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【東京学芸大学】「教員・教育支援人材育成リカレント事業」教員免許を持たなくても教員として働ける!?教育分野への新たなルートを開拓
東京学芸大学は、2021年10月、認定NPO法人Teach for Japan、通信教育部で多数の教員採用実績のある神戸親和大学(今年度から)と共同で「教員・教育支援人材育成リカレント事業」をスタートした。
このプログラムは、未経験から学校教員を目指す社会人を対象に、学校現場で活躍するための必要なスキルを短期間で身につけることを目的としている。
今年度は、ネットで受講生を募集したところ、開始わずか3日で定員が埋まった。募集を締め切った後も参加を希望する声が殺到したため、急遽、枠を増やしての開催となった。教育現場では深刻な人手不足に直面しているが、教育分野に興味・関心を持つ人は多い。
同プログラムは、異業種で活躍してきた社会人が教育分野で新たなキャリアを切り開く足掛かりとなるだろう。教育人材リカレント養成・マッチングプログラム事業を実施した、東京学芸大学理事・副学長の松田恵示氏に、話を聞いた。
教育分野へのキャリアを切り開く
これまでにも教育分野を対象としたリカレントプログラムはあったが、教員免許保有者を対象としており、平日に対面で行われることが多かった。
教員になるためには、まず大学で教育学部や教員養成課程を修了しなければならない。レポートや課題の提出で単位を取るだけでなく、教育実習も必須だ。卒業後、教員採用試験に合格してようやく教員としてのスタートラインに立てるわけだが、ここに来るまでに最低でも4年はかかる。
「社会人からすると、教員免許を取るために大学に入り直すのはかなりハードルが高いです。そのため、未経験から教育分野でキャリアを開拓するのは難しいとされてきました」
豊富なビジネス経験を持つ社会人は、教育現場にとっては喉から手が出るほど欲しい人材だ。
「教育現場に携わりたくても、年齢や時間、年齢などがネックで教員免許取得を躊躇する社会人は多い。異業種でキャリアを積んできた優秀な社会人が、教育業界でキャリアを構築するための環境が必要です」
この考えに基づいて始まったのが、「教育人材育成のリカレントプログラム」だ。
教育分野へのルートを広める臨時免許状・特別免許状取得
「教育人材リカレント養成・マッチングプログラム事業」の開講にあたって課題となったのが、教員免許を持たない専門人材を教員としてどう採用するかだ。教員免許を持たない者が教育現場に立つことは難しい。
松田氏が考えたのは、普通教員免許に代わる臨時免許状や特別免許状をプログラム修了後に付与するというものだ。
「臨時免許状は、普通免許状を持つ教員を確保できない場合に限り、各都道府県の教育委員会が例外的に交付する免許状です。この制度なら、教員免許がなくても有能な社会人を教員として採用することができます。また、優れたお力を特別に生かしていただく特別免許状という仕組みもあります」
この臨時免許状や特別免許状の活用において、豊富な実績を持つのが認定NPO法人Teach for Japanだ。日本で唯一、教員免許を持たなくても常勤職員として公立学校で勤務できるというシステムを構築している。
東京学芸大は、2021年秋から2022年1月までの3ヶ月間、認定NPO法人Teach for Japanの協力のもと、「教育人材リカレント養成・マッチングプログラム事業」を開講した。同プログラムは、教員免許を持たない社会人が教員になれるという今までにない取り組みとして、大きな話題を呼んだ。
初年度に開催した「教員・教育支援人材育成リカレント事業」には、20〜60代までの幅広い年齢層の社会人85名が参加した。受講者の理由はさまざまで、「幼い頃から憧れていた教員になるという夢を叶えたい」「地域ボランティアへの参加を通じて教育に興味を持つようになった」など多岐にわたるが、教員になるという熱意はみな同じだ。
「プログラム全体の70%が教育・教育支援の基礎知識を学ぶ講義・演習、残りの30%が現場実習です。実習は、兵庫県神戸市の公立小・中学校や、東京学芸大学附属竹早小学校などで実施しています。実習は対面なのでお越しいただく必要がありますが、講義・演習はオンライン実施なので、遠方から受講される方も多くいます」
授業は週3回、基本的に平日19:30以降にスタートするため、働きながらでも無理なく学びやすい。また、会議や打ち合わせ、子どもの体調不良などやむを得ない理由でオンライン受講が難しい場合、オンデマンド形式での学習で単位取得が可能だ。
オンライン受講は、受講者同士の直接的な交流が少なく単調になりそうなものだが、一体感を感じられるような工夫がなされている。
「講師が一方的に話すのではなく、全員が各テーマについてディスカッションする時間を設けています。これにより、受講者一人ひとりの考え方や価値観に触れ、視野を広げるきっかけにもなっています」
プログラムを終えた受講生は、学習支援員やICT支援員など、さまざまなカタチで教育分野に携わる。中には、通信制や認定試験で教員免許を取得し教壇に立つ者や、臨時免許状の取得を目指す者もいるという。
「『教職につきたい』『臨時免許を取得したい』『学習支援員として活躍したい』など具体的な目標が決まっている方ばかりではありません。そもそも教育業界の仕組みやどんな関わり方ができるのか、一から学んだうえで方向性を決めていきたいという方もたくさんいます。プログラムを通じて、今後のキャリアを見つけていただけたら嬉しいです。そして、そのお手伝いができるよう、楽しく学べるカリキュラムを提供していきたいと思います」