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日の目を見ない深海魚に価値を見出し、漁師を応援したい。深海魚直送便サービスの発案者・青山沙織の想い
水深2,500mと日本一の深さを誇る駿河湾沿いに位置し、深海魚の聖地として知られる静岡県沼津市戸田。駿河湾で水揚げされた新鮮な深海魚を一般家庭に届けるサービス「深海魚直送便」に取り組む1人の女性がいます。
深海魚直送便の発起人で、しずおかの海PR大使として活動している青山沙織さんです。深海魚ビジネスに着目した経緯や今後の目標について話を聞きました。
<深海魚直送便の公式HPはこちら>
兵庫県尼崎市出身の青山さんが、縁もゆかりもなかった静岡県沼津市戸田に移住したのは5年ほど前。地域おこし協力隊の“深海魚というコンテンツを使って町おこし”というフレーズに惹かれて応募したのがきっかけでした。
「沼津市戸田は深海魚の聖地として知られていますが、地元の人にとって当たり前の存在でその価値は見落とされがちです。戸田の特産品でもある深海魚を研究に使いたいと、海外からお問い合わせいただくこともあります」
水深200メートルより深い海域に生息している深海魚は、鮮度を保つことが難しいため市場に出回るのはごく稀だと言います。
「鮮度も味も申し分ないのに、形が悪かったりサイズが小さかったりする魚は値段がつかないので、日の目を見ることがありません。戸田で採れる深海魚は種類が多く、廃棄されてしまったり、地域でのみ消費され出荷されない魚も多いんです」
自ら発信できることをしたいと考えていた青山さんにとって、地域おこし協力隊での取り組みは思いもよらないチャンスでした。
勤めていた兵庫県の会社を退職し、2018年4月に地域まち起こし隊としての活動がスタートしました。
「駿河湾の深海魚をテーマにしたアートデザインコンテスト『深海魚アートデザインコンテスト』や、触れることができる『深海魚フェスティバル』さまざまなイベントを開催しました。深海魚フェスティバルは、2019年に第1回、そして2020年に第2回を開催。深海魚を見て、触れて、食べて、撮影もできるイベントです。イベントは大きな反響を呼び、戸田の魅力を知ってもらうきっかけになったと思います」
しかし、猛威を振るう新型コロナウイルス感染拡大の影響により、残念ながらすべてのイベントは中止に。新型コロナウイルスは漁業関係者にも大きな打撃を与えました。
「緊急事態宣言の後、多くの飲食店が休業を余儀なくされ深海魚の価格が大幅に下落。この影響により、漁師たちの収入も激減し町の活気も次第に失われていきました」
街に活気を取り戻したい。そんな想いで青山さんが目をつけたのは深海魚を一般家庭に届けるサービスでした。戸田に来てもらうのが難しいのであれば、戸田の魅力をこちらから発信しようと思ったといいます。
「水揚げされた深海魚を私が買い取って新たな販売ルートを広げることで、漁師を応援したいと思いました。市場に出ても価値がつかない深海魚は、いわば外道の魚。漁師からは『本当に売れるのか?』という意見もありましたが、私は絶対に売れる自信があったんです」
そして、何度も頭を下げて漁師の協力のもと2019年に深海魚直送便サービスを立ち上げました。
「戸田漁港に水揚げされた深海魚をその日に梱包・発送しています。1人で作業を行っているので大変ですが、お客様は、早ければ市場に買いに行くよりも早いタイミングで深海魚をお届けすることが可能となりました」
80サイズ(2〜3人用・2㎏前後)は深海魚が約5種以上、100サイズ(3〜5人用・4㎏前後)だと約10種以上。
深海魚直送便では、食用「深海魚直送便(食べて楽しむ)」と観賞用「ヘンテコ深海魚便(食べられません)」、2種類の深海魚を販売しています。
「食用の商品には、メギスや夢カサゴ、海老類などを詰めて、普段はなかなかお目にかかれない珍しい深海魚を新鮮な状態でお届けします」
ヘンテコ深海魚便は、大学や研究機関、博物館などから注文が入ることもあるそうです。
「利益が見込めず廃棄されてきた未利用魚を標本や研究などに活用でき、サスティナブルな取り組みにもつながっています」
このほか、豚のソーセージに季節の深海魚を入れた「あおやまさおりのしんかいソーセージ」をはじめ、レトルトカレーや真空冷凍した深海魚など、さまざまなオリジナル商品も販売しています。
「深海魚漁は5月15日〜9月半ばまでが禁漁期間となっているので、今は深海魚を使った新商品開発に力を入れています。今後は魚が捌けない方や料理が苦手な方でも楽しめるよう、下処理した深海魚も販売していきたいですね」