佐賀大学の【SAGA-Pharmacist-S Project】はシームレスな質の高い地域の薬物療法管理を実現する薬剤師を育成

佐賀大学医学部附属病院の外観

佐賀大学医学部附属病院と佐賀県は2023年から共同で、県内の薬局や医療機関に勤める地域薬剤師を対象としたリカレント教育「SAGA-Pharmacist-S Project」を開始した。地域包括ケアシステムを整備するとともに、がん医療に貢献する薬剤師の育成を目指す。

佐賀大学医学部附属病院教授・薬剤部長 病院長特別補佐・佐賀県病院薬剤師会会長を務める島ノ江千里氏に話を聞いた。

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高度で専門的な臨床スキルを大学病院で身につける

島ノ江千里教授

佐賀大学医学部附属病院の薬剤部には40名以上の薬剤師が在籍。「患者・医療人に選ばれる病院を目指して」という病院理念のもと、彼らは患者と医療従事者をサポートし、安全な薬物療法の提供に尽力している。

2023年4月にスタートした「SAGA-Pharmacist-S Project」では、同病院の薬剤師がプログラム参加者のリカレント教育を担当する。研修生は、すでに薬局や病院に勤務している社会人薬剤師だ。教育担当者の指導のもと、臨床現場で必要とされるより高度で専門的スキルを大学病院で学んでいく。

さらに、研修生は週1回、病院で開催される症例カンファレンスへの参加が必須となる。加えて、学会への参加や発表、論文作成、認定資格取得に向けたセミナーへの受講など、多岐にわたる活動にも積極的に取り組むことができ、薬剤師としてのスキルアップを多様な研修から目指すことができる。

「SAGA-Pharmacist-S Project」の中心人物である佐賀大学医学部附属病院教授・薬剤部長の島ノ江氏は、「これらの活動は、研修生の実践的な臨床スキルと専門知識を深める絶好の機会となるだろう」と期待をにじませる。

外来がん化学療法における安心・安全な薬物療法管理の重要性

佐賀大学医学部附属病院の夜の外観

「SAGA-Pharmacist-S Project」立ち上げの背景には、高齢化に伴い増加する在宅医療患者の需要や慢性期医療と高度急性期医療の併存治療に対するリスク管理の重要性が大きくなってきていることに関係している。慢性期とは、病状は比較的安定しているものの、病状が緩やかに進んでいる状態を指す。重症化を予防するために、長期にわたって治療を続ける必要がある。

「医療技術の進歩や副作用を軽減する治療法の開発などにより、多くの人々が生活の質(QOL)を重視した治療を求めています。特にがん患者においては、平均入院日数が短縮される傾向にある一方、外来治療を受ける患者の数が増えているんです。従来の入院治療に代わり、自宅での療養や社会生活を続けながら定期的な外来治療を受けるようになってきています」

厚生労働省の患者調査によると、2011年時点におけるがん患者の外来治療の割合は54.5%だったが、2017年には59.3%に増加。このデータは、患者がより快適な環境で治療を受けることが可能になったということを示している。それと同時に、地域でがん治療をサポートする医療関係者の重要性がより高まっているのだ。

「佐賀県内でも在宅医療やがん治療の専門的なスキルを持つ薬剤師のニーズは高まっており、安心安全な外来化学療法や在宅療法をサポートする薬剤師の育成が追いついていません。がん医療に求められる連携体制の構築には、薬剤師の専門性を活かした役割分担と連携の強化が不可欠です」

地域医療に対応できる薬剤師の育成は、これまでもさまざまな取り組みが行われてきた。しかし、現場ではマンパワー不足により、人材教育に十分なリソースを割くことが困難な状況にあった。

「地域に根差した医療ケアの重要性が高まる中、薬剤師は患者の薬物療法の管理、健康教育、疾病予防のアドバイスなど、多岐にわたる役割を担うことが求められています」

実践的なスキルと地域医療のニーズを理解する能力を備えた薬剤師を育成するため、佐賀大学と佐賀県は「SAGA-Pharmacist-S Project」を立ち上げた。

「SAGA-Pharmacist-S Project」は3つのコースを展開

腕を組んで写真撮影する佐賀大学の薬剤師の先生たち

「SAGA-Pharmacist-S Project」では、地域薬剤師に向けた研修として「薬局薬剤師 臨床研修制度」「がん診療病院連携研修(JASPO)」「地域薬学ケア専門薬剤師」の3つのコースを提供している。

3コースのうち佐賀大学医学部附属病院のみで実施している研修制度は、佐賀県内の薬局に勤務し3年以上の実務経験がある薬局薬剤師を対象とした「薬局薬剤師 臨床研修制度(基礎コース/応用コース」だ。

「研修生は、当院で処方された薬剤の適正な投与量や投与速度、配合変化の確認などを行います。薬剤を服用した患者の状態や薬の効果や副作用がないかも確認し、必要に応じて医師に直接フィードバックすることもありますね。大学病院の薬剤部での勤務を経験して、高度急性期医療の臨床業務に関する知識とスキルを身につけ、院内だけではなくや地域の様々な医療者と連携する重要性を理解することが目的です」

薬局薬剤師の臨床研修制度基礎コースを修了した後、スキルアップと専門性の向上を目指して「外来がん治療認定薬剤師制度」にチャレンジする人もいるそうだ。

「『外来がん治療認定薬剤師制度(APACC)』は、がん患者の外来治療に特化した薬剤師の認定を目的としたコースです。APACCの認定を受けた薬剤師は、地域がん医療における患者とその家族をトータルでサポートできるようになります。外来がん治療における薬剤師の役割を深く理解でき、より専門的な薬剤師としてのキャリア形成にもつながるんです。

外来がん治療認定薬剤師(APACC)資格を持つ薬剤師が、当院で研修を受けることにより、さらに高いレベルの専門性を求める場合の次のステップとして、『外来がん治療専門薬剤師(BPACC)』も目指すことができます」

外来がん治療認定薬剤師(BPACC)は、外来がん治療に関する専門的な知識やスキルを持ち、患者の安全・安心な治療を支援するために必要な能力があることを証明する資格。外来がん治療認定薬剤師(BPACC)があれば、適切な薬物療法の計画を立てたり、医師や看護師、ソーシャルワーカーなどの他職種と連携して治療をサポートしたり、患者の治療をより効果的かつ安全に進めることができる。

「当院の研修を修了し、がん治療の専門性を身につけた認定薬剤師・認定薬局を増やすことが、佐賀県の在宅医療やがん医療を受ける患者さんによりよい薬物療法を受けていただくことに繋がります。このプロジェクトは、その力を持つ薬剤師を育成する基盤となります。SAGA-Pharmacist-S Projectで薬剤師のキャリアを支援し、質の高い医療が提供できる仕組みづくりを整えていきたいですし、佐賀県で就職すれば薬局でも病院でも薬剤師としてスキルアップする場があることが重要です」

※ページ内の求人数は職種別に集計しています。

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