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観て触れて体験しながら、自然の楽しさを子どもたちにつたえていきたい。希少野生生物の保護・繁殖活動に取り組む碧南海浜水族館
衣浦港のすぐそばに建つ、1982年開業の碧南海浜水族館。2019年からディズニー映画『ファインディング・ニモ』のモデルとなったカクレクマノミの繁殖に取り組んでおり、2021年には初の繁殖に成功し話題となりました。
「水槽内でカクレクマノミを繁殖させて成魚になるまで育てるのは大変ですが、お客様の笑顔を見ると込み上げるものがありますね」
嬉しそうに話すのは、碧南海浜水族館で学芸員として働く朝倉美波さん。現在、カクレクマノミの繁殖をはじめ、希少淡水魚の繁殖やビオトープ管理を担当しています。
幼い頃は博物館学芸員に憧れていたと話す朝倉さんに、碧南海浜水族館に入社したきっかけや学芸員として働く魅力について話を聞きました。
<碧南海浜水族館の公式HPはこちら>
美しい自然と生き物の生態系を守っていきたい
1982年に開業した碧南海浜水族館は、全国でも数少ない教育委員会が管轄する水族館です。イタセンパラ、ウシモツゴといった、絶滅の危機にさらされている生き物たちの保護や繁殖活動に取り組んでいます。
「水田にすむメダカや東海地方にだけ生息するため池などに住むコイ科のウシモツゴやカワバタモロコ、河川上流に生息するネコギギなど。人の生活様式の変化や地球温暖化の影響により生態系がおびやかされ、多くの生き物たちが絶滅の危機に面しています」
生態環境の破壊がこのまま進めば、いずれ生き物が地球上からいなくなってしまうかもしれないと、危機感を募らせます。
「2023年現在、絶滅の恐れがある生物は100万種以上だと言われています。自然環境の悪化を食い止めるべく、当館では絶滅危惧種に指定されている生き物を保護するだけでなく、自然環境や生き物についての教育活動にも注力しています」
生き物や環境保全についての教育・普及啓発活動を行う碧南海浜水族館の取り組みに共感したことが、入社の決め手になったと言います。
「地域の小中学校と連携し、職場体験の受け入れや学芸員・飼育員が小学校を訪れる出張授業なども実施しています。自然の楽しさや生き物の魅力を伝えていきたいという想いに惹かれ、『ここで働きたい!』と思いました」
碧南海浜水族館は、日本で唯一、ドラゴンズ・ベビー(別名:ホライモリ)を見られることで有名。ドラゴンズ・ベビーは、原産国のクロアチアでは天然記念物に指定されている両生類。
2014年、新卒で碧南海浜水族館に入社し学芸員としてのキャリアをスタートさせた朝倉さん。学芸員として働くには、学芸員資格を取得し、さらに自治体の公務員採用試験に合格しなければなりません。
「学芸員資格を取るためには、学士の学位を取得していることが条件となります。大学卒業後は、専門的な分野を学ぶために大学院へ進み修士を取得しました。生物の研究をしながら、お客様と関われる仕事は何だろう? と考えたとき、学芸員が一番合っているのではないかと思ったんです」
現在は碧南海浜水族館の学芸員として活躍している朝倉さんですが、大学時代は博物館学芸員※を目指していたと言います。
※博物館において、資料の収集・保管・展示・調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる、博物館法に定められた専門職員。
「学芸員のなかでも博物館学芸員は人気があり競争率もめちゃくちゃ高いんです。求人募集自体が少ないので、博物館学芸員への就職は狭き門と言われています。生物の楽しさを伝える仕事がしたかったので、新聞社や博物館・科学館など文化施設の建設を手がける会社の面接も受けました」
手応えを感じられないまま時間だけが過ぎていき、迎えた卒業最後の冬休み。水族館の学芸員という仕事に出会います。
「大学院2年目の12月、たまたま見つけた碧南海浜水族館の求人募集に応募したところ、無事に内定をいただくことができました。学芸員は特殊な職種ということもあって思うように就職活動が進まず不安だったので、本当に嬉しかったです」
2014年に学芸員としてのキャリアをスタートさせ、産休・育休を経て2023年で9年を迎えます。
「現在は、カクレクマノミやハマクマノミといったクマノミ類、それから希少淡水魚の繁殖を担当しています。出勤したら、館内を巡回して担当水槽のメンテナンスを行うのが、毎朝のルーティンですね」
水質や水温、pHなど水作りが魚の健康に直結するので、毎朝の水槽チェックは欠かせないと言います。
「ちょうど今の時期(4月)からは希少淡水魚の繁殖時期です。繁殖を迎えると食欲が増すので一度に与えるエサの量が多くなります。その分、排泄物が多くなり水が汚れやすくなるので、開館前に行う水槽の管理は必須です」
クマノミ類や希少淡水魚の繁殖だけでなく、ビオトープの管理も担当しています。
「2019年3月に館内をリニューアルオープンしたのと同じタイミングで、屋外施設のビオトープが完成しました。約2,000平方メートルの広さを誇るビオトープでは、絶滅危惧種に指定されているウシモツゴやミナミメダカなど希少淡水魚を飼育しています」
自然の生態系を再現したビオトープを維持するため、ビオトープボランティアも開催。
「毎月1回2時間ほど、田んぼにお米の苗を植えたり除草したりしながら、作業を通じて生き物に興味を持ってもらえたらと思います。地味なお仕事ではありますが、普段はなかなか見られない希少生物を間近で観察できる絶好の機会です」
また、小学校向け教育プログラムの企画や、小学2・4・6年生を対象とした職場見学の運営、バスでの自然観察などのイベントも充実しています。
「水族館近くの湖で子供向けのサマースクールで釣りのイベントを実施した時には、アカムシやミミズといった生き餌に触れない子どもたちが多いですね。生き物との触れ合いは、子どもにとって大切な教育のひとつだと思います。イベントや職場体験、出張授業などを通じて、自然や生き物と触れ合うことの楽しさを知ってもらえたら嬉しいです」