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HansABO(ハンスアボ)代表の大塲真由美さんが作る「足が小さい大人のための靴」
住宅街の一角に佇むオーダーメイド靴工房「HansABO(ハンスアボ)」。オーダー靴の製作だけでなく、毎週水・木・土曜日はワークショップを開催し、靴作りを楽しむ多くの参加者で賑わっています。
代表を務めるのは、「HansABO」代表の大塲真由美(おおば まゆみ)さんです。今回は、大塲さんが靴職人の道を選んだきっかけについて聞いていきます。
足が小さく選べる靴が限られていた
大塲さんが靴作りと出会ったのは、20歳のとき。自分の足のサイズに合う靴が少なく、靴選びに苦労したと言います。
「市場に出回っているレディース靴のサイズは、ほとんどが22.5cm〜。私の足は21.5cmと女性の平均的な足のサイズよりも小さく、選べる靴の種類が限られてしまうんです」(大塲さん、以下同)
足が小さいことに悩み、仕方なく子ども用の靴を履いてしまう人もいると言います。
「子ども用の靴はそもそも規格が違うので、大人が履くと靴擦れや外反母趾などを起こしやすく歩き方や姿勢にも影響します。TPOに合わせた靴でおしゃれを楽しみたくてもできず、好きな靴を選べる人が羨ましかった」
たまたま読んだ新聞の記事で靴職人の存在を知り、手づくり靴教室のワークショップに通い始めた大塲さん。
「“合う靴がないなら自分で作ればいい”と思ったんです。サイズに合った靴を自分で作れることが本当に嬉しくて、完成した靴を履いた瞬間の喜びは今でも鮮明に覚えています。私は当時、家電製品やおもちゃ、文房具といった幅広い工業製品ののプロダクトデザインを学ぶデザイン専門学校に通っていました。
靴作りはプロダクトデザインと違い、ひとつとして同じものはありません。体調や時間、気温などによって足囲が1cm近くサイズが変わることもあります。基本的に左右で足の大きさが全く同じ方はいないので、精度の高い靴を作るには熟練の技術と経験が必要です。ワークショップに通い靴作りの奥深さに触れるうちに、技術を極めたいと思うようになっていきました」
デザイン事務所や工業デザインの会社に就職する学生が多いなか、大塲さんは靴職人を目指して靴作りの専門校で専修課程を受講。
「夜は専門課程で靴作りを学びながら、日中は自社で靴を製造・輸入する会社でアルバイトをしていました。靴職人としての技術を磨くには、できるだけ多くの足を見て勉強する必要があると思ったんです」
アルバイト先では、その道60年のベテラン靴職人のもとで靴作りの基礎を徹底的に学んだそうです。
「足の形や歩き方のクセは一人ひとり、そして左右で違います。選ぶ靴ひとつで、痛みが和らいだり疲れにくくなったり体が楽になることも多いんですよ。このほか、靴のデザイン画を描いたり企画を提案したり、当時の経験が今の業務にも活きています」
写真下の左から7つ目のワニと呼ばれる道具は、恩師である靴職人から譲り受けたもの。ワニは、アッパーの部分を型ラストにつり込む時に使用する。
「アルバイト先の職人が“道具を全部揃えるのはお金もかかるし大変だから”と、大切に使っていたワニ(道具)を譲ってくださったんです。ワニは、ペンチ部分でアッパーを引っ張ったり、ハンマーのように叩いて固定したり、職人に欠かせない道具のひとつで、今でも大切に使っています」
1年間の専修課程を修了し、自身も通ったワークショップにインストラクターとして3年務め、靴職人としてのキャリアがスタートしました。
「1週間で200名ほどの生徒がワークショップに参加しており、ピーク時には同時に10人の指導を行うこともあり怒涛の日々でしたね。仕事終わりに趣味の一環として靴を作る励む社会人も多くいて、仕事やライフワークなどを話す時間も楽しかったです」
インストラクターとして働きながら着々と開業準備を進め、2007年に独立。生まれ育った神奈川県横浜市に「HansABO」を設立しました。
「靴作りを一生の仕事にしたいと思い、“Hans=手”+“ABO=大塲(OBA)”の2文字を組み合わせて“HansABO”と名付けました。スクール時代からの知人がお客さんとしてお店に来てくれたり、お友達を紹介してくださったり、本当にたくさんの方に恵まれていると思います」
口コミで評判が広がりワークショップの生徒も増えていき、出産を機にガレージをリフォームしアトリエに生まれ変わりました。
「靴職人の仕事は、木型を抜いたりアッパーを木型にかぶせて成形したり(吊り込み)と力が必要な作業が多く、意外と体力を消耗します。臨月まで働いたときは、体が重くて体力的にしんどかったですね(笑)」
オーダーメイド靴の製作はもちろん、毎週水・木・土曜日にはワークショップを開催。現在、老若男女を問わず幅広い世代の方々が靴作りを楽しんでいます。
「ワークショップでは、カードケースやコインケース、バッグといった身の回りの革小物の製作も行っています。一人ひとりの生活に合ったアイテムを取り入れ、日々の生活をより豊かにするお手伝いができれば嬉しいです」