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「大学教授はゴールではなく研究者としての第一歩」北見工業大学教授、大野智也さんが明かすキャリアの核心
「一般的に『教授=大学の研究者のゴール』と言われることがありますが、私は大学教授になってからが研究者としての真のスタートだと思っています」笑顔で話すのは、北見工業大学工学部教授の大野智也さんです。
静岡大学工学部物質工学科を卒業後、北見工業大学機能材料工学科助手やヨゼフ研究所(スロベニア)博士研究員などを経て、北見工業大学工学部教授に就任しました。 大野さんのこれまでのキャリアについて話を聞きました。
子どもの頃の強烈な印象から工学の世界へ
「私が工学の道に進んだのは、自動車・バイクメーカー『本田技研工業(ホンダ)』の創業者であり、天才技術者として知られる本田宗一郎さんの影響が大きいです。子どもの頃、本田宗一郎さんの講演を聞く機会に恵まれました。話の内容の全ては理解できていなかったと思いますが、とても楽しそうに話している姿は今でも覚えており、技術者というものに当時強く興味を持ちました」
高校卒業後、静岡県浜松市にある静岡大学工学部に進学した大野さん。高校生の頃からすでに、大学の工学部に進み、技術者になるというキャリアの方針は固まっていたと言います。
「理系学部のなかでも社会や人の生活と密接に関わる工学分野が好きだったので、電子工学や材料科学が有名な静岡大学工学部に入学しました。静岡大学工学部は、1926年、当時助教授だった高柳健次郎博士の世界で始めてのブラウン管テレビの開発や、本田宗一郎が金属加工技術を学ぶために聴講生として在籍した学部として知られています。日本の最先端技術を支える高度な専門知識や技術を学べる、素晴らしい環境だと思いました」
静岡大学工学部物質工学科を卒業後、静岡大学大学院に進学。静岡大学大学院では、鈴木久男 助教授(当時)のもとで誘電体セラミックスに関する研究に没頭しました。前期課程修了後、静岡大学大学院理工学研究科物質化学専攻博士後期課程を経て、 博士号を取得。
「大学院では学会での研究発表や他国の研究者との議論を目的とした国際会議への参加など、多くの貴重な経験を得ることができました。これらの機会を通じて、視野が広がり、私が携わっている研究分野の魅力を改めて実感しましたね。そして、材料科学・粉体工学分野で研究者としてのキャリアを積み上げていくことへの意欲も強まりました」
大学院修了後、静岡大学イノベーションセンターで非常勤研究員として研究者のキャリアをスタートさせた大野さん。企業での研究職を選ぶか、大学に残って研究を続けるかという選択に悩んだといいます。
「当時は就職氷河期で、特に大学教員への道は非常に狭き門でした。厳しい競争を勝ち抜くためには、論文などの研究業績がすべてといっても過言ではありません。私は博士(工学)の学位を取得した時点で、第一著者として10報の論文を書き、さらに大学院時代に学会賞も受賞していました。そのため、大学に残って研究を続けたいと強く考えるようになったんです」
スロベニアの『ヨゼフ・シュテファン研究所』で働く研究員との記念写真。2列目の左から3番目、白いセーターを着た男性が大野さん。
静岡大学イノベーションセンターで1年ほど非常勤研究員として働いた後、北見工業大学機能材料工学科の助手として勤務。その後、単身、ヨーロッパ中南部に位置するスロベニアへ渡った大野さん。
「修士の頃に国際学会で知り合ったスロベニアのヨゼフ・シュテファン研究所のマリア・コセック教授が、『うちの研究所に来ないか』と声をかけてくださったんです。1年間の任期付き研究員として、ヨゼフ・シュテファン研究所に入所しました。私が大学院時代から続けてきた誘電体薄膜の研究に改めて携わることができたのは、非常に貴重な経験です。私が1年間、海外の研究所で働くことを快く受け入れてくださった北見工業大学の松田剛 教授には今でも心から感謝しています」
1年間の任期を終えて日本に帰国。北見工業大学機能材料工学科助教、北見工業大学マテリアル工学科の准教授と着実にキャリアを積み上げ、2017年4月に40歳という異例の若さで北見工業大学工学部の教授に就任しました。
「よく『教授=研究者のゴール』と言われますが、私は大学教授になってからが研究者としての真のスタートだと感じています。自らの仮説を証明するために研究の世界に飛び込んだので、実験が大好きです。ただ、役職が上がると自身で実験を行うことができる時間は少なくなります。そこで、研究チームを編成するわけですが、個人では難しかった研究が実現できたり、研究員が一丸となって成果を追い求める姿を見られるのは、教授として大きなやりがいを感じる瞬間です。
現在、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業『次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発 (SOLiD-Next)』にも参画しているため、研究成果を出すことは重要ではありますが、気負いせず、楽しみながら研究を進めていきたいと思います」