情報化や社会変革が進む今、時代の荒波の中で組織のかじ取りを担うリーダーの重要性が高まっています。
将来、組織をけん引するリーダー層には、周囲から大きな期待が寄せられていることでしょう。
しかし、「どのようなリーダー像を目指すべきか」「リーダーとしてどのようなスキルを強化すべきか」と悩む人もいるのではないでしょうか。
そこで今回はリーダーの役割を見つめなおし、磨くべきスキルや身につけたい思考法をご紹介します。
目次
リーダーとはどういう意味か?
リーダーとは、指導者や統率者、先導者を意味し、人々や組織を率いる人物を指します。
ビジネスシーンにおけるリーダーとは、組織や団体を代表してチームメンバーをまとめ、目標達成へ導くポジションのこと。
社内ルールに則ってメンバーを管理するマネージャーとは異なり、リーダーは新たな企業価値を創出する役割を担います。
リーダーの定義
これまで多くの有識者がリーダーの定義を試みており、実業家のドナルド・マクギャノン氏は「リーダーシップは地位ではなく、行動である。」と語っています。
リーダーは、権限によって人を動かすのではなく、自らの資質や影響力によってチームを正しい方向へ導く存在だと説きました。
アメリカのビジネスコンサルタント、ジム・コリンズ氏が提唱するリーダーシップ論「レベル5」によると、最高レベルのリーダーは強靭な精神力と謙虚さをあわせもつ人物とされています。
リーダーとして知識やスキルの保有は前提条件であり、企業や社会に大きな影響を与えるスーパーリーダーに必要な資質は「謙虚さ」だと説いて話題を集めました。
リーダーが持つ役割
ビジネスにおけるリーダーの役割は、目標を定め、その達成のためにチームを引っ張っていくことです。
具体的には、組織の最適化を図ることや、模範となって行動すること、メンバーの育成などに取り組み、目標達成プロセスを最適化することが挙げられます。
目標達成プロセスの第一段階、計画立案ではKPI(重要業績評価指標)やKGI(重要目標達成指標)など具体的な指標を掲げてチームの目標を明確化することが大切です。
次に、目標達成に必要なリソースを確保し、チームを組織化します。
リーダーは、メンバー一人ひとりの能力を把握した上で、業務の割り振りや進捗管理をおこなう必要があります。
プロジェクトを進行していく上で重要なポイントは、メンバーの模範となり信頼関係を築くことです。
ポジティブに取り組むリーダーの姿によってメンバーのモチベーションが向上し、組織の活性化が期待できます。
リーダーを理解する上で活用すべきPM理論
「リーダーのあるべき姿」を考える上で参考にすべき行動理論の一つが、社会心理学者・三隅二不二氏が提唱したPM理論です。
Pは目標達成機能、Mは集団維持機能を表し、この2軸によってリーダー像を分析・類型化したものです。
目標達成機能は、統率力によって生産効率を高める機能のこと。
一方、集団維持機能とは、きめ細やかな配慮や円滑なコミュニケーションによってチームワークを高める機能を指します。
企業がリーダーを必要とする背景
これまでもビジネスシーンにリーダーの存在は不可欠でしたが、なぜ今、リーダーの重要性が再注目されているのでしょうか。
現代は「VUCA」の時代といわれ、先行きが不透明な時代です。
脱工業化により、企業にとって最も重要なリソースは、生産システムから人間の頭脳へシフトしました。
経営戦略が多角化する中、課題解決能力や意思決定力をもつリーダーの重要性がますます高まってきたのです。
また、ビジネスのグローバル化やインクルージョン&ダイバーシティへのコミットメントが進み、企業内の価値観や文化も多様化しています。
一人ひとりのメンバーが活躍できる環境を構築するためにも、チームをけん引するリーダーが求められていると言えます。
ビジネスにおけるリーダーの必要性
そもそも、なぜビジネスシーンにリーダーが必要なのでしょうか。
強い組織を構築するためには、チームビルディングと呼ばれる手法が有効です。
チームビルディングとは、メンバー一人ひとりの能力を最大限に引き出し、成果を挙げられるチームをつくり上げること。
リーダー不在のままチームビルディングに取り組むと、チーム内の対立やプロジェクトの停滞が発生しやすくなるため、リーダーの存在が不可欠です。
メンバーが安心感をもって仕事に取り組むためにも、リーダーが率先して高い視座をもつことにより、メンバーはタスクに集中できます。
また、リーダーがメンバーの安全基地となることで、心理的安全性の高いチームを実現できます。
現代のリーダーに求められていること
DXやダイバーシティ&インクルージョンの推進によって、リーダーに求められる能力は変化しています。
イノベーションを促進する力
リーダーは、情報収集や市場分析を重ねながら時代のニーズを先読みし、新たな商品やサービスを生み出していく力が求められます。
メンバーから発想力を掘り起こし、アイデアと市場価値を結びつける力も必要です。
環境の変化に応じてイノベーションを起こす人材である「イノベーションリーダー」が求められていると言えます。
既存の枠組みを壊し、新たな道を開拓する力を持つリーダーの存在は、企業の継続的な成長を促します。
多様化や異文化に対応する力
ダイバーシティ経営が求められる現代、リーダーには多様性や異文化に対応する力が求められます。
ダイバーシティとは、性別や価値観、人種など属性の異なる人材が互いの違いを認め合い、多様性を企業成長に活かしていこうという考え方です。
リーダーには、メンバー一人ひとりに寄り添い各々の価値観を理解しようと努める姿勢が求められます。
リーダーに必要なスキル
リーダーにはどのようなスキルや思考が求められるのでしょうか。
よりよいチームの構築に向けて習得したいスキルをご紹介します。
- 状況認識力
- 良好な人間関係の構築
- コミュニケーションスキル
状況認識力
リーダーに求められる「状況認識力」とは、常に情報を収集してチーム内外の状況を把握し、的確なアクションにつなげる能力のこと。
変動性や不確実性が高まる時代において、重要度が高まっている能力です。
目的に沿った情報を効率よくピックアップする「情報収集能力」や、全体像と詳細の双方を把握する「俯瞰力」も武器になります。
良好な人間関係の構築
リーダーが良好な人間関係を構築できるか否かも、チームの生産性を左右します。
人間関係が良好なチームでは、同じ目標に向かっているという意識やモチベーションが高まり、士気の低下が発生しにくくなります。
また、良好な人間関係はメンバー間のコミュニケーションを活発にし、アイデアの発露を促します。
コミュニケーションスキル
コミュニケーションスキルはリーダーの必須スキルです。
たとえば、相手の気持ちや状況に配慮しながら自身の要望を伝えるスキルなどが必要となります。
リーダーにコミュニケーションスキルが不足すると、「メンバーの能力や意図を把握できない」「プロジェクトの進捗やビジョンを共有できない」「プレゼンテーションに説得力が欠ける」など、さまざまな不都合が生じます。
チームの人間関係を良好に保つには、相手を尊重した上で自己主張するコミュニケーションスキルが役立ちます。
- ロジカルシンキング
- クリティカルシンキング
- ラテラルシンキング
- ストーリーテリング
- レトリック
- 傾聴
- 対話
(1)ロジカルシンキング
リーダーに求められるロジカルシンキングとは、直感に頼らず、原因と結果の因果関係に着目しながら物事を順序だてて理解する思考方法のこと。
ロジカルシンキングに役立つ手法として「MECE(ミーシー)」が挙げられます。
これは、Mutually(相互に)・Exclusive(重複せず)・Collectively(全体的に)・Exhaustive(余すところなく)という4要素を意識しながら課題と向き合うことで、正しい道筋を見出せるという考え方です。
全体的な視点で必要な要素を余すところなく抜き出し、重複しないよう整理することが、課題解決への近道です。
(2)クリティカルシンキング
日本語で「批判的思考力」を意味するクリティカルシンキングは、示された情報を鵜呑みにせず真偽を疑いながら本質を捉えようとする思考法です。
情報化社会では、大量の情報の中から真に価値ある情報を選び取っていく必要があり、クリティカルシンキングの重要性が高まっています。
(3)ラテラルシンキング
リーダーとしてスキルアップを図る上で身につけたいスキルの一つが、ラテラルシンキングです。
ラテラルシンキングとは、自分の中にある先入観や固定概念を取り払い、自由な発想で答えを導き出す思考法。
ラテラルな視点をもつと、「13個のオレンジを3人に分配するには」という課題に対し、「ジュースにして分配する」「種を植えて個数を増やす」など柔軟なアイデアが生まれます。
ラテラルシンキングは、イノベーションやビジネスモデル改革の原動力になり得るスキルです。
(4)ストーリーテリング
人は事実を羅列で伝えられるより、ストーリーで語られた方がはるかに記憶に残りやすいという研究報告があります。
説明に物語性を付与するコミュニケーション法「ストーリーテリング」は、リーダー職でも大いに役立ちます。
たとえばプロジェクト立ち上げ時、目的や概要をロジカルに伝えるだけでなく、プロジェクトの背景や思いをストーリー仕立てで語った方が、メンバーを奮起させる可能性が高まります。
(5)レトリック
日本語で「修辞法」を意味するレトリックは、言語力を駆使して説得力を強化する表現方法です。
具体的な技法として、「比喩」「倒置」「擬人法」「体言止め」「反語」「誇張」などが挙げられます。
結論を強調したい時に倒置法を用いたり、聞き手のイメージを喚起するために比喩を用いたり、場面に応じて使い分けることが大切です。
(6)傾聴
傾聴力は、リーダーがメンバーとの信頼関係を築く上で欠かせないスキルです。
アメリカの心理学者カール・ロジャーズが提唱した「Active Listening」(傾聴力)は、「Active(積極的)」という語が付いている通り、相手の話に積極的に耳を傾けることの重要性を説いています。
リーダーが傾聴力を身につければ、メンバーは「自分の意見が重要視されている」「リーダーが真摯に向き合ってくれる」という安心感を覚えるでしょう。
(7)対話
リーダー職に就くと、「会話」だけでなく「対話」が求められるようになります。
対話は、明確なテーマを基に意見を交わし、相互理解を深めるコミュニケーションです。
単なる情報交換ではなく、心のやりとりと言えます。
対話を通じて、メンバーの言動の根幹にある価値観やマインドセットにふれ、深いコミュニケーションが可能になります。
また、心理的背景を理解することによって、指導方法や育成方法をパーソナライズできます。
心理的安定性の確保、セルフマネジメント
心理的安全性とは、組織内で自身の意見や考えを安心して発信できる状態を指す言葉です。
リーダーは必要に応じて、ハラスメント対策やメンタルヘルスケア、人間関係構築などの取り組みを講じ、メンバーの心理的安全性を確保します。
また、最良のリーダーシップを発揮するには、セルフマネジメントが有効です。
セルフマネジメントとは、自己の体調やメンタルを管理し、生産的なパフォーマンスを目指して自分自身を育成するスキルです。
コーチング・ティーチングスキル
メンバーがリーダーに求める能力の最たるものが、コーチング・ティーチングスキルです。
一般社団法人日本能率協会が実施した「2023年度新入社員意識調査」によると、「理想だと思う上司、先輩」の第1位が「仕事について丁寧な指導をする上司・先輩」(79%)でした。
OJTやメンター制度、MBO(目標管理制度)など制度を充実させるだけでなく、日常的な成長機会提供やフィードバックを通じて潜在能力を引き出す手腕が求められます。
課題解決能力
リーダーに求められる課題解決能力とは、表面化した課題のみならず今後顕在化するであろう課題に目を向け、原因分析と解決策の立案、実行という一連のプロセスを遂行できる力です。
市場の変化スピードが加速するにつれ、既存の課題解決フレームワークが効力を発揮しない場面も増えています。
課題解決に向けて、豊かな発想力と柔軟な対応力が求められます。
【状況別】リーダーに求められる役割や行動
企業やプロジェクトの状況に応じて、求められるリーダーシップも変化します。
3つのケースごとに、リーダーが果たすべき役割を紹介します。
複雑な状況や問題に直面するケース
プロジェクトは予期せぬハプニングによる停滞や社内外の対立など、さまざまな問題に直面することがありますが、リーダーはまず物事の本質を見極めることが大切です。
ビジネスの世界でも、自分にとって都合の良い情報ばかりに目を向けてしまう「確証バイアス」にとらわれてしまうことがあります。
第三者的視点をもって情報と意見を集め、何が真実か、見落としていることはないか、検証することが大切です。
また、リーダーは率先して問題解決の道筋を示すとともに、メンバーが意欲的に問題と関われる環境を整える必要があります。
その際、必要以上に干渉せず、マイクロマネジメント化を防ぐ配慮が必要です。
加えて、問題に直面してストレスを抱えているのはリーダーだけではないということを念頭に置き、メンバーへの情報提供やサポートを心がけねばなりません。
新たなステージへ移行するケース
変革期では、ビジョンの設定と周知がリーダーの主な役割となります。
ハーバード大学ビジネススクール名誉教授のジョン・コッター氏は、リーダーが変革を成し遂げるための8段階のプロセスを示しました。
- 危機意識を高める
- 変革推進チームを構築する
- ビジョンの策定
- ビジョンの周知徹底
- メンバーの自発的行動に対するサポート
- 短期的成果に向けた計画策定・実現
- 成果の定着とさらなる変革の推進
- 新たなアプローチの定着
スピード感が求められる変革期においては、機を逃さず迅速に行動する勇気と機動力が重要です。
旧態依然の価値観が変革の足かせとなっている場合には、周囲の反発を招くことなく注意喚起する姿勢が求められます。
自ら変化を恐れず、価値観の転換と、メンバーの行動変容を促していかねばなりません。
変革期は試行錯誤の連続ですが、リスクを恐れずトライできる環境を整備し、さまざまなテスト方法を考案・実行することで、新たな道筋を見出せます。
持続的成長を支えるケース
企業が安定的に成長している段階のリーダーには、効率的なワークフローを確立し、その遂行を管理する能力が求められます。
先鋭的なリーダーシップよりも堅実なマネジメント能力の比重が大きくなります。
この期間に、部門横断的なコラボレーションやナレッジの蓄積、新規プログラムの導入など、変革期に手が回らなかった業務に着手します。
安定期こそ危機感をもち、組織の形骸化やモチベーションの低下を防がねばなりません。
チーム内のコミュニケーションや学習、称賛の機会を積極的に設け、メンバーのマインドに働きかけることが大切です。
仕事に価値観を見出すポイントは人それぞれですが、「スキルを活かせている」「社会に貢献できている」「メンバーと喜びを共有できる」など一人ひとりの価値観を尊重し、幸福度を最大化することもリーダーの役割です。
理想的なリーダーになるための方法・ポイント
理想的なリーダーになるためには土台づくりが肝心です。
リーダーとしてステップアップするために必要なプロセスをご紹介します。
自身の強みを把握する
頭の中で理想のリーダー像を描いてみても、それが自分の個性や能力にマッチしているとは限りません。
まずは、リーダー研修やカンファレンスに参加して、自己理解を深めることが大切です。
他部署のリーダーと交流したり、上司のフィードバックを仰いだり、他者の意見を求めて自分を客観視してみると、目指すべきリーダー像が浮かび上がってきます。
自分に適したポストを探る
心理学者のダニエル・ゴールマン氏は、リーダーシップをタイプ別に分類しました。
そのタイプとは、「ビジョン型」「コーチ型」「関係重視型」「民主型」「ペースセッター型」「 強制型」の6つです。
急成長中の組織であればビジョン型、組織内の人間関係に課題がある組織であれば関係重視型のタイプが能力を発揮します。
自身が最も能力を発揮できる組織やポストについて考えを巡らせてみることも大切です。
リーダー思考を身につける
職場に限らず、プライベートでもリーダー思考を癖づけることがスキルアップの近道です。
たとえば、「物事の原因を見極める」「説明責任を果たす」「自分が話す前に相手の話に耳を傾ける」などの習慣は、リーダー職で大いに役立ちます。
また、常に前向きな思考をもつことで、周囲にもポジティブな影響力を与えられるリーダーに成長できます。
他者と分担する
自分一人でリーダーとしての務めを果たそうとすると心身への負担が大きいだけでなく、会社にもデメリットを与える可能性があります。
メンバーの強みを把握し、必要に応じて責任を譲渡したり、リーダー職を交代したり、ある程度の流動性をもたせることも一つの方法です。
他者とリーダー職を分担し合うことにより、新たな視点が生まれます。
リーダー研修ならカケハシ スカイソリューションズ
「人と組織の成長を加速する」というミッションを掲げるカケハシ スカイソリューションズでは、独自の研修プログラムによってリーダーのスキルアップを支援しています。
管理職や中堅社員など、これからチームや組織を引っ張っていく人材のスキル強化を推進。
チームとして成果を上げる仕組み化や人材育成について指導します。
おすすめの研修
リーダーのスキルアップには、グループワークを取り入れた実践的な研修「リーダー昇格研修」がおすすめです。リーダーとしての意識改革を図るとともに、チームをけん引するために不可欠なコミュニケーションスキルや問題解決能力を強化します。
まとめ
急速なIT化や多様化が進む今、社会情勢を的確に把握し、組織が進むべき方向性を示せるリーダーの存在は不可欠です。
求められるリーダー像は、組織や状況によって異なりますが、判断力やコミュニケーションスキルなど普遍的なスキルを身につけることによって、組織のニーズに対応できます。
ただし、いくらスキルを磨いてもリーダー職を一人で遂行することはできません。
リーダーの仕事は、メンバーとの信頼関係を築き、より良いチームを編成することから始まります。
「人」を大切にしながら、自分らしいリーダー像を目指してください。
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