働き方の多様化や人生100年時代による就労の長期化などを背景に、個人が仕事を通じて自己実現を図る、キャリア形成が重要視されています。
キャリア形成を効果的におこなうための手順やポイントについて、知りたい人もいるでしょう。
本記事では、キャリア形成の意味や重要性、キャリア形成のポイントや企業ができる支援について解説します。
目次
キャリア形成とはどういう意味か?
キャリア形成とは、仕事を通じて経験やスキルなどを蓄積し、自己実現を図るプロセスのこと。
自身の「将来なりたい姿」を明確にし、その実現のために何をすべきか主体的に考え行動することが特徴です。
自分自身を高めることにつながるため、キャリアの可能性を広げることが可能となります。
近年は、国もキャリア形成を重要視しており、自身のキャリアを主体的に形成するために以下のような支援をおこなっています。
職務に関連した技能および知識習得のための訓練などを実施した企業に対し、経費や賃金の一部を助成する制度
雇用保険への加入歴がある個人が厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了した場合に、掛かった費用の20%(上限10万円)を支給する制度
キャリアコンサルタントの育成やキャリアコンサルティングを受けられる環境づくりの推進
(参考:厚生労働省「キャリア形成支援」)
キャリアプラン・キャリアパス・キャリアビジョンとの違い
キャリア形成と混同されやすい言葉として、「キャリアプラン」「キャリアパス」「キャリアビジョン」があります。
キャリア形成とはどのような違いがあるのか、確認していきましょう。
キャリアプラン | 自身の理想のキャリアを実現させるための具体的な行動計画のこと |
キャリアパス | 企業内でのキャリアの流れのこと |
キャリアビジョン | 仕事だけでなく私生活も含めた理想の将来像のこと |
キャリア形成とは、キャリアプランを実現するために、必要な経験やスキルを身に付けていくことです。
理想のキャリアプランを実現するための行動が、キャリア形成であると言えます。
また、キャリア形成とキャリアパスは、「1つの企業に限定していない・限定している」点において違いがあります。
キャリア形成が転職なども含めた自身の職業人生を指すのに対し、キャリアパスは1つの企業内でのキャリアの流れを指します。
さらに、キャリア形成は仕事でなりたい姿を設計しますが、キャリアビジョンは仕事だけでなく、プライベートも含めた将来設計である点が異なります。
キャリア形成の重要性
近年、なぜキャリア形成は重要視されているのでしょうか。
VUCA時代への突入
VUCAとは、「Volatility:変動性」・「Uncertainty:不確実性」・「Complexity:複雑性」」・「Ambiguity:曖昧性」の頭文字を取った言葉です。
社会やビジネスにおいて、未来の予測が困難となる状態を指します。
市場や価値観など社会の変化が激しい現代では、将来を予測することは難しいと言えます。
そんな中、企業任せではなく、個人が自ら今後のキャリアを考え実現していくことが求められているのです。
終身雇用制度の減少と働き方の多様化
従来は、1つの企業で定年までキャリアを積む、終身雇用が一般的でした。
勤続年数が長いほど安定した職位や賃金を得られていましたが、終身雇用制度が崩壊したことで、個人が主体的に自らのキャリアを考える必要が出てきたのです。
また、転職や独立など働き方も多様化しています。
テレワークやフレックスタイム制など、働く場所や時間を自由に選べる企業も増えました。
自身の価値観に応じ、適した就業スタイルを選択できることが大切となっています。
AI技術などテクノロジーの進化
AI技術などテクノロジーの進化も、個人のキャリア形成に影響を与えています。
今まで人がおこなってきた仕事をAIが代替できるようになる中、企業にとって必要とされる人材になる必要があるのです。
「自分にしかできない仕事は何か」、「どのようなキャリアを築くべきか」を考えなければ、テクノロジーに自身の仕事を取られてしまう恐れもあります。
人生100年時代
平均寿命が延びたことにより長寿社会となり、100歳まで生きるのが当たり前になる時代がくると言われています。
職業人生が長くなる中、活躍できるスキルを磨き、キャリア形成をおこなうことが重要です。
働き方や生き方を主体的に考えることが、100年という長い人生をより充実したものにできるのです。
キャリア形成をおこなう際のポイント
ここからは、キャリア形成を効果的におこなうためのポイントをご紹介します。
- 理想の人物像を明確にする
- 周囲と比較せず、自分の価値観を大切にする
- 具体的に行動計画を立てる
理想の人物像を明確にする
自身が将来なりたい姿を考える場合は、「理想となる人物」を探し、参考にしましょう。
例えば、先輩や同僚などの身近な人のほか、テレビや雑誌などメディアで知った人でも構いません。
理想の人物像が思い浮かばない場合は、逆に「なりたくない人」を考えてみましょう。
どうしてそう思うのかを考える中で、なりたい姿が見えてくるかもしれません。
周囲と比較せず、自分の価値観を大切にする
キャリア形成をおこなう際には、周囲と比べたり合わせたりせず、自身の価値観を大切にすることもポイントです。
他者の意見は参考にはなるものの、その意見をそのまま受け止める必要はありません。
他者の意見は、自身の価値観を明らかにし、自己理解を深めるためのアドバイスとして活用しましょう。
具体的に行動計画を立てる
理想のキャリアを築くために必要なスキルや資格などについて、具体的に計画することもポイントです。
やるべきことを具体的にすることで、「いつ何をすべきなのか」が明確になります。
必要なアクションが事前に分かっていれば、そのための準備もしやすくなり、効率的に動くことができます。
具体的な行動計画を立てる際には、「川下り型・山登り型」という考え方が役立ちます。
川下り型 | 川の流れに任せるように、目の前の仕事に向き合いながら実績を積むプラン |
山登り型 | 登る山(ゴール)に向けて、効率的なルートで実績を積むプラン |
川下り型は、具体的な目標は設けず、目の前の仕事を頑張る考え方です。
一方、山登り型は、最短距離で目標に向けて進む方法で、具体的な目標がある場合に適しています。
自身に適したパターンに当てはめながら、キャリアプランを立てることをおすすめします。
キャリア形成をおこなう方法・手順
実際にキャリア形成をおこなう際は、以下のような手順で進めましょう。
- 将来なりたい姿・最終的なゴールを考える
- 自己理解を深める
- プランを立てる
- プランに沿って実行し、定期的に内容を見直す
4つのステップについて、具体的に解説します。
(1)将来なりたい姿・最終的なゴールを考える
まずキャリア形成をおこなう上ですべきことは、「将来なりたい姿」を考えることです。
目指す姿を明確にすることで、やるべきことや目指すべき道が具体化します。
将来なりたい姿を考える際には、仕事が自分にとってどのような意味を持つのかを考えることがおすすめです。
「成長させてくれるもの」「生活するために必要なもの」といったように、人それぞれ仕事に対する考え方は異なりますが、自身にとっての仕事の役割がわかれば、目指すべき姿も明確になります。
また、社会人の先輩に話を聞くことが、キャリア形成に役立つこともあります。
興味のある業界や職種で働いている人に相談し、仕事内容や将来像などについて、詳しく教えてもらいましょう。
ただし、他人のキャリアや経験はあくまでも参考程度に留めておくことが大切です。
他者と自身を必要以上に比較せず、あくまでも自分らしいキャリアプランを描くことに重きを置きましょう。
(2)自己理解を深める
キャリア形成をおこなう際は、自身が持つスキルや現在の状況を把握することも大切です。
自身の過去を振り返り、これまでおこなってきた仕事内容を棚卸しましょう。
理解を深める有効な方法として、フレームワークを用いるのがおすすめです。
例えば、自己理解を深めるためのフレームワークに、「Will・Can・Must」があります。
WILL | やりたいこと | モチベーションが高かったことを振り返り、自分がやりたいことや実現したいことを洗い出す |
CAN | できること | やりたいことを実現させるために、現状のスキルで何ができるかを考える |
MUST | やるべきこと | 組織や周囲から求められている役割を理解し、現段階で自分が何をすべきかを考える |
上記の3つについて自己分析し、理想のキャリアプランを叶えるためにすべきことを把握しましょう。
自己を理解することで、キャリア形成をスムーズにおこなうための土台が作れます。
(3)プランを立てる
将来なりたい姿が決まったら、次は具体的にプランを立てましょう。
自身の現状を把握した上で、目標に到達するまでに必要な経験やスキル、資格などを考えます。
計画する際は、ゴールから逆算して考えることが効果的です。
ゴールに向かって小さな目標を細かく設定し、一つずつクリアしながら進めていきましょう。
ただし、理想のキャリアは変化することもあるため、1年などの短期スパンで考えるのではなく、3年〜10年など長期的スパンで考えることがおすすめです。
(4)プランに沿って実行し、定期的に内容を見直す
プランを立てたら、その計画に沿って実行します。
ただし、実行していく中で、計画通りに進まなかったり、目標の達成が困難となったりする可能性があります。
また、仕事への価値観やありたい姿は、ライフステージの変化など環境によって変わる可能性もあります。
そういった場合は、軌道修正が必要となるため、一度立ち止まってプランを練り直すことが必要です。
一度立てたキャリアプランを必ず実行しなければいけないということではありません。
状況や環境の変化に合わせ、定期的に内容を見直しましょう。
従業員のキャリア形成を企業が支援するには
キャリア形成をおこなう際は、従業員だけでなく、企業のサポートも大切です。
企業は、従業員のキャリア形成のため、どのような支援ができるのでしょうか。
キャリアプログラムを提供する
従業員に対する支援として、中長期的な成長を支えるための「キャリアプログラム」の提供があります。
企業には、従業員が自身のキャリア形成について考え、自由にキャリアを描ける環境を整備する必要があります。
従業員の意思と選択を尊重しながら、新しい学習機会やさまざまな情報を提供しましょう。
例えば、従業員と上司、または人事担当者との間で実施される「キャリア面談」を通じ、明らかとなった課題の解決や従業員のキャリアに対する意識向上を促す研修の実施といった支援があります。
年代や属性に合わせて支援する
従業員の年代や属性に合わせた適切な支援をおこなうことも、企業ができる支援です。
以下のように、年齢や勤続年数に応じた支援を実施しましょう。
- 入社時
- 一定年数が経過したとき(3年・5年・10年など)
- 一定年齢に到達したとき(30歳・40歳・50歳など)
例えば入社時の場合、「将来なりたい人材」を描いてもらうのが有効です。
また、ベテラン世代なら、働き方に対する展望や貢献できることについて考えてもらいながら、今持っているスキルや経験を生かせる環境を作りましょう。
各年代の課題に合わせた支援をおこなうだけでなく、支援後のフォロー体制も必要です。
ニューキャリア理論に対応する
「ニューキャリア理論」とは、1990年代に提唱された、個人の自己主導性や自己責任性に焦点を当てた考え方です。
従来のキャリアは、1つの組織で昇進するための過程である、「組織内キャリア」が一般的でした。
しかし現在では、企業や職務などの境界を超え組織を移動しながらキャリアを形成し、個人の価値観追求のため環境の変化に適応することが、キャリアの主流となっています。
これは、ニューキャリア理論の代表的な考え方であり、「プロティアンキャリア」と呼ばれます。
個人の心理的成功を目指すもので、現代のキャリア形成に欠かせない考え方であると言えます。
このような新しいキャリアの考え方に対応し、従業員の主体的なキャリアパス選択を支援することが重要となります。
新しい職務へ挑戦する機会を提供する
従業員が新しい職務へ挑戦できる機会を提供することも、企業ができる支援です。
さまざまな挑戦機会を得ることで、従業員はスキルやモチベーションを向上させながら、キャリア形成に取り組めます。
例えばスキルアップの方法として、個人の適性などを考慮しながら、教育研修の実施や配属先の決定をおこない、従業員の能力を最大化する「CDP(career development program)」という制度があります。例えば、以下のような取り組みです。
ジョブローテーション | 人事計画に基づく戦略的な配置転換 |
社内公募制度 | 社内で人材募集をかけ、従業員自身の意思で応募する制度 |
社内FA制度 | 異動したい部署に従業員自身がアピールし、希望の人事異動を実現する制度 |
企業がこうした制度を提供することで、従業員が効果的にキャリア形成をおこなえるだけでなく、組織の生産性向上にもつながります。
相談窓口を設置する
従業員がキャリアについて相談できる窓口を設置することも効果的です。
従業員がキャリアに関する悩みや疑問を解決する場としてだけでなく、企業側から従業員に対し情報を提供する場にもなります。
例えば、相談内容に応じてキャリア研修と連動し、キャリアコンサルタントとの面談の場を設けることで、研修の効果をより高めることが期待できます。
相談窓口を設置する際は、従業員の年齢や属性に応じ、それぞれの悩みやニーズに沿ったサポートをおこないましょう。
経営層も積極的に理解・協力する
キャリア形成は、従業員だけの課題ではありません。
企業全体で取り組むべき課題であり、経営層も積極的に理解・協力することが大切です。
例えば、上司が目の前の業務遂行にしか意識が向いていなく、長期的な視点を持っていない場合、部下のスキルアップは望めません。
部下がキャリア形成のための行動を起こすには、直属の上司の理解が不可欠です。
経営層にキャリア支援の重要性を理解してもらうためには、経営層に対する教育や研修の機会も必要となります。
企業全体でキャリア形成の認識を共有し、部下をサポートできる環境づくりをおこないましょう。
メンター制度を導入する
メンター制度とは、豊富な知識と職業経験を有した社内の先輩社員(メンター)が、後輩社員(メンティー) に対しておこなう個別の支援活動のこと。
メンター制度の導入は、特に新入社員や若手社員のキャリア形成に効果的な支援です。
若手社員は、将来のキャリアプランや悩みについて、経験豊富な先輩社員に相談できます。
メンター制度を通じて、どのようなキャリアパスを歩むべきなのかが明確になります。
外部との交流機会を増やす
ボランティアや副業など外部との交流機会を持つことも、キャリア形成支援の一つです。
副業をおこなう場合、本業では得られない知識の習得やスキルアップにつながるほか、自己実現の追求も期待できます。
また、ボランティアでは、外部の幅広い世代の人との活動を通して異なる価値観に触れることで知識が深まり、自らの成長につながります。
社内での教育体制を整備するだけでなく、外部での学びの機会を提供することも、検討しましょう。
学習機会を与える
従業員の学びたいスキルや学習の機会を提供することも大切です。
従業員がどのようなことを学びたいのかをヒアリングした上で、それに基づく学習機会を提供しましょう。
学習内容は、自社の業務に直結するものでなくても構いません。
幅広い学習機会を提供することで、個人の学習意欲が高まり、自律的なキャリア形成につながります。
近年は、事業成長のために新しい知識やスキルを習得させる「リスキリング」が企業経営において重要視されています。
従業員には、指示された業務を正確に実行するだけでなく、何をすべきかを主体的に考え、実行する能力が求められているのです。
リスキリングをおこなうことで、従業員は不足している能力を補えるほか、新しいスキルを習得できます。このように従業員が成長し続けることが、企業の成長にもつながります。
キャリア形成の支援事例
厚生労働省では、従業員の自律的なキャリア形成支援に対して模範的な取り組みをおこなっている企業を「グッドキャリアアワード」として表彰しています。
ここではその中から、企業のキャリア形成の支援事例をご紹介します。
「株式会社ナンゴー」は、新型コロナの感染拡大や原材料の高騰などによる影響を受ける中、未来を見据えた世代交代および自律的に向上する組織を目指すため、キャリア支援に取り組みました。
- プロジェクトグループ室を新設し、グループ長に女性を起用
- 能力開発支援として、会社負担で研修を実施
- 自己啓発に関する本の買取制度の設置
自律的に向上できる組織を目指し、プロジェクトグループ室を設置。
勉強会の自主的な実施や職場環境の改善など、「継続して学ぶ組織」を実践し、多様な人財への自律的なキャリア形成を支援しています。
(参考:厚生労働省「『グッドキャリア企業アワード』好事例集」)
人材育成ならカケハシ スカイソリューションズ
採用・育成・定着を支援するカケハシ スカイソリューションズでは、会社の理念や事業・組織戦略に基づいた、オーダーメイドの研修を提供しています。
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例えば、現状について振り返り、明日からの具体的行動を決める「フォローアップ研修」、若手社員のマインドセットとキャリアデザインを目指す「キャリアデザイン研修」などがあります。
自社の人材育成のために、ぜひご活用ください。
まとめ
キャリア形成をおこなうことで「将来なりたい姿」を明確にし、その実現のために何をすべきか主体的に考え行動できるようになります。
従業員の成長が促されるだけでなく組織の成長にもつながるため、企業側も支援をおこなうことが大切です。
キャリア形成を効果的に実施するためには、自身の価値観を大切にしながら、具体的な行動計画を立てるといったポイントがあります。
ここでご紹介したキャリア形成の手順も踏まえながら、自己実現を図りましょう。
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