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全国初の掘削を学ぶ「掘削技術専門学校」で学び直し新たなキャリアを切り開く
地球温暖化対策として脱炭素化が急務となる中、クリーンで持続可能な再生可能エネルギーのひとつとして地熱発電が注目を集めている。
地熱発電は、地下深くに存在する熱水や蒸気を利用するため、二酸化炭素の排出量が少なく、天候に左右されずに安定的に電力を供給できるのが特徴だ。さらに、国内に豊富に存在する地熱資源を活用でき、エネルギー自給率の向上にも期待できる。
地熱発電を実現するためには、地下深部までの掘削が欠かせない。この掘削技術は高度な専門知識と経験を必要とするため、人材育成が重要な鍵となる。
<掘削技術専門学校の詳細>
掘削技術を学ぶ全国初の専門学校で若手技術者を育成へ
2022年4月、北海道白糠町に全国初となる掘削技術専門学校が開校し、同月11日には白糠町社会福祉センターで入学式が行われた。新たなスタートに緊張と不安な表情を浮かべながらも、希望に胸を膨らませた1期生4名が新しい一歩を踏み出した。
同校は、地熱発電に必要な掘削技術の習得に特化したカリキュラムを通じて、掘削のプロフェッショナルの育成を目指す。
地熱発電のみならず、二酸化炭素地下貯留や地中熱利用など幅広い分野で掘削技術のニーズは高まっているが、技術者の平均年齢は50歳を超え高齢化が進んでいる。
熟練技術者の引退が相次ぐ一方で、若手の入職者は少なく技術継承が困難な状況となっているのだ。
同校の教務部長でロータリー掘削の専門家である島田邦明さんは、若手技術者の育成が急務だと訴える。
「掘削技術は、机上の学習だけでは身につかない経験に基づくノウハウが不可欠です。
しかし、業界の認知度の低さや教育機会の不足などにより、若手の就業者が少なくなっています。また、掘削現場は遠隔地であることが多く、家族との時間が取りづらく、交替勤務があるなど、働き方の課題も山積みです」
エネルギー業界の持続的発展のためには、若手技術者の育成が欠かせない。掘削技術専門学校の開校は、地熱発電の普及に向けた大きな一歩といえるだろう。
掘削技術者の育成により、地熱発電のコストダウンや効率化が期待できるほか、国内の地熱資源の有効活用にも期待できる。
掘削技術専門学校では3つのコースを開講
掘削技術者不足と技術継承の課題解決を目指す掘削技術専門学校では、「ロータリー掘削コース」「スピンドル掘削コース」「掘削管理者養成コース」の3コースを用意。いずれのコースも1年間の短期集中カリキュラムで構成されている。
「ロータリー掘削コース」は、油田や地熱開発など、エネルギー資源開発の主力となるロータリー式掘削機の操作と管理に特化したコースだ。
基礎理論から最新の掘削技術まで、実践的な知識とスキルを習得できる。ロータリー掘削は、油田や地熱開発などのエネルギー資源開発で主に用いられる掘削方式。
前期では、掘削技術の基礎や地熱岩盤工学概論、地質学の基礎などの知識を重点的に学び、後期では掘削シミュレーターを用いた実習も行う。掘削技術専門学校は、日本で唯一、掘削シミュレーターを導入している教育機関だという。
「スピンドル掘削コース」では、鉱山開発や土木工事で用いられるスピンドル式掘削機の運用に必要な技術を学ぶ。さまざまな地層や条件下での掘削方法を習得し、安全かつ効率的な掘削作業の遂行を目指す。
3つめの「掘削管理者養成コース」は、掘削現場の管理・監督を担うエンジニアの育成に重点を置いている。掘削計画の立案から、現場の安全管理、トラブルシューティングまで、管理者として必要な知識と指導力を身につける。
座学や実習では、第一線で活躍したベテランから、最先端の研究に携わる研究者まで、様々なバックグラウンドを持つ講師陣が指導を行う。理論と実践の両面から、質の高い教育を提供できる体制を整えているのだ。
「当校のカリキュラムは、現場で必要とされる技術を確実に身につけられるよう設計されています。1年で専門知識・技術を学ぶのは大変ですが、日本のエネルギー自給の課題解決に役立つ技術者を育成するという使命感を持って取り組んでいます」と島田さんは述べ、業界のニーズに応える教育体制の強化を進めている。
また、同校の実習設備の充実ぶりは業界でも注目を浴びている。「本校には、最新の掘削シミュレーターが導入されており、様々な条件下での掘削作業を疑似体験できます。
実際の掘削現場を再現した実習フィールドも完備しており、これらの機材は20社を超える企業から無償提供されたものです。最新設備でトレーニングを積むことで、現場ですぐに活躍できる人材を育成しています」
掘削技術専門学校では学び直しやキャリアチェンジを考える社会人経験者の入校者が増加
学び直し(リスキリング)を希望する社会人にとっても魅力的な環境だと島田さんは言う。
「近年、キャリアチェンジを考える方や、エネルギー業界で活躍したいと考える他業種の方の入学が増えており、在学生の6割が社会人経験者です。新たな分野へチャレンジする社会人を支援するため、個別の就職サポートにも力を入れています」
業界との連携も深く、卒業後の就職先として大手資源開発会社や掘削関連企業とのパイプを持つことも同校の強みだ。島田さんは、「掘削技術専門学校で学んだ知識と技術は、卒業後も長く活きるものです。業界のニーズに応え、イノベーションを担う人材を輩出していきたい」と展望を語った。
実践的なカリキュラムと充実した設備、サポート体制が、新たなキャリアを目指す人々を後押ししている。同校で学んだ技術者たちが、エネルギー業界の未来を切り拓いていくだろう。