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売れるからではなく、人々の生活に寄り添えるモノを作りたい。「近江手造り和ろうそく 大與」4代目・大西巧さんの想い
1984年、滋賀県の伝統的工芸品として指定された「近江手造り和ろうそく大與(だいよ)」の和ろうそく。大正3年、初代・大西與一郎さんが創業しました。
原料に植物性の櫨蝋(はぜろう)を使用した大與の和ろうそくは、炎が大きくやわらかな光が特徴です。仏事だけでなくインテリアとしても重宝され、現在は海外からも高い人気を集めています。
今回は、和ろうそく大與の4代目和ろうそく職人・大西巧さんに話を聞きました。
ろうそくのある暮らしを提案できたら
「近江手造り和ろうそく大與」の和ろうそくは、蝋を芯のまわりに素手で塗り重ねて乾かす「手掛け」と呼ばれる伝統的な技法を用いています。
「手掛けは、熟練の技術を必要とする技法です。そのため、手掛けができる和ろうそく職人は全国で数えるほどしかいません。当社のろうそくは、天然の植物ハゼを100%使用しています」(大西さん、以下同)
和ろうそくの原料は、ウルシ科の植物であるハゼという木の実から採取されています。ハゼは、日本でしか採取できない貴重な原料です。
ハゼと呼ばれる蝋を作る会社は、現在日本には2社しかないという。
「櫨蝋は、ハゼの実1個からわずか20%ほどしか採れないため希少価値が高く、手に入りづらい。一般的なキャンドルに比べると原料が高いため、ハゼろう100%を使用したろくそく屋は昔に比べてだいぶ少なくなりましたね」
大正時代から続く老舗ろうそくメーカー大與の3代目長男として生まれた大西さん。
「両親は、“家業を継いでも継がなくても、どちらでも良い”という考えでした。蝋まみれの服でろうそくを作り続ける父の背中を見て育った私は、和ろうそく職人の仕事に対してあまり良いイメージを持っていませんでした」
家業を継ぐ気はなかった大西さんでしたが、就職活動を機に家業へ興味を持つようになります。
「家業を継ごうと決めたのは、大学3年生の春。就職活動がはじまったばかりの頃でした。父に和ろうそく職人の話を聞いてみたところ、純粋に面白そうだなと思ったんです。何より、人に恥じない仕事をしなさいという父の言葉が心に刺さりました。父とあんなに腹を割って話したのは、後にも先にも初めてだったと思います」
大学卒業後、業界知識を得るため京都にある線香メーカーの会社に就職。
「父に弟子入りを願い出るも、“家を継ぐなら、他人の飯を食ってこい”といわれ線香メーカーに入社しました。営業のノウハウやイベント会場の設営など、さまざまなことを学ばせていただきました」
3年の修行期間を経て、家業に弟子入りしました。
1日で作るろうそくは5,000本以上。ひとつ一つ丁寧に手作りしている。
「弟子入りしてすぐの頃は、悔しい思いをすることばかりでした。パッケージ変更や商品バリエーションなど、良かれと思って提案してもなかなか受け入れてもらえない。また、何度やっても上手にろうそくを作れない。経験が浅く技術が伴わない私の意見は説得力がなく、父からは“一人前になってから言え”と一蹴されました」
一人前の和ろうそく職人になるには、早くても10年と言われる長い道のりです。この道40年以上の父に少しでも近づこうと、来る日も来る日もろうそくを作り続けた大西さん。
「大與のろうそくは、ひとつ一つ手作業で蝋を塗り重ねて作っています。作り手のメンタルが仕上がりに影響するため、集中力と忍耐力が必要です。父に叱咤されながらも数をこなすうちに、ムラなく作れるようになっていきました」
弟子入りしてから8年経った2014年、大西さんは“灯と人を繋ぐ”をコンセプトにした新ブランド「hitohito」を設立。
「2014年は大與が創業100周年を迎えた年です。これまでの100年を振り返ると同時に、100年先もろうそくをこの世に残すにはどうすれば良いのか、ずっと考えていました。日本ではろうそくと聞くと仏事のイメージが強いかもしれませんが、海外ではインテリアの一部として生活に取り入れられています。仏事や災害時だけでなく、ろうそくを身近に感じてもらえたらなと思い“hitohito”を立ち上げました」
ろうそくのほかにも燭台や火消しなど、スタイリッシュなデザインのアイテムも充実している。
現在、hitohitoでは米ぬか蝋を使用した「お米の和ろうそく」をはじめ、ギフトに人気の「まめろうそくカラーアソート」や季節の花が描かれた「絵ろうそく」などバリエーション豊かなラインナップを展開しています。
「大與の商品を通じて、ろうそくに興味を持ったり日常に取り入れたり、お客様の何かが変わるきっかけになれたら嬉しいです。売れそうだから作るのではなく、お客様一人ひとりの人生に寄り添える商品を作っていきたいと思います。今はアメリカが中心ですが、今後はヨーロッパでの販売にも力を入れていきたいです」