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静岡県富士宮市の株式会社マクルウによる世界初の挑戦!マグネシウム合金パイプの加工を実現
オフィスから富士山の大絶景を一望できる株式会社マクルウ。同社は、マグネシウム合金パイプの加工・製造を手がけるベンチャー企業です。
特筆すべきは製造業界の常識を覆す、マグネシウム加工プロダクトを手がけていること。これまではマグネシウムは押出し成形のみによる加工が一般的でしたが、長年の研究の末に冷間引き抜き加工を実現しました。
軽くて頑丈なマグネシウムの特性を活かし、アスリート向け車いすや杖、スツールといったさまざまな商品を展開しています。
今回は、株式会社マクルウの取締役・安倍信貴さんにマグネシウム合金の冷間引き抜き加工に着目した経緯や仕事のやりがいなど話を聞きました。
<株式会社マクルウの公式HPはこちら>
マグネシウムの特性を活かした製品で社会問題の解決に貢献したい
株式会社マクルウの社名は、「マグネシウム(Magnesium)」と加工技術の名称「Cold Rolling Machine」の頭文字を組み合わせたものです。マクルウという言葉は聞き慣れないかもしれませんが、冷間引き抜き加工のルーツに由来しています。
「CRM(Cold Rolling Machine)は、回転するロールの圧力によってパイプを小さくかつ薄く延ばす加工技術です。CRMとの出会いによって、難しいとされていたマグネシウム合金の冷間引き抜き加工が可能となりました。本質を見極める大切さを忘れないようにと、創業者である父がマクルウと名付けたのが社名の由来です」
同社がマグネシウム合金の冷間引抜加工に着目したのは、2003年頃。
「父が経営していた会社の新規事業候補として挙がったのが、マグネシウムパイプの冷間引抜き加工※でした。冷間引抜き加工は、鉄やアルミといった金属加工では一般的な方法でしたが、マグネシウムは素材の特性上、常温で変形させるのは難しいとされていたんです」
※冷間引抜き加工とは、金属材料を常温で金型に通し、引き抜くことで寸法精度を高める加工方法。ここから、マグネシウム合金の冷間引抜き加工の実現に向けた挑戦が始まりました。
「長年、金属加工会社を経営し、鉄の中でも特に硬いパイプ加工を手がけてきた父でさえ、マグネシウム加工には苦戦したそうです。最新の冷間引抜き加工設備を使っても、マグネシウムパイプが割れてしまう。突破口が見えないまま、トライ&エラーを繰り返す日々が続きました」
マグネシウム合金の冷間引抜き加工に専念するため、安倍さんの父は鋼管加工企業の会長を退任。その後、中国で使われていた金属加工設備との出会いが、マグネシウム加工を実現する道筋となりました。
株式会社マクルウの看板商品である軽量マグネシウム合金杖の『FLAMINGO(フラミンゴ)』。軽くて使いやすいと好評だという。
「父が購入したのは、パイプを小さくかつ薄く延ばすことが可能な『Cold Rolling Machine(以下、CRM)』と呼ばれる設備です。加工実験を繰り返すうちに、ある条件を満たせばマグネシウムをきれいに加工できることがわかりました」
マグネシウム合金の冷間引抜き加工と向き合うこと苦節3年、ついに加工時に割れない方法を見つけたのです。
「CRMは、最新設備に比べて生産性・効率性共に劣ることから、IT化が進んだ現代ではほとんど使われることがありません。マグネシウム加工のように前例がないものを加工するときは、意外と古くて効率が悪い設備が役に立つんだと、この経験で学びました。まさに、井の中の蛙でしたね」
振動吸収性が高いマグネシウムの特徴を活かしたマグネシウム製スマートフォン用無電源スピーカー『バイオン-Mg60』。軽量&強度が高いため、持ち運びしやすく外出先でも音楽を楽しめる。
当時、化学メーカーに勤めていた安倍さんは、果敢に新しいことに挑戦し続ける父の姿に感銘を受けたと言います。
「将来の安定性よりもチャレンジングな環境に身を置きたいと思い、会社を辞めて父と一緒に株式会社マクルウを立ち上げました。利益が見込めるまでに時間がかかることは覚悟の上でしたし、生まれ故郷の富士宮で仕事ができることが嬉しかったですね」
株式会社マクルウ設立後、4年間かけて技術のブラッシュアップを行い、2014年に本格的に事業をスタートしました。
「“マグネシウムの新たな世界を切り拓く”という理念のもと、福祉・介護機器やインテリア、映像・音響機器など独自技術を駆使したさまざまな製品開発を行っています。今後は、マグネシウム合金スクラップ材の再生技術の開発にも力を入れていく予定です。マグネシウム加工技術を活かした製品を通じて、人々の生活を豊かにするお手伝いができればと思います」