リーダーシップとは、組織を統率・牽引して目標達成に導くために必要な能力です。
しかし、その定義や理論は多岐に渡ることから、受け取り方も人によってさまざまです。
この記事では、リーダーシップの定義や理論の中からメジャーなもの、近年注目を集めているものをご紹介するとともに、リーダーシップスキルを高める方法についてもお伝えします。
リーダーシップとは何か?
リーダーシップとは、個人やチームなどを統率し、目標達成に向けて行動を促す力のことです。
日本語では、「指導力」「統率力」などと表現されます。
求められるリーダー像は組織の性質によって異なりますが、主に以下のような能力を必要とされるのが一般的です。
- 目標達成のためのビジョンを明示する
- ビジョンの実現に向け、スタッフのモチベーションを維持および向上を図る
- ビジョンを実現するための課題解決を図る
変化の激しいVUCA時代の中で企業を成長させるためには、社員一人ひとりの能力を最大化させ、方向性を示してチームを牽引するリーダーシップが不可欠と言えます。
ドラッカーによるリーダーシップの定義
リーダーシップの定義はさまざまですが、中でもオーストラリアの経営学者ピーター・ドラッカーによる「リーダーシップ理論」が有名です。
ドラッカーは、リーダーシップに必要なのは「カリスマ性ではなく人格」と説き、その考え方を著書『プロフェッショナルの条件』で以下の3点にまとめています。
- リーダーシップは仕事
- リーダーシップは責任
- リーダーシップは信頼
(1)リーダーシップは仕事
ドラッカーは、リーダーシップはカリスマ性のような「資質」ではなく「仕事」だと定義しているのが特徴的です。
組織の目標設定や管理、仕事の優先順位決めといった組織の統制を仕事として発揮できるかを意味しています。
(2)リーダーシップは責任
また、リーダーシップは「地位や特権ではなく責任を負えるかどうか」であるとも述べています。
上手くいかなかったとしてもその失敗を人のせいにせず、すべての責任を潔く背負う姿勢こそがリーダシップの発揮につながるという考え方です。
(3)リーダーシップは信頼
リーダーシップの要素として、「つき従う者がいること」も重視しています。
つき従う者とは、強制されるのではなく、リーダーを信頼して自らの意思で従う人のことです。
また、信頼については「好意ではなく、常に同意できることでもない。リーダーの発言が真意であると確信を持てるということ」としています。
リーダーシップが必要とされる理由
近年、管理職やリーダー職以外の社員にもリーダーシップの発揮が求められています。
その理由として、ダイバーシティの推進によりさまざまな属性を持った人が組織やチームに属していることが挙げられます。
多様な人材を受け入れることは、雇用対策や新たなアイデアの創出による企業の競争力向上につながることから、ダイバーシティの推進は重要視されています。
しかし、リーダー1人で多様な人材を率いていくことは容易ではありません。
秩序や生産性を保ちつつ多様性を企業の強みに変えるためには、メンバー一人ひとりがリーダーシップを発揮して主体的にチームを高めていく必要があるのです。
その中で、メンバー全員がリーダーシップを発揮できる環境を構築できるリーダーが求められています。
フォロワーシップとの違い
フォロワーシップとは、組織やチームの目標達成のために自律的かつ主体的にリーダーやメンバーに働きかけて支援することです。
例えば、チームの発展のために「周囲のメンバーに働きかける」「リーダーと異なる意見を提言する」など、自身のポジションでできる限り主体的な行動を起こせることを意味します。
リーダーシップは組織の方向性を定めてチームを導くのに対して、フォロワーシップはリーダーが示したビジョン達成のためにチームメンバーを支援し実行する役割を持っている点が異なります。
フォロワーシップは、リーダーシップと同様にリーダーを含めたメンバー全員に求められるスキルです。
メンバー一人ひとりがフォロワーシップを持つことで、組織はよりスムーズに動けるようになります。
マネジメントとの違い
リーダーシップと類似した言葉にマネジメントがあります。
マネジメントとは、「ヒト・モノ・カネ・情報」といった企業の経営資源を効率的に運用する管理手法のことです。
マネジメントの対象となるのは「組織」なのに対し、リーダーシップは目標達成に向けて組織のメンバーを導くことから「人材」を対象とする点が異なります。
その他の違いとして、役割や視点、必要なスキルについて表にまとめました。
リーダーシップ | マネジメント | |
役割 | 目標やビジョンを達成するために、メンバー一人ひとりの自発的な行動を促し、組織を正しい方向へと導く | 目標やビジョンの達成に向けて、有効かつ効率的な方法や手段を模索すると同時に、組織としての活動を維持・促進できるように管理する |
対象 | 人材 | 組織 |
視点 | 中長期的な視点 | 長期的な視点と短期的な視点 |
必要スキル | 先見性・意思決定力 | 管理能力・状況把握力 |
また、マネジメント能力は管理職以外のメンバーには必須ではないケースもありますが、リーダーシップは立場や役職に関係なく求められる能力である点も違いの一つです。
リーダーシップのメジャーな理論
リーダーシップにはさまざまな理論が存在しています。
ここでは、2つのメジャーな「PM理論」と「SL理論」についてご紹介します。
(1)PM理論
PM理論は、1966年に社会心理学者である三隅二不二(みすみじゅうじ)氏によって提唱されたリーダーシップ理論の一つです。
PM理論においてリーダーに必要な要素は、「目標達成機能(Performance function:P機能)」と「集団維持機能(Maintenance function:M機能)」の2つであるとされています。
P機能は、成果を上げるために発揮される能力のことです。
目標設定や計画立案、メンバーへの指示など、業績や生産性を向上させる機能を指します。
M機能は、集団をまとめるために発揮される能力のことです。
チーム内の人間関係を良好に保ってチームワークを維持・強化する能力を指します。
この2つの機能の強さによって、リーダーのタイプを「PM型」「Pm型」「pM型」「pm型」の4つに分類しています。
P機能とM機能のどちらも強いPM型は、最も理想的なリーダー像として定義されています。
種類 | 特徴 |
PM型 | 成果を上げる力も、集団をまとめる力も強い理想的なリーダー |
Pm型 | 成果を上げる力は強いが、集団をまとめる力は弱い |
pM型 | 成果を上げる力は弱いが、集団をまとめる力は強い |
pm型 | 成果を上げる力も、集団をまとめる力も弱い |
(2)SL理論
SL理論は、アメリカの行動科学者であるポール・ハーシィと、作家で起業家のケン・ブランチャードが提唱した理論です。
SLは「Situational Leadership(状況のリーダーシップ)」の頭文字からなり、「状況対応型リーダーシップ」とも呼ばれています。
組織を活性化させるためにリーダーは、部下の状態や状況に合わせてリーダーシップのスタイルを変化させる必要があるという考え方です。
SL理論では、部下の状況を能力や意欲の高さにより以下の4つの成熟度に分類しています。
種類 | 特徴 |
成熟度1 | ・新入社員や業務未経験のメンバー ・すべきことがわからない状況 |
成熟度2 | ・ある程度の業務を遂行できるメンバー ・何をすべきかはわからないが、積極的に学びたいと感じている状況 |
成熟度3 | ・能力が高まり、最低限の指示で業務ができるメンバー ・何をすべきかは理解しているがリーダーの指示なしですべてを1人でこなせるかは不安な状況 |
成熟度4 | ・高い成果を期待でき、その業務の責任を負えるメンバー ・楽しんで業務を遂行できる状況 |
加えて、部下の成熟度に合わせた4つのリーダーシップが求められると定義しています。
種類 | 特徴 |
S1.指示型 | ・成熟度1の部下向け ・指示的行動を多く求められる |
S2.説得型 | ・成熟度2の部下向け ・指示的行動と援助的行動の両方を多く求められる |
S3.参加型 | ・成熟度3の部下向け ・援助的行動を多く求められ、指示的行動はあまり必要とされない |
S4.委任型 | ・成熟度4の部下向け ・指示的行動と援助的行動はあまり必要とされない |
注目され始めているリーダーシップ理論
ここでは、近年注目を集めているリーダーシップ理論をご紹介します。
サーバントリーダーシップ
サーバントリーダーシップとは、「リーダーは、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考えにより生まれた支援型リーダーシップです。
1970年にアメリカ人のロバート・K・グリーンリーフによって提唱されました。
サーバントは英語で「奉仕者」や「召使い」を意味します。
リーダーには奉仕の精神が求められますが、部下の召使いという意味ではありません。
指示や命令により部下を「支配」するのではなく、部下との信頼関係を尊重し、部下の声に耳を傾け「支援」しながら目標やビジョンの達成を目指す手法です。
傾聴や共感に重きを置き、メンバーの主体性に働きかけるサーバントリーダーシップは、変化の激しいVUCA時代において近年重要視されているリーダーシップの一つです。
サーバントリーダーシップには以下の10の属性が求められています。
- 傾聴(Listening)
- 共感(Empathy)
- 癒し(Healing)
- 気付き(Awareness)
- 説得(Persuasion)
- 概念化(Conceptualization)
- 先見力・予見力(Foresight)
- 執事役(Stewardship)
- 人々の成長に関わる(Commitment to the Growth of people)
- コミュニティ作り(Building community)
オーセンティックリーダーシップ
オーセンティックリーダーシップとは、倫理観や道徳観と合わせて、リーダー自身の価値観や考え方をもとに組織を牽引するリーダーシップを指します。
オーセンティック(authentic)とは、日本語に直訳すると「本物の」「信頼できる」といった意味を持つ言葉です。
オーセンティックリーダーシップは、2003年にアメリカのメドトロニック社の元CEOであるビル・ジョージ氏が発表した著作『ミッション・リーダーシップ』によって、広く知られるようになりました。
これまでのリーダーシップ理論では、「リーダーのあるべき姿」を唱えるものばかりでした。
しかし、オーセンティックリーダーシップは、「自分らしさ」を重視する点において他のリーダーシップ理論とは異なります。
一人ひとりの個性や強みを活かすリーダーシップにより、主体的な組織の構築が期待できます。
多様性のある強い組織によって、変化の激しい時代にも柔軟に対応できるようになるのです。
オーセンティックリーダーシップを発揮するためには、以下の5つの特性が求められます。
- 情熱を持って目的を追求する
- 自分なりの価値観にもとづいて行動する
- 真心を持ってリードする
- 継続的に人間関係を構築する
- セルフマネジメント能力を身に付ける傾聴
シェアドリーダーシップ
シェアドリーダーシップとは、チームメンバー一人ひとりがリーダーシップを発揮し、リーダーの役割をシェア(共有)している組織の状態を指します。
シェアドリーダーシップの特徴は、リーダーシップを発揮するメンバーと、それに従うメンバーが入れ替わる点です。
シェアドリーダーシップでは、メンバー一人ひとりが影響力を持ち、リーダーシップを発揮することで、チーム全体のパフォーマンスの向上につながります。
ただし、チームの目標設定やビジョンの提示、最終決定をおこなう正式なリーダーは必要です。
また、シェアドリーダーシップでは、リーダーシップだけでなくフォロワーシップへの理解も求められます。
チームの成果を最大化させるためにも、主体的かつ自律的にサポートする姿勢が大切です。
シェアドリーダーシップを導入する際には、3つのポイントを押さえておきましょう。
- リーダーシップの定義や理想の組織のイメージを共通化
- コーチングやファシリテートなどメンバーへのアプローチ方法を身に付ける
- 少しずつやり方を変更するなどして組織に根付かせていく
リーダーに必要なリーダーシップ機能的行動
イギリスにおけるリーダーシップ論の第一人者とされるジョン・アデアが提唱した「リーダーシップの特性理論」において、リーダーに必要な行動を8つご紹介します。
仕事を明確にすること
チームや個人には、仕事の目標を明確に「SMART」に示す必要があるとしています。SMARTとは、具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、現実的(Realistic)、期限付き(Time Constrained)の頭文字をとったものです。
組織として「何をするのか」「なぜするのか」を明確にする機能的行動で、リーダー自らが組織のビジョンを示すことが求められます。
計画すること
仕事を計画する際には、不測の事態に備えた代替案を複数用意することが必要です。
そのためには、チーム内で打ち解けた雰囲気を作り、建設的で独創的な方法でおこなわれることが重要であると説いています。
説明すること
仕事をする際には、チームメンバーに対して目的や計画を事前に説明し、各メンバーの役割を明確にします。
チーム共通の目的意識を持つことで、個々のモチベーションの向上につながります。
統制すること
仕事の効率性を高めるために、メンバー一人ひとりのエネルギーを一つの方向へ向ける必要があります。
リーダーは、メンバーに対して効果的な指示を与え、時には規制するコントロール能力も発揮できなければなりません。
評価すること
リーダーは、正当な評価や査定をするためにチームの業績や個人を正しく見極める能力が求められます。
失敗に対して評価を下すだけでなく、成功に対してもより成果を高めるための改善策を提示するなど、提案する能力も重視されます。
動機付けすること
メンバー一人ひとりのモチベーションを維持するため、内在的、外在的な動機付けが重要であると説いています。
同時に、メンバーを牽引するためには、リーダー自身が高いモチベーションを持っていることも不可欠です。
組織化すること
リーダーはメンバーを管理・育成し、チーム全体が一貫性を持った組織を構築する能力が求められます。
業務変更や組織の方針転換の際にも、都度見直さなければなりません。
また、リーダー自身が臨機応変に対応できる柔軟性も大切です。
模範化すること
リーダーは、常にメンバーから見られていること、模倣されることを意識し、模範となる行動をとらなければなりません。
リーダー自身が掲げたビジョンと異なる行動をとってしまうと、メンバーにもそのような姿勢が伝わってしまい組織の成長は期待できません。
リーダー自らが先頭に立ち、メンバーだけでなく組織全体に対して模範を示すことでリーダーシップを発揮できます。
リーダーシップのスキルを高める方法
リーダーシップを高めるには、どのような方法が効果的なのでしょうか。
ここでは、リーダーシップスキルを高める方法をご紹介します。
理想的なリーダー像を設定し、模倣する
まずはリーダーの理想像を設定しましょう。
理想とするリーダー像は、社内の上司など実在する人物でも、本や漫画の登場人物などでも構いません。
その人の振る舞いや思考を観察・分析し、実際に模倣してみます。
理想とするリーダーの思考や行動を実際に体験することで、理想の姿に近づいていくことができます。
このように、思考と行動を観察し模倣しながら習得していく手法を心理学では「モデリング(観察学習)」と呼び、より体系的な理解につながります。
繰り返しモデリングをおこなうことで、見た目や振る舞いなど表面的な行動だけでなく、思考パターンや価値観といった内面的な理解も深まります。
意思決定プロセスを日常的に意識する
自身の意思決定プロセスを意識して向き合うことは、リーダーシップスキルを高めるのに効果的です。
リーダーは、チームの目標設定からメンバーへの業務の分配など、大小さまざまな意思決定を迫られます。
些細なタスクであっても、その意思決定の場面においてどのような方法やパターンがあるのかを考え、「最善の方法を判断し、行動に移す」といったプロセスを日頃から意識しましょう。
経験則から決断することが多い方や、選ぶことが苦手な方の場合、意思決定を下すまでに時間がかかってしまうかもしれません。
しかし、日常的に意識して習慣付けることで、リーダーとして的確な意思決定ができるスキルが身に付きます。
コミュニケーションスキルを磨く
コミュニケーションスキルを磨くことも、リーダーシップスキルの向上につながります。
チームメンバーとの信頼関係の構築には、コミュニケーションスキルが欠かせません。
相手から信頼してもらうリーダーになるためには、ビジネスパーソンに求められるコミュニケーションスキルよりもワンランク上のコミュニケーションスキルが求められます。
具体的には、ただ話を聞くだけではなく、相手の話に耳を傾け、考えや価値観をしっかりと受け止めて尊重する傾聴の姿勢が重要です。
業務内ではもちろん、雑談などの際にも傾聴をおこなうことで、相手は「自分のことを受け止めてくれている」「理解しようとしてくれている」と感じ、信頼度が高まります。
チームメンバーを信頼する
チームメンバーに信頼してもらうには、リーダー自身がメンバーを信頼することが大切です。
リーダーは、チームを目標達成に導くためにも、メンバー一人ひとりの進捗の把握が必要となります。
しかし、何度も進捗を確認したり、細かく指示したりすると、メンバーは「信頼されていない」「仕事を任せてくれていない」と感じてモチベーションを保てなくなる恐れがあります。
信頼関係を構築するためにも、確認や指示は最小限に留めて業務を任せてみましょう。
人間関係の幅を広げる
リーダーシップスキルの向上には、仕事以外にも人間関係を広げることも重要です。
職場の部下や同じ業界の人など、狭いコミュニティの中だけで生活していると、コミュニケーションがパターン化して視野も狭まってしまいがちです。
人材や価値観が多様化する現代社会において、さまざまな価値観を持った人とのコミュニケーションはよい刺激になります。
視野を広く保ち人間関係の幅を広げるためにも、習い事をはじめたりボランティア活動に参加したりするなど、積極的に仕事以外の人とも関わりましょう。
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まとめ
組織やチームを牽引し、成長させるために不可欠なリーダーシップは、経営者や管理職だけでなく、すべての社員にとって必要なスキルです。
一人ひとりが優れたリーダーシップを発揮することで、チーム全体の能力を最大化し、モチベーションの維持にもつなげることができます。
この記事でお伝えしたリーダーシップのスキルを高める方法などを参考に、リーダーシップスキルを磨いてチームを成功に導きましょう。
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