法です。
業務内容だけでなく、社風やカルチャーなども理解している自社社員からの推薦のため、ミスマッチの軽減や採用のコストカットなどのメリットがあります。
リファラル採用の場合、紹介者との関係性を重んじて選考する傾向のある縁故採用と違い、通常の採用試験や面接を経て採用に至るケースが多く、選考過程や選考基準は通常の採用プロセスと同様におこなうのが一般的です。
労働人口の減少が叫ばれる中、従来の採用手法では「自社が求める人材に出会えない」といった悩みを抱える企業は少なくありません。人手不足を解消すべく、ダイレクトリクルーティングの一環としてリファラル採用を積極的に取り入れている企業も多いです。
アルムナイ採用
アルムナイとは、「卒業生」「同窓生」を意味しており、人事領域においてはその企業を退職した「元社員(OG・OB)」のことを指します。
このアルムナイを「貴重な人的資源」として捉え、継続的にコミュニケーションを取りながらよい関係性を構築し、再雇用につなげる採用手法を「アルムナイ採用」と言います。
アルムナイ採用は、自社を理解している人材が確保できたり、採用や育成コストを削減できたりといったメリットがあります。
加えて、たとえ採用に至らなかったとしても、業務委託や業務提携など信頼できるパートナーといった新たな関係性を築けるほか、顧客になる可能性もあるなどさまざまな観点からのメリットもあります。
人材の流動性が高まる中、スムーズな人材確保の有効的手段としてアルムナイ採用を導入する企業が増えています。
縁故採用を成功させるために準備しておくこと
縁故採用を成功させるためには、既存社員の協力が不可欠です。「なぜ縁故採用をおこなうのか」、その目的を共有し社内に浸透させましょう。
社内への理解を促し、制度としての調整をおこなっておくことが重要です。
採用後も、縁故採用で入社した社員と既存社員が問題なく働けるよう配慮し、社員全員が活躍できる環境をつくりましょう。
また縁故採用は、制度開始後からすぐに効果を得るのは難しいケースが多いです。
運用前の社内調整・周知に加えて、運用開始後はPDCAを回し改善していく必要があります。そのためには、振り返りのためのKPI設定、体制構築も合わせて実施していくことが重要です。
縁故採用の導入事例
縁故採用を活用している企業は、どのようなケースがあるのでしょうか。縁故採用による採用に成功した事例を紹介します。
事例(1)飲食業界での縁故採用
慢性的な人手不足の状態にあった飲食業界のA社では、新卒社員・中途社員の採用に苦戦を強いられていました。
さらには店舗で働くアルバイトの確保も難しい状況にあり、人材不足が深刻化。そのような状況を改善するための採用強化策として、縁故採用を導入し採用成功へとつながっています。
店長を中心として縁故採用の情報を共有・発信していくことで、店舗の安定運営が可能になりました。
事例(2)IT業界での縁故採用
ITエンジニアの人材不足は大きな課題となっています。
IT関連のB社は、優秀なエンジニアを獲得するために、正社員の半数以上を縁故採用で獲得している実績があります。
IT業界においては、実務経験や求める言語の経験者を獲得するために縁故採用は非常に有効です。紹介による採用制度だからこそ、良質な人材の確保・定着につながり、事業の成長に大きく貢献しています。
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まとめ
企業の採用活動が売り手市場で人材不足の今、求人に応募が集まらず頭を悩ませている企業も少なくありません。
これからは、自社に最適な人材と出会う手段の一つとして、縁故採用を取り入れる企業が増えていくと考えられます。
今回の記事を参考に、自社でも縁故採用の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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