職場で起こるハラスメントとは、業務をおこなう中で起こる嫌がらせやいじめといった相手に不快感を与える行為のこと。
事業主や人事担当者は、従業員が働きやすい環境を整えるためにも、ハラスメントに対する理解を深め、実際にハラスメントが発生した場合には適切に対処する必要があります。
そこで今回は、ハラスメントの定義や種類、発生した場合の対処法をご紹介します。
目次
ハラスメントの定義について
ハラスメントとは、人に対する「嫌がらせ」や「いじめ」といった行為から、相手が心身に痛みや辛さを感じることです。
ハラスメントをした当事者が相手を傷つける行為はしていないと主張しても、相手が不快感や不利益を感じ、尊厳が傷ついていれば、それはハラスメントと言えます。
職場で起きる3大ハラスメント
職場で起こる3大ハラスメントとして「パワーハラスメント」「セクシュアルハラスメント」「マタニティハラスメント」が挙げられます。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
(1)パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメントとは、職場における優越的な立場を背景にした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えて身体面や精神面に苦痛を与え、就業環境が害される行為を指します。
通称、パワハラとも呼ばれています。
なお、客観的に見て、業務上に必要な範囲で実施される業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
パワーハラスメントについては、2020年6月に「労働施策総合推進法」が施行され、すべての企業にパワハラ対策が義務付けられています。
「優越的な関係を背景とした」言動とは?
「優越的な関係を背景とした」言動とは、業務を遂行するにあたって、当該言動を受けた労働者が、抵抗や拒絶ができない関係を背景におこなわれるものを指します。
主な事例は下記のようなケースに当てはまります。
- 上司など職務上の地位が高い人からの言動
- 同僚または部下などによる集団的行為で、抵抗や拒絶することが困難なこと
- 同僚または部下が、業務上に必要な知識や技術、豊富な経験を持っているにも関わらず、協力を仰いでも手助けが得られず、業務に支障をきたす行為
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは?
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし合わせ、当該言動が明らかに業務上必要がない、またはその態度が適切でないものを指します。
具体的な行為は、以下のような例が当てはまります。
- 業務を遂行するにあたり、明らかに必要のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を遂行するための手段として不適切な言動 など
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動に値するかの判断は、当該言動が起きた経緯や状況、業種・業態、業務内容以外にも、労働者の経験年数や属性、精神的・身体的な疾患の有無など、総合的に考慮することが適正です。
なお、当該言動を受けた労働者側に問題があった場合でも、人格を否定するような言動など、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動があった際は、職場のパワーハラスメントと判断されることもあります。
「就業環境が害される」とは?
「就業環境が害される」とは、当該行為を受けた労働者が、身体的または精神的に苦痛を被り、就労環境が不快となったため能力を十分に発揮できないといった支障が生じることを指します。
就業環境が害されるかという判断は「平均的な労働者の感じ方」を基準とします。
つまり、同じような状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就労する上で支障をきたすような言動であったかを見極めていくことが大切となります。
なお、言動の頻度や継続性は考慮の対象となりますが、身体的または精神的に強い苦痛を与えるような言動があった場合は、一度であっても就業環境を害する行為とみなされる可能性が高いです。
(参考:厚生労働省「職場のセクシュアルハラスメント対策、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です」)
(2)セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクシュアルハラスメントとは、職場環境における労働者の意志に反するような「性的な言動」により、労働者が不利益を受けたり、就労環境が害されることを指します。
セクシュアルハラスメント(通称セクハラ)は、1999年施行の男女雇用機会均等法、およびそれに基づく指針に定義され、防止措置を事業主に義務付けています。
セクシュアルハラスメントは、性別に関わらず行為者にも被害者になり得るほか、異性だけでなく、同性に対するものも該当します。
「性的な言動」とは?
「性的な言動」とは、性的な内容の発言や行動のことを指します。
具体的には、性的な関心や欲求に基づくもので、性別によって役割を分担するような言動のことです。
ほかにも、人の性的指向や性自認といった個人の性に対する認識について、差別や偏見を助長するような言動も含まれます。
セクハラになりうる言動・行動の例
以下にセクハラになりうる言動・行動の例を挙げます。まずは言動例から見ていきましょう。
- 彼氏はいるのかなど、性的な事実関係を尋ねる
- 性的な内容の噂を流す
- 食事やデートへの執拗な誘い など
行動例は以下です。
- 性的な関係を強要する
- 必要なく身体に触れる
- わいせつ図画の配布や掲示をする など
(参考:厚生労働省「職場におけるセクシュアルハラスメント」)
(3)マタニティハラスメント(マタハラ)
職場におけるマタニティハラスメントとは、妊娠・出産・育児休業等の取得などをきっかけに、上司や同僚からの言動で妊娠・出産をした「女性労働者」や育児休業を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることを指します。
なお、介護休業の申請・取得にも当てはまります。
事業主には、法律違反となる「不利益扱いの禁止」に加え、2017年に施行された「改正男女雇用機会均等法」「改正育児・介護休業法」の防止措置が義務付けられています。
「不利益取扱い」とは?
不利益取扱いとは、妊娠や出産、育児や介護のための制度を利用したことを理由に、事業主がおこなう解雇や減給、降格、配置転換などといった行為を指します。
このような行為は、ハラスメントではなく、「不利益取扱い」です。
- 契約社員が妊娠したことを会社に伝えたところ、契約更新がされなかった
- 男性社員が育児休業を取得したら、人事異動で降格となった など
このような事例は、不利益取扱いに該当し「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」における違反行為として見なされます。
マタニティハラスメントに該当しない例
妊娠・出産・育児休業等の取得などをきっかけに、上司や同僚が発した言動であっても「業務上で必要な言動」は、ハラスメントには該当しません。
例えば以下のような事例が当てはまります。
- 妊娠した女性社員が現状の勤務を続けたい意思を示した場合でも、客観的に見て妊婦本人の体調が悪いと感じ、業務量の減少や業務内容変更の打診をおこなう
- 出産や育児休業などの制度の利用を希望する社員に対し、業務上の必要性に応じて、変更の依頼や相談をすること
なお、労働者の意見や考えを尊重しない一方的な言動は、ハラスメントになる可能性があります。
(参考:厚生労働省「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です!!」)
カスタマーハラスメントも新たに労災認定基準へ
昨今カスタマーハラスメントも深刻化し、職場で起きる3大ハラスメントに加えて、新たに労災認定基準に該当するようになりました。
ここからはカスタマーハラスメントについて詳しく確認していきましょう。
カスタマーハラスメントの定義
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客が企業や社員に対するクレーム・言動のうち、その要求の内容が妥当性を欠いているものを指します。
カスタマーハラスメントは法令により定義されていませんが、厚生労働省が発行している「カスタマーハラスメント対策マニュアル」では、以下のとおり定義されています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業関係が害されるもの。
※「顧客等」には、商品やサービスを利用した者だけでなく、これから利用する可能性のある潜在的な顧客を含みます。
(引用元:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策マニュアル」)
また、2023年9月の「心理的負荷による精神障害の認定基準」の改正により、カスタマーハラスメントを原因とした精神障害が新たに労災認定基準へと加えられました。
カスタマーハラスメントに該当する行為
カスタマーハラスメントに該当する行為かどうかを判断する一つの尺度として、以下2つの観点があります。
- 要求内容に妥当性があるかどうか
- 要求を実現するための方法が、社会通念上妥当な範囲かどうか
要求内容に妥当性があり、尚かつ自社に過失がないかを確認して、主張の根拠や妥当性を確認する必要があります。
また、要求内容の妥当性に関わらず、要求を実現するための方法が社会通念上妥当な範囲なのかどうかも判断基準となります。
以下は、カスタマーハラスメントに該当する9つの行為と、顧客への対応例です。
種類 | 具体的な行為 | 顧客への対応 |
リピート型 | 妥当性のない要望を繰り返し問い合わせる。面会を求める。 | 次回は対応できない旨を伝える。それでも続く場合、状況に応じて通報も検討する。 |
長時間拘束型 | 長時間に渡り従業員を拘束する。居座る。長時間電話を続ける。 | 対応できない理由を説明しお引き取りを願う。帰らない場合、退去を求める。状況に応じて通報も検討する。 |
暴言型 | 大きな怒鳴り声で侮辱的な発言や名誉を毀損する発言をする。 | 大声を出す行為をやめるように伝える。 侮辱的な発言や名誉を毀損する発言に関しては録音し、退去を求める。 |
威嚇・脅迫型 | 脅迫的な発言や恐怖を感じさせるような行為をする。「SNSにあげる」など脅しをする。 | 警備員などを呼び、複数名で毅然と対応して退去を求める。 状況に応じて通報や弁護士への相談を検討する。 |
暴力型 | 殴る、蹴る、物を投げつける、わざとぶつかってくるなどの行為をおこなう。 | その場から離れ、従業員の安全確保を優先する。 警備員などを呼び、複数名で対応し、直ちに通報する。 |
権威型 | 権威を振りかざして理不尽な要求を通そうとする。謝罪や土下座を強要する。 | 不用意に発言せず、上司と交代する。要求には応じない。 |
店舗外拘束型 | クレームの詳細がわからない状態で、自宅や喫茶店など職場外に呼びつける。 | 単独での対応はおこなわず、クレームの詳細を確認したうえで対応する。 店外で対応する場合は公共性の高い場所を利用する。 |
セクシュアルハラスメント型 | 従業員の身体に触るなどの性的な行動や発言をする。 | 録音・録画をおこない、事実確認した後に警告をする。 状況に応じて出入り禁止を伝え、通報を検討する。 |
SNS・インターネット上での誹謗中傷型 | インターネット上に事実ではない悪評を公表して名誉を毀損する。プライバシーを侵害する情報を掲載する。 | SNSでの被害については、管理者や投稿者に削除を求める。 必要に応じて弁護士に相談し、情報開示請求をおこなう。 法務局や違法・有害情報相談センター、「誹謗中傷ホットライン」に相談する。 |
職場で注意が必要なハラスメント
上で述べた「パワーハラスメント」「セクシュアルハラスメント」「マタニティハラスメント」のほかに、職場で注意する必要があるものとして、以下のようなハラスメントがあります。
- モラルハラスメント(モラハラ)
- 不機嫌ハラスメント(フキハラ)
- マリッジハラスメント(マリハラ)
- ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
- ソジハラスメント(ソジハラ)
- コミュニケーションハラスメント(コミュハラ)
- エイジハラスメント(エイハラ)
- リストラハラスメント(リスハラ)
- テクノロジーハラスメント(テクハラ)
- パタニティハラスメント(パタハラ)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
モラルハラスメント(モラハラ)
モラルハラスメント(モラハラ)は、精神的な嫌がらせ全般を意味します。
パワハラと似ていますが、立場の優位性は関係ありません。
対等な関係や劣位者から優位者に対しておこなわれる嫌がらせも該当します。
日常的な暴言や悪口のほか、付きまといや無視なども当てはまります。
不機嫌ハラスメント(フキハラ)
不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは、不機嫌な態度をとって、周囲に不快感や威圧感を与える迷惑行為です。
モラルハラスメントの一種で、直接的な暴言や暴力ではなく、態度で相手に精神的苦痛を与えるため「サイレント(無言の)モラハラ」とも呼ばれています。
不機嫌さを全面に出して周囲に心理的威圧感や圧迫感を与え、無理難題を押し付けたり、悪態をついて精神的苦痛を与えたりします。
攻撃的な言動をするモラハラと違い、不機嫌な態度で相手を威圧するのが不機嫌ハラスメントの特徴です。
マリッジハラスメント(マリハラ)
マリッジハラスメント(マリハラ)とは、未婚者に対して結婚しない理由をしつこく問い詰めたり、結婚しないことを責めたりする嫌がらせ行為を指します。
「結婚して当たり前」「結婚しないのはおかしい」などという価値観を押し付けた発言が該当します。
厚意からの発言だとしても、それを言われた側が不快だと感じればマリハラです。
ジェンダーレスが注目される現代において、「結婚」に関する話題は以前にも増してデリケートなため注意が必要です。
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)は、男らしさや女らしさといった性別を理由とした偏見や、性差別意識に基づいた発言をする嫌がらせ・差別のこと。
「女はこうあるべき」「男らしくない」「女のくせに」など固定概念や役割分担意識に基づく発言が該当します。
「お茶くみは女性の仕事」と決めつける行為は、ジェンハラの代表的な例と言えます。
無自覚に発言しているケースも少なくないため、注意が必要です。
ソジハラスメント(ソジハラ)
性的指向や性自認に関連する差別的な言動や行動がソジハラスメント(ソジハラ)です。
ソジ(SOGI)とは、英語の「Sexual Orientation」(性的指向)と「Gender Identity」(性自認)の頭文字からなる造語です。
「性的指向」とは、恋愛または性的対象となる性別の指向を言い、「性自認」とは、自身の性別をどのように認識しているかを示す概念のことを指します。
特に、LGBTQと呼ばれるセクシュアルマイノリティ(性的少数者)に対しておこなわれるケースが多い傾向にあります。
コミュニケーションハラスメント(コミュハラ)
コミュニケーションハラスメント(コミュハラ)とは、相手にコミュニケーションを必要以上に強要する行為です。
会話の強要だけでなく、「おとなしすぎる」「喋らなすぎる」など相手の性格を否定的に決めつける言動も当てはまります。
「面白い話をして場を盛り上げて」など、強要して相手に苦痛を与える言動もコミュハラの一例です。
エイジハラスメント(エイハラ)
年齢や世代を理由に差別的な発言をする行為をエイジハラスメントと言います。
「今どきの若者は」「ゆとり世代だから」「その年齢なら結婚していて当たり前」などと、自己の価値観を押し付けて相手に不快感や精神的苦痛を与える行為が当てはまります。
また、年下が年上に対して「もう年だから」「その年なのにまだ平社員なの」と蔑む発言もエイハラとなります。
リストラハラスメント(リスハラ)
リストラハラスメント(リスハラ)とは、企業が社員を解雇するのではなく、嫌がらせなどの行為により社員の自主退職を促すハラスメントのこと。
リストラしたい社員に対し、「劣悪な環境下で働かせる」「配置転換をおこない仕事を与えない」といった行為を指します。
リスハラは一般的に、人事の裁量権を持つ役員や管理者などが主導します。優越的な関係を背景として自主退職へと追い込むことから、パワハラにも該当するでしょう。
テクノロジーハラスメント(テクハラ)
ITの知識に乏しい社員やツールの使い方に慣れていない社員に対し嫌がらせをおこなう行為を、テクノロジーハラスメント(テクハラ)と言います。
テクハラが注目されている背景には、DXの推進やテレワークの普及により、企業におけるIT活用の重要性が増していることが挙げられます。ITを活用できる人材とそうでない人材との間に隔たりが生まれており、ハラスメントとして、IT活用への苦手意識がある社員に対して「過剰に責める」「意図的に高度なIT業務を課す」といった行為が該当することもあります。
パタニティハラスメント(パタハラ)
パタニティハラスメント(パタハラ)とは、妊娠している配偶者のいる男性社員に対するハラスメントを意味します。
男性が育児休暇を取得しようとした際に、「取得を認めない」「取得を理由に役職を外す」といった行為が該当するでしょう。
労働環境を悪化させるなどの嫌がらせをおこない、男性の育児参加を阻む行為は、パタハラとなります。
レイシャルハラスメント(レイハラ)
レイシャルハラスメント(レイハラ)とは、国籍や人種、民族の違いを理由に、差別的な扱いをしたり、嫌がらせをしたりするハラスメントのこと。
合理的な理由もなく、日本人と外国人の待遇や業務を分けるといった行為はレイハラに当てはまります。
国籍や人種の違いを理由とした差別的な言動は、企業の社会的信用を失うことにもつながるため注意が必要です。
職場におけるハラスメントの影響とは?
職場におけるハラスメントは、被害者・行為者の個人だけでなく企業にまで不利益が発生します。
他方面に影響が及ぶため、ハラスメントの防止対策は企業にとって不可欠です。
どのような影響があるのか、立場別に解説します。
被害者
ハラスメントの被害者には、主に以下のような影響があります。
- 職場環境の悪化
- 精神的・身体的悪影響
- 能力を発揮できない
- 問題解決後も後遺症が残る可能性 など
職場環境が害されるため、職場にいづらくなりこれまで通りに働けなくなってしまいます。
また、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすため、うつ病などの精神疾患を発症する可能性もあり、最悪の場合、休職や退職となるケースも考えられます。
中には、問題解決後もPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの後遺症が残る場合もあります。
行為者
ハラスメントの行為者にも悪影響があります。
- 職場における信用の失墜、社会的地位を失う
- 懲戒処分の対象となる
- 被害者から訴えられる可能性
- 暴行罪など刑事責任を問われる可能性 など
行為者は、職場における信用を失うだけでなく懲戒処分の対象となり、最悪の場合退職を余儀なくされる可能性があります。
また、損害賠償請求や暴行罪など法的リスクを被る可能性もあります。
企業
ハラスメントの発生により、企業には以下のような悪影響が生じます。
- 職場全体の意欲低下、生産性低下
- 職場秩序の乱れ
- 被害者の休職や退職により、業務の遂行が妨げられる
- 離職率の上昇や被害者の訴訟により、企業イメージが低下
- 人材の流出
- 採用効率の低下
- 損害賠償による金銭的損失 など
職場でのハラスメントは、当事者だけでなく企業全体にさまざまな不利益をもたらすため、できる限りの対策を講じる必要があると言えます。
ハラスメントのレベルについて
ハラスメントは、悪質性や種類に応じて以下のレベルに分類できます。
ハラスメントと感じるかどうかは個人によって異なるため判断は容易ではありませんが、受けた人が不快と感じたらそれは「受けた人にとってのハラスメント」と一旦受け止めます。
そして、「受けた人にとってのハラスメント」=「制止すべき(雇用管理上の問題となる)ハラスメント」かどうか見極めるには一定の客観性が必要となります。
近年、職場におけるパワーハラスメント防止のため、事業主は雇用管理上必要な措置を講じることが義務化されました。
これにより、ハラスメント行為に対して企業独自に厳格な基準を定めるケースも増えています。
社内基準を設けることで企業は、ハラスメントかどうかを客観的かつ公正に判断しやすくなります。
また、その行為が法的に問題にならない場合だったとしても、社内で定めた基準に該当する場合は行為者の社員に懲戒処分などなんらかの罰則を与えられます。
ハラスメントによる法的責任の具体例
ここからはハラスメントによる、行為者と企業の法的責任の具体例を確認しましょう。
行為者の法的責任
ハラスメントをおこなった行為者の法的責任の一例です。
- 損害賠償義務(不法行為責任)
- 名疎毀損
- 侮辱罪
- 脅迫罪
- 暴行罪
- 傷害罪(パワハラ)
- 強制性交等罪、強制わいせつ罪(セクハラ) など
- 減給
- 降格
- 懲戒解雇 など
企業側の法的責任
企業はハラスメントに対し、男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法などの法的責任を負っています。以下は一例です。
- 不法行為責任/債務不履行責任
- 安全配慮義務違反
- 損害賠償義務
- 使用者責任
- 労災認定
- 男女雇用機会均等法上の責任 など
職場でハラスメントが発生した際の対応
社内でハラスメントが発生した場合の対処法についてご紹介します。
1.事実確認の実施
ハラスメントに該当する行為があった場合には、正確な情報を把握するため、まずは事実確認を実施します。
このとき、被害者と行為者だけでなく、必要に応じて同じ部署の従業員など関係者からも事情を聞くことが大切です。
ハラスメントと言える行為があったか否か、またどのような内容だったのか詳細を把握しましょう。
正確な事実確認は、被害者に向けたフォローや行為者の処分などを適切に実施する重要な情報となるため、プライバシーの保護など慎重な対応のもと進めましょう。
2.被害者と行為者双方に必要な措置を講じる
事実関係の把握後は、被害者と行為者に対して必要な措置を講じます。
まず、ハラスメントがあったと認定された場合は、速やかに被害者への配慮措置の実施が重要です。
行為者と引き離すための配置転換や、産業医と連携した相談窓口の活用などをおこないましょう。
行為者に対しては、懲戒処分も視野に入れた適正な措置を講じる必要があります。
被害者への謝罪や被害者との関係改善に向けた援助など、適切な対応を実施します。
3.再発防止に向けた予防策を実施する
ハラスメントの事例が確認された後は、職場全体のハラスメント防止に対する体制を強化し、再発防止に向けた予防策の実施が不可欠です。
ハラスメントが発生した原因を調査し、二度と同じような事例が起こらないように、厳重な予防策を講じましょう。
社内全体に対しては以下のような対応例が挙げられます。
- 職場内でハラスメントにあたる言動をした者については、厳正に対処する旨の方針を社内報や社内ホームページなどで広報、啓発する
- 職場でのハラスメントに関する意識向上を啓発する社内研修を実施する
厚生労働省では、ハラスメントがあったと認められなかった場合にも防止措置を講じるべきとし、職場環境でのハラスメント撲滅を訴えています。
職場におけるハラスメント対策
労働施策総合推進法により、事業主は雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられています。
事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
職場において「ハラスメントをおこなってはいけない」という事業主の方針を明確化し、周知・啓発します。
- 職場におけるハラスメントの内容、当該ハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発をすること
- ハラスメントの行為者については厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規程し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発をすること
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
職場においてハラスメントが発生した際に相談できる窓口を設置し、従業員に周知します。
- 相談窓口をあらかじめ定めること
- 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること、また広く相談に対応すること
職場におけるハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
ハラスメントが発生した場合、事実関係を迅速かつ適切に確認します。
そのための仕組みづくりをおこないましょう。
- 事実関係を迅速かつ的確に確認すること
- 事実確認ができた場合は、行為者および被害者に対する措置を適正におこなうこと
- 再発防止に向けた措置を講ずること(事実が確認できなかった場合も同様)
あわせて講ずべき措置
事業主は、ハラスメントの相談者・行為者等のプライバシーを保護するための措置を講じ、労働者に周知する必要があります。
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること
- 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いをおこなってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
(参照:厚生労働省「労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について」)
ハラスメントにおける「職場」「労働者」の範囲
ここでは、対象となる事案が職場でのハラスメントであるかを明確にするため、ハラスメント判断時における「職場」と「労働者」の範囲を解説します。
職場とは
職場とは、労働者が業務を遂行する場所です。そのため、オフィス内に限らず、出張先や取引先、営業車内、リモートワークをおこなう自宅、サテライトオフィスといった場所も職場に含まれます。
勤務時間外である、社員同士の飲み会、社員寮や通勤時も、実質的に勤務の延長と考えられるものはすべて「職場」に該当します。しかし、職場という判断に値するかは、職務との関連性や参加が強制的か任意かといった状況も考慮して、判断されることもあります。
労働者とは
労働者とは、正規雇用労働者だけでなく、パートタイム労働者や契約社員といった非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用するすべての人を指します。
派遣社員は、派遣元の事業主だけでなく、派遣先の事業主も自ら雇用する労働者と同様に対応する必要があるとされています。
ハラスメントが起きる理由
では、なぜ職場でハラスメントが起こるのでしょうか。
理由としては、以下のようなことが挙げられます。
- コミュニケーションが不足している
- 価値観にズレがある
- 偏見や先入観がある
- マネジメント能力が不足している
- 組織風土・労働環境がよくない
- ハラスメントが起こりやすい組織風土である
コミュニケーションが不足している
ハラスメントが起きる理由には、社員同士のコミュニケーション不足が挙げられます。
コミュニケーションが不足していると、お互いの性格や価値観などを把握することができません。
その結果、相手への配慮が欠けた言動につながり、ハラスメントが起きやすいでしょう。
ハラスメントが起きない職場にするためには、職場内のコミュニケーションを活性化させ、信頼関係を構築することが大切です。
価値観にズレがある
ハラスメントの行為者と被害者の間に価値観のズレがあることも、ハラスメントが起きる理由の一つです。
被害者側は深刻に受け留めているのにもかかわらず、行為者側は全く悪気がないというケースもあります。
行為者にとっては何気ない言動でも、被害者にとってはハラスメントと感じる行為かもしれません。
自身の言動が相手にどのように受け取られるのか、ハラスメントにあたる行為とならないか、常に相手の立場に立ち考えることが重要となるでしょう。
偏見や先入観がある
自身でも気づかないうちに抱いていた偏見や先入観があることも理由となります。
例えば、「女性には管理職を任せられない」「男性が育児休暇をとるのはおかしい」「お茶くみは女性がやる仕事だ」といった考え方です。
「男性は仕事、女性は家庭」という思考が、ハラスメントにつながるケースがあります。
こうした意識を変えるためには、研修などを通じて最新の社会動向を把握するとともに、多角的な視点を持つことが大切です。
マネジメント能力が不足している
上司が適切にマネジメントできていないことも、ハラスメントが起きる原因です。
例えば、部下を適正に評価することができず、「能力以上の要求をする」「感情的に叱る」といったケースが該当します。
上司の主観的なマネジメントによって上司に対する部下の信頼が低下すると、部下から上司へのハラスメントにつながることもあるため注意しましょう。
上司の言うことに聞く耳を持たなくなったり、馬鹿にしたりといった行為につながる恐れがあります。
労働環境がよくない
パワハラの発生には、労働環境も影響します。業務量が適正ではない場合や、達成できない目標やノルマを設定している場合には、ハラスメントが起きやすくなるでしょう。
育児休業や介護休業を取得する社員の仕事の穴を埋めるため、ほかの社員の業務量が増え、過酷な労働環境で働かざるを得ない場合もあります。
このような労働環境により社員のストレスが増えお互いを思いやれなくなり、ハラスメントにつながってしまうケースもあるでしょう。
ハラスメントが起きやすい組織風土である
そもそも個人だけの問題ではなく、組織自体に問題がある場合もあります。
「管理者に権限を与えすぎている」「成果でしか人を判断しない」といった組織風土があると、ハラスメントが起きやすいので注意が必要です。
また、チームの内情が他のチームや部署から見えにくいような組織も、ハラスメントが起きやすいと言えます。
その他ハラスメントの種類
ここまで紹介してきたハラスメントの他に、どのような種類のハラスメントがあるのかを確認しましょう。
ラブハラスメント(ラブハラ)
ラブハラスメント(ラブハラ)は、恋愛に関する話題で相手に精神的苦痛や不快を与えるハラスメントです。
セクシャルハラスメントやモラルハラスメントから派生した言葉で、恋愛をしつこく推奨したり強要したり、自身の恋愛観を押し付ける嫌がらせ行為です。
パーソナルハラスメント(パーハラ)
パーソナルハラスメント(パーハラ)とは、見た目やくせ、行動など個人の特性を指摘し、否定したりからかったりと嫌がらせをおこなう行為を指します。
具体的には、口癖や仕草をものまねする、特徴をあだ名にしてからかうなど不快感を与えることが該当します。
たとえ、コミュニケーションのつもりで言ったとしても、相手が不快を感じればパーソナルハラスメントになってしまいます。
見た目やくせは本人の意思で変えられないものも多いため、発言には気をつけましょう。
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まとめ
職場におけるハラスメントについて、定義や種類、職場で発生した際の対応などをご紹介しました。
事業主には、ハラスメントの内容を理解し、これからの時代に適した働きやすい会社を作り上げていく責任があります。
今回紹介したハラスメントの内容をもとに、社内でハラスメントが起きないような予防措置を検討しましょう。
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