更新日時:
妊娠・出産しても働きたい!NPO法人ArrowArrowの海野千尋さんの企業と個人をつなぐ取り組み
「実はバリキャリと言われることに違和感があるんですよね(笑)」
そう笑って話すのは、中小企業向けに産育休取得に向けてのコンサルティングサービスや女性活躍研修を提供するNPO法人ArrowArrowの代表理事を務める海野千尋さん。
一児の母でありながら、NPO団体の代表理事のほか、3つの団体や組織などに従事し、現在は4つの仕事を兼務する、働く子育て中の女性です。プロフィールだけを見ると「バリバリ働くキャリアウーマン」という印象がありますが、ご本人は「バリキャリ」と言われることには違和感があるそう。
「バリキャリでなければ子育てと仕事ができないように見られている。そういう風潮がなくなって、選択したい人が普通にできるような社会になれば良いなと思っているんです」と話す海野さんに、ArrowArrowでの活動や、ご自身が妊娠・出産を経て復職して感じた仕事への想いなどをお聞きしました。
海野さん流・働く子育て中の女性へのアドバイス
- 妊娠、出産で仕事を続けるかどうか選択できる社会になってきた
- 育児と仕事の両立支援制度など、法律が整備され当事者として声を上げやすい社会になっていることを知ってほしい
- 子育てしながら仕事で無理をすると限界がくる。自分の働き方を見直してみよう!
- 子育てと仕事の両立の悩みを、周囲の人に伝えて悩みを動かしていくのが大事
話を聞いた人
NPO法人ArrowArrow 代表理事
1981年生まれ。2011年の東日本大震災をきっかけに自分の生き方を見つめ直し、現在はArrowArrowの代表理事を勤めるかたわら、ほかに3つの団体・組織・チームなどに従事。N女/任意団体ALTメンバー、キャリアのこれから研究所メンバー、自由大学 ネオ・ファミリースタイル学キュレーター、働くことに関する編集・ライターとして活動中。
http://arrowarrow.org/
ArrowArrow公式Twitter
もっと見る 閉じる
ArrowArrowは企業と従業員の「困った!」をサポートするNPO団体
(出典:NPO法人ArrowArrow)NPO法人ArrowArrowはどんな活動をされているんですか?
ArrowArrowは2011年から法人化しました。私たちのビジョンは「子育てや介護などの理由に左右されない、選択肢あふれる社会を作りたい」ということです。裏を返せば、今はそういう社会じゃないということに課題感をもっているNPO団体です。
2011年当時は、「働き方改革」も「女性活躍推進法」もなくて、女性は「働くか、子どもを産んで辞めるか、どっちかだよね」という風潮が今に比べると強かった時代でした。
当時、私はまだ中小企業で働いていましたが、「妊娠や出産で辞めていく」、「結婚では仕事は辞めないけど、もっと働きやすい職場に転職する」というのがスタンダードだった印象です。
でもArrowArrowの創立者は「そんな社会がほしいわけじゃない。妊娠・出産した後でも働き続けたいと思っている人が働き続けられるような環境を作った方がいい」という想いから、ArrowArrowの活動を始めました。当時、いわゆる大企業は少しずつ制度が整い始めて出産後でも復帰できる女性が増えていましたが、中小企業はまだまだ制度が整っていなかったんです。
でも、日本の社会って90%以上が中小企業ですよね。そこで、中小企業で働く女性たちが「出産後に復帰できる環境作り」を企業と一緒に考えていくという事業から始まりました。
ある企業の例を挙げると、「うちの会社で産休・育休を取る女性社員が出てきたけど、今まで誰もそういった人がいなくて、どうしたらいいだろうか」というような相談を受けました。
そういう企業に向け「短時間勤務」「業務の改善」「周りとどう調和していくか」という課題を洗い出しながら、企業と個人の間に入って一緒に考えていくような産育休取得コンサルティングというサポートをしています。
ほかにも「女性のキャリアの研修を作ってください」というような要望や、働き方自体を考えていきましょうという研修なども行なっています。
妊娠・出産を経て復帰する女性たちが抱えている問題は、どんなことが多いのでしょう?
じつはこの10年で働く女性たちの課題や問題は細分化されてきていると感じます。
これまでは「働きたいけど続けられない」という人が圧倒的に多かったんですが、今は育休取得後に復帰する人たちも増えてきました。
復帰する人が多いがゆえに、「自分の会社で復帰できるのかわからない」「短時間勤務で働くことに対してモヤモヤする」「短時間勤務なので評価されなくて困っている」など、みなさんが抱えている問題は本当にさまざまです。
これまで復職したくてもできなかった状況からみたら、今の時代は大きく前進したといってもいいと思います。でも復職する人が増えたからこそ、悩みが細分化していると感じています。
それと、この10年で大きな進歩のひとつは男性側の意識がかなり変わったことです。男性も、子育てに関わりたいという人、子育てしながら仕事をしたいという人が増えてきました。今は働く女性だけでなく、男性たちの働き方の多様さについても考える必要があります。
人を助けることを仕事にしていて、社会の問題に取り組む人たちがいる
海野さんがArrowArrowに参画したきっかけを教えてください
私がArrowArrowに参画したのは2013年からです。
私自身が課題の当事者で、自分がやりたい仕事の先に、妊娠・出産、仕事と、どちらもやっている人が当時はいなかったんです。では私は働く方を取ろうと思っていましたが、いわゆる適齢期になり、周りが結婚や出産しているのを見ていくなかで、「本当にそれでいいんだろうか?」と、ふと立ち止まりました。
大きなきっかけになったのは2011年の東日本大震災です。震災当時は体調を崩して前職を退職していて、無職でした。過労で退職したこともあって、「自分にとって働くとはなんだったのか」と自問自答している時期でもありました。そんな時に震災が起きて、「これから先どうやって生きていこう」と考えるようになりました。
また、震災ボランティアとして被災地に行ったのですが、そこでNPOで活動する人たちに出会いました。「人を助けることを仕事にしている人たちがいるのか」という大きな気づきがありました。
ArrowArrowに出会ったのは、その後です。ボランティア先でNPOの活動にふれたことで、自分でもアンテナを広げていたんですよね。「どうやって生きていくか」というテーマのArrowArrowのイベントがあって、そこに参加したことが始まりです。
ArrowArrowが「海野さんのモヤモヤした気持ちは個人の問題ではなくて、社会の、日本の課題なのですよ」と『女性の年齢階級別労働力率(M字カーブ)の推移』のデータを見せてくれたんです。「じゃあその問題をなんとかしたい」と思ってしまったのですよね。
ArrowArrowに参画する前は海野さんご自身はどんな働き方をされていましたか?
ArrowArrowに参画する前は、広告代理店を経てITベンチャーで働いていました。当時はハードな働き方をしていたので、そんな生活を続けていたら過労で倒れてしまって、結局退職したんです。
自分で体調のバランスがおかしくなっていることがわかっていなかったのか……。でも今考えると、わかっていたけど止められない精神状態だったのだと思います。それが2010年の秋でした。
無職の時期に東日本大震災が起こりました。ボランティアへ行くにしてもお金が必要で、働いてお金を得なければと思い、派遣の仕事を始めました。
大学事務の仕事をしたのですが、働く時間がきっちり決まっていて、定時になるとみなさんちゃんと帰るのです。今まで「決められた時間で仕事を終えて帰る」という働き方を自分自身はしたことがなかったので、驚きました。
働きながらでも、自分の趣味に時間を費やして、新しい情報をインプットするということができた時間でした。
育休明けに復帰して変わった、仕事に対しての意識
妊娠・出産を経て、仕事に対しての意識がどう変わりましたか?
私の場合、妊娠・出産はArrowArrowに参画した後だったので、自分が当事者になる前から両立できる環境が周りには常にありましたが、やはり自分が当事者になって仕事に対しての意識は変わりました。
一番変わったのは「組織として自分は何ができたらいいのか」と、目線が個人から組織に変わったことですね。
育休から復帰した後、凹んだことがあります。
出産して復帰した後は、当然これまでみたいに際限なく働くことはできなくなりました。でもやりたい仕事はあるし、自分にはできるという自負もある。ある会議のときに担当が決まっていなかった案件で「私やりたいです」と手を上げました。でも当時の代表に「いや、それはやめよう」と言われたのです。
あとから代表に、「やらなくていいと言われたことはモチベーションを下げる言葉でした」と伝えました。
代表からは「今の働き方が、私は信用できないんです」と言われました。続けて、「十分やっていることは理解している。その上で、私はあなたにこの仕事をやってほしいのではなく、ArrowArrowとしてこの仕事が前に進むことに一番優先度を高く置きたい。あなたがやることは絶対ではない。組織として前に進むという目線をもってほしい」と。
最初は受け入れられませんでした。なぜなら個人の目線しかもっていなかったから。冷静に振り返ってみて「自分の働き方」にこだわっていたんですよね。
私は子どもを0歳児から保育園に預けており、病児保育なども利用しながら復職していました。0歳児だった子どもはよく体調を崩しており、いつ子どもが体調を崩すかわからないという状況の中、がんばって働いていることを認めてほしい、という想い。でもそれは本当に私の目線でしかないということに気づきました。
ArrowArrowとして考えたら「海野さんじゃなくていい、誰がやってもいい、もしかしたらやらないと決めることも組織の進化につながるのかもしれない」ということに気づいたんですよね。
すでにいっぱいいっぱいになっている自分が見えていないなかで、さらに仕事を入れたら自分を苦しめるということを周りはわかっているのに、自分だけ気づけていませんでした。周囲も「がんばっているから言ったら傷つけてしまいそうで言えない」という状況で。その状況が組織のためになっていないことに気づけないくらい、当時の私は冷静ではありませんでした。
「一回止まって、自分が組織にとって何ができるかを考えてみて」と言われて、そこから自分がやるということにこだわらなくなり、組織としてどうなのか、と考えられるようになりました。
子育て中の人も、そうじゃない人も、誰もが働きやすい社会に
ArrowArrowとして今後社会にどんな働きかけをしていきたいですか?
今は仕事と子育ての両立支援という面で、子育てしながら働いている人たちが声を上げやすい状況になっていると思います。でも、そうじゃない人たちにしわ寄せがきている会社があることも事実です。
それぞれ見えている景色が違うので、みんなが自分の声を会社のなかで出していいのではないかと思います。「困っている」ということを子育て中の人に限らず、誰もが開示できる環境にしていくことが働きやすさにつながると思うんです。
ArrowArrowでは「社員!Shine!」という取り組みをしています。“組織と個人、両者がキャリアをデザインすることを考える”というテーマのもと、対話やワークショップを中心として、どんな課題があるのかをお互いが伝え合っていくという研修です。
結婚・妊娠・出産をしていない人たちも同じように「働き方」について問題を声に出して、等しく問題を解決していける環境作りを目指していきたいですね。
妊娠・出産というライフイベントがあっても選択できる社会になってきた
子育てと仕事の両立で悩んでいる人たちに伝えたいことはありますか?
子育てと仕事の両立……悩みますよね。その悩んでいることを、少しでも周りに話せるといいですね。
「ワンオペが苦しいです」とパートナーに伝える、「時短勤務で評価されないことに憤っています」と上司に伝える……。悩んでいるなら、少しでも小さくても外に出して、悩みを動かすようなことができていければいいなと感じますし、もし悩みがあったら私たちArrowArrowに相談してほしいです。
出産した後、仕事をどうしようか考えている人に伝えたいのは、「選択肢を広げて、自ら動こう!」ということ。
子育てしながら働くための両立支援は法制度としてもさまざまに変わってきましたし、ダイバーシティに取り組む企業も増えてきましたので、当事者としても声をあげやすくなってきているように感じます。
「あきらめる」という状況から、自ら選択肢を広げることができるようになってきたと思っています。そしてアクションをしていくこと。パートナーにどう伝えるか、会社にどう伝えていくか、自分の働き方をどう変えていくか、だと思います。
できれば一緒に、そういう社会を変えていきましょう!
話を聞いた企業 | NPO法人ArrowArrow |
---|---|
公式サイト | http://arrowarrow.org/ |
創立 | 2011年 |
事業内容 | 企業向け事業 産休!Thank you!プログラム 社員!Shine! 面談シート「ライト・ライト」 ライフイベントと”働く”のパラレルスキル見える化 個人向け事業 中小企業ワークスタイル研究会 正会員・賛助会員について ライフイベントと”働く”をデザインする「働き方デザイン本」 その他 講演会 ママインターン |