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料理用チーズ専門店「Cooking Cheese」の想いと挑戦
都心から電車で約1時間、閑静な住宅街が広がる練馬区に料理用チーズ専門店「Cooking Cheese」がオープンした。
店内には、一口サイズのチーズやオリジナルブレンドのミックスチーズがずらりと並ぶ。店主・佐藤陽呂美さんが厳選したチーズを買おうと、近所の人がひっきりなしに訪れ慣れた様子で注文していく。
30年以上、チーズ事業に携わってきた佐藤さんだが、根っからのチーズ好きというわけではない。では、なぜチーズ専門店を始めることになったのだろうか。
チーズの普及とPR活動に尽力
佐藤さんは、地元・熊本県で百貨店のウィンドウディスプレイをするデコレーターの仕事をしていたが、もっと大舞台で仕事をしたいと思うようになった。キャリアアップを目指して上京し専門学校に入学したが、デコレーターの道を断念。
専門学校を卒業後は、都内のPR会社に就職。プレスリリースの作成・配信、イベント・セミナーの企画・運営、広報コンサルティングなどの広報活動を通じて、プロモーションの面白さに惹かれていった。
数多くのプロモーションを手がける中で、佐藤さんが最も興味を持ったのが、「チーズフェスタ」の広報活動だった。チーズ販売や料理の試食など、チーズ好きにはたまらないイベントだ。
「『チーズフェスタ』は、延べ8,000人が集まるチーズ好きのためのイベント。チーズの日にちなんで、毎年11月11日に開催されています。場内には世界各国のチーズを集めたブースが設置され、気に入ったものはその場で購入することも可能です」
第1回チーズフェスタは大盛況のうちに終了した。
この時、イベントの運営メンバーである大手広告代理店の関係者から、「今後も広報・PRの仕事を続けるなら、専門性を持つことが強みになる」というアドバイスを受けたという。
「当初、プロモーション活動は国内製品に焦点を当てていました。イベント後、ありがたいことにオーストラリアやイタリアといった海外の輸入チーズに関するPR依頼が増えていったんです。この流れを受けて、チーズのプロモーションにさらなる力を注ぐことに決め、専門的なアプローチで取り組むようになりました」
PR会社を退職した後も、フリーランスの広報として活動後、2001年に有限会社メルティングポットを設立。広報のみならず、イベントやプロモーションの企画・運営など食にまつわる業務内容の幅を広げた。
仕事を続ける中で、多くの人がチーズに対して敷居が高いと感じていることに気づいたという。
「スーパーの試食販売では多くの人が足を止めますが、一人では食べきれないと感じて購入に至らないケースがほとんどです。販売されているチーズの量は、一般家庭で消費するには多すぎるのではないかと感じました」
気軽にチーズを楽しめるお店が家の近くにあったら
チーズは、カットすると消費期限が短くなる。カットした面が空気に触れることで乾燥や酸化が進み、細菌やカビの増殖が早まるからだ。そのため、チーズを販売する店の多くが、鮮度を保つためにチーズのカット売りを控える傾向にある。
「アメリカやヨーロッパでは量り売りが一般的で、自分の好みや料理に合わせて必要な量だけ購入できます。このような方法が日本でも普及すれば、チーズを日常生活でより手軽に楽しむことが増えると思いました」
そこで目をつけたのが、細かく刻んだシュレッドチーズだった。シュレッドチーズはピザ、グラタン、パスタなどの料理に使われ、多くの人々にとって親しみやすい存在だ。
「チーズを単独でなく料理に組み込むことで、より多くの消費者に受け入れられる可能性があると考えました」
その後、料理用チーズ専門店として東京都練馬区に「Cooking Cheese」をオープンした。新天地としてこのエリアを選んだのには、理由があった。
「練馬区は、東京23区内で最も農地面積が広く、農業が盛んな地域です。練馬大根をはじめ、キャベツ、ブロッコリー、ジャガイモ、枝豆など、様々な農作物が栽培されています。地元の新鮮な食材とチーズを組み合わせることで、地産地消につなげられたらと思ったんです」
人気No.1の「チーズガレット」は、サクサクとした食感と香ばしい風味が病みつきになる。
また、練馬区は東京で唯一、ワイナリーがあることでも知られている。チーズといえば、ワインが欠かせない。
「将来的には、この地域のワインとチーズを組み合わせたペアリングイベントを開催し、地元の魅力をさらに高めていきたいと思っています」
現在は、オリジナルブレンドのシュレッドチーズだけでなく、自宅で本格的な味を楽しめる「チーズ屋さんのピザセット」、食べきりサイズの「ダイスチーズ(1カップ50g〜)などを販売している。オンラインショップでの購入も可能だ。
このほかにも店舗では、クリームチーズを贅沢に使ったミルクジェラートやスムージーといった期間限定デザートも提供している。
「店舗がある大泉学園駅周辺は土地開発が行われ、昔ながらのお店が少しずつ姿を消しています。その街らしさを残すためには、地域独自のフードカルチャーを守り、育てていくことが重要です。地元の食材を活用したメニューやイベントを提供し、地域の方に親しまれる場を作っていけたらと思います」