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但馬屋珈琲店の創業以来変わらぬ味。コーヒーファンに愛される想いとは
多くの飲み屋がひしめく東京・新宿区の飲み屋街「新宿西口 思い出横丁」の入り口に、「但馬屋珈琲店」の本店があります。自家焙煎の深煎りコーヒー豆をネルドリップで楽しめる、創業50年以上の老舗喫茶店です。
新宿割烹 中嶋とのコラボメニュー「黒ごまのムース」や期間限定の但馬牛のサンドウヰッチなど。有名料理店や地域とコラボした、さまざまな新商品を次々と打ち出しています。
但馬屋珈琲店の3代目であり、同喫茶店を運営するイナバ商事株式会社の代表取締役でもある倉田光敏さんに、話を聞きました。
<但馬屋珈琲店の公式HPはこちら>
変わらぬ味を守りながら新しいモノを取り入れていきたい
高層ビルや商業施設が立ち並ぶ新宿エリアを中心に、5店舗を展開している「但馬屋珈琲店」。2022年には、東武百貨店池袋本店レストラン街に5店舗目となる『但馬屋珈琲店 池袋東武店』をオープンしました。
「当店のコンセプトは、“大人のひととき通の味”。ゆったりくつろいでいただけるよう照明はあえて薄暗く落としています。コーヒーを片手に読書する人など、みなさん思い思いの時間を過ごしていらっしゃいます」
種類によって異なりますが、但馬屋珈琲店で提供しているコーヒーは1杯830円。
「コーヒーチェーンと比べると高いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、昔ながらの落ち着いた空間で飲むコーヒーは、格別の味わいです。当店こだわりのコーヒーと純喫茶ならではの魅力を多くの方に知っていただけたらと思います」
但馬屋珈琲店本店は1階が客席、2階にある客席の一角が焙煎室となっており、店内は芳醇な香ばしいコーヒーの香りが広がります。
「当店は1987年の開業以来、自家製の特製ネルを使用して抽出するネルドリップコーヒーを提供しています。ネルドリップは、ネルと呼ばれる専用の布フィルターでコーヒーを淹れるドリップ方法です」
布フィルターは、ペーパーフィルターよりもコーヒーオイルが抽出されやすいので、ほのかな甘味と滑らかな口当たりを楽しめます。
「コーヒー豆本来の旨味や味わいを最大限に楽しめるので、ネルドリップにハマる方が多いんですよ。注文いただいてから豆を挽き、じっくり時間をかけて抽出しています」
カップ&ソーサーは、骨董品好きの先代・倉田雄一さんが集めた120種類を超えるコレクションのなかから、お客様の雰囲気に合うものを選んで提供しているそうです。
創業以来、30年以上変わらない看板メニュー「特選オリジナルブレンド」をはじめ、国産・無農薬コーヒー「にっぽんプレミアム」、酸味と甘味のバランスが絶妙な「ブルーマウンテンNo.1」など。
「常時、16種類以上のコーヒーを用意しています。カフェインが苦手な方にもコーヒーを美味しく飲めたらと思い、2017年にはデカフェの提供もスタートしました。デカフェは通常のコーヒーよりもカフェイン含有量が少ないため、物足りないという声が多かったんです。満足感のあるデカフェを求め、さまざまな生豆を仕入れて試しました。やっぱり、自分たちが本当においしいと思えるものをお客様にも飲んでいただきたいじゃないですか」
試行錯誤の末、ようやく納得のいくデカフェが完成し店舗での提供がスタートしました。濃厚なコクと奥深い味わい、芳醇な香りの三拍子揃ったデカフェは、同店の人気メニューとなっています。
「手前味噌ですが、めちゃくちゃおいしいです。店頭試飲の際、お客様には何も言わずブレンドとデカフェを飲み比べていただくと、ほとんどの方から驚かれます。当時はおいしいデカフェの豆が少なく心が折れそうになりましたが、諦めなくて良かったです」
自宅でもお店の味わいを楽しめるよう、オンラインショップではドリップバッグのデカフェ(カフェインレスコーヒー)も販売。
「喜んだのも束の間、ピーク時には7軒あった店舗は3軒に減っていました。『このままではまずい。何かを変えなければ』と思い始めたのが、卸売事業です」
純喫茶を未来に残すため、7年間勤めた会社を退職し父・雄一さんが代表を務める家業「但馬屋珈琲店」の経営に身を投じることとなった倉田さん。
「入った当時、店舗での商品・サービス提供のみで売上を立てていたので、新たな顧客獲得と販売ルートを拡大するために卸売事業を立ち上げました。前職での営業経験を活かして百貨店や高級スーパーなどへ足を運んでドリップパックコーヒーを売り込み、泥臭くやっていましたね」
深煎りのネルドリップコーヒーに合うスイーツも充実。写真は、2種のテリーヌショコラ ペアリングセット。爽やかな香りのオレンジピールショコラと、コクのある有機栽培の抹茶テリーヌ、2種類を楽しめる。
努力の甲斐あって見事なV字回復を遂げ、現在は700軒を超える高級スーパーや百貨店の店頭に但馬屋珈琲店のドリップパックコーヒーが並びます。
「家業を継ぎたいというよりも、当時は『自分が何とかしなければ……』という使命感の方が大きかったですね。コーヒーの消費量は増えているものの、過去30年間で60%以上の喫茶店が休廃業・解散に追い込まれています。純喫茶を次世代に残していくには、変革も必要だと思うんです」
お店のこだわりや味を守りつつ、時代に合わせて変えていく柔軟性も大切だと倉田さんは続けます。
「先ほどもお話しましたが、当店は開業以来、酸味がなく苦味が強い深煎りのネルドリップコーヒーを提供しています。軸はぶらさず、お客様のニーズにお応えできるように新メニュー・商品開発にも力を入れていきたいですね。そして、純喫茶文化を残していきたいと思います」