企業が、優秀な人材を効率的に獲得する際の有効な手段に「採用戦略」があります。
売り手市場が続き企業の採用活動が厳しい状況となっている昨今、自社にマッチした人材を獲得するためには、どのような戦略を立てていけばよいのでしょうか。
今回の記事では、戦略立案の概要や採用戦略立案の具体的な流れ、実行する際のポイントと注意点をご紹介します。
目次
採用戦略とは何か?
採用戦略とは、企業が自社の求める人材を獲得するために立てる戦略のこと。
企業が成長し続けるためには、経営資源の一つである人材に重点を置き、計画的に獲得することが重要といえます。
企業経営においては、中長期的な視点で将来を見据えた経営戦略の検討が不可欠です。
そのため、採用戦略においても、中長期計画や事業計画をもとに「どのような採用方針で活用を進めるのか」という軸となる立案を定める必要があるのです。
なお、「新卒採用」と「中途採用」では採用戦略が異なります。
今回は、中途採用に重点を置き効果的な戦略を解説します。
中途採用に採用戦略はなぜ重要?
なぜ戦略的な採用の実施が必要なのか、その重要性をご紹介します。
労働人材が不足している
採用戦略が必要な要因の一つに、労働人材の不足が挙げられます。
総務省統計局の資料によると、2022年の労働力人口は平均6902万人。前年に比べ、5万人減少しています。
日本では、少子高齢化により若い働き手は減少傾向にあり、今後は幅広い業種において人材不足感が高まると予想されています。
労働人材の不足は、自社への応募者が集まらないという懸念につながります。
自社が必要とする人材を獲得するためには、採用戦略を取り入れ自社への応募者を増加させることが必要です。
複数の応募者が確保できれば、選考によって自社にマッチした人材獲得が可能となるでしょう。
(参考:総務省統計局「第1 就業状態の動向」)
(参考:内閣府「第1章 日本経済の現状と課題 第3節」)
求人倍率の上昇
有効求人倍率の上昇も採用戦略が必要な要因として考えられます。
有効求人倍率とは、求職者1人に対して何人の求人があるかを示す数値です。厚生労働省の資料によると、2023年3月の有効求人倍率は1.32倍でした。
求人倍率が増加する状況下では、企業間での人材獲得競争は激化します。
そのため、企業は一過性の採用活動ではなく、持続可能で戦略的な採用活動を実施していかなければ、優秀な人材獲得は困難といえます。
人事だけではなく、企業全体で取り組む必要があるでしょう。
(参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年3月分及び令和4年度分)について」)
(参考:内閣府「第1章 日本経済の現状と課題 第3節」)
採用戦略を立案するメリット
中途採用における採用戦略を立案する具体的なメリットをご紹介します。
応募数の増加
採用戦略の立案は、市場の動向や求職者のニーズを踏まえながら自社の魅力を効果的に伝えられるため、応募者の増加が見込めます。
母数の確保だけでなく、自社が求める人材に絞った母集団形成もできます。
また、多くの応募者数を集めることができれば、中途採用の応募者が持つ多様なスキルや経験に触れることも可能です。
自社にないノウハウを持つ人材を獲得できれば、自社の抱えている課題解決に役立ちます。
さらに、さまざまな人材が集まることで組織が活性化され、新たな視点によるアイデアの創出も期待できます。
採用コスト削減
採用戦略を立てることで、自社に最適な採用プロセスを実現でき、採用効率の向上によるコストの削減も可能です。
例えば、自社のターゲットに即した適切な採用広告の活用などにより、迅速に候補者を選出できます。
他にも、採用戦略ではKPIを設計し、優先すべきアクションを明確化。
それにより、チームで優先業務に対する共通認識が生まれるため、必要な業務にのみ効率的に注力できます。
その結果「自社に適した採用手法が分からずコストを増大させる」「採用業務の効率が悪く人件費がかさむ」といった状況を脱し、採用コストの削減が可能となるのです。
入社後のミスマッチを防ぐ
入社後のミスマッチを未然に防げることも、採用戦略を立案するメリットの一つです。
ミスマッチは、候補者のモチベーション低下につながり、早期退職をもたらす要因となります。
早期退職者が増加すると、採用・教育にかけた時間やコストなどのリソースが無駄になることも懸念されます。
戦略立案時は、スキルや経験など細かな特徴を整理し「求める人物像」を明確化します。
さらに、自社の文化や価値観、強み、弱みを棚卸した上で、自社で活躍できる人材を把握し、マッチする人材の特徴の解像度を高めます。
自社に親和性の高い人材を明確に定義できれば、企業と候補者のマッチング精度の向上が期待できます。
結果的に、入社後のミスマッチを防ぎ、早期退職のリスクを減らすことにつながるでしょう。
採用戦略の成功事例
ここからは、中途採用における採用戦略の成功事例をご紹介します。
難易度の高いITエンジニア職の人材獲得に成功
神奈川県横浜市に本社がある従業員10名以下のシステム開発支援会社の事例をご紹介します。
仕事の依頼が殺到しているにも関わらず、人材不足で要望に応えられない状況
人材紹介会社に依頼したが、SESの推薦がない
求人広告からの応募は、的外れな人材ばかりで苦戦
VB.net習得者を徹底的にピックアップ。候補者に響くような長文のメッセージを送信
平均年齢が高いことを逆手に取り、ベテランが多いことを強調して同世代の共感を得る訴求内容に変更
応募者数25名、そのうちVB.net習得者2名の採用に成功
採用した1名は超大手企業の出身であり、使用言語以外に上流工程マネジメント経験者で即戦力となる人材を獲得できた
アウトソーシングを活用して見極めに注力し、1名の厳選採用に成功!
大阪府大阪市に本社がある従業員30名以上の製袋業会社の事例をご紹介します。
製袋という業種柄、手先が器用な人材を求めるが、書類では判断のつかない見極めに手間がかかる
人材不足により専任の採用担当者を配置できず、採用活動に苦労
アピールポイントとして、製袋加工の専門会社という「オンリーワンの技術力」と「会社づくりに携わることができる」ことを掲げ、画像・文章の両軸で訴求
応募数を集めつつ、書類選考などにおいて選別作業は採用アウトソーシングに依頼
採用担当者は、応募者の面接だけに注力
応募者数90名で予想をはるかに超えた応募を獲得。厳選した1名の採用に成功
書類選考や応募者対応はアウトソーシングに依頼し、面接だけに集中したことで納得の採用につながった
事例から学ぶ採用戦略を実行する際のポイント
紹介した採用戦略の成功事例をもとに、採用戦略を実行する際のポイントを詳しく見ていきましょう。
採用後の人事戦略と連動させる
採用は、自社の業績に貢献する人材の確保が最優先であるため、採用戦略を検討する際は、入社後の人事戦略と連動させることが重要です。
例えば、先述した事例のように、発注依頼に応えるため即戦力となる人材がほしいケースでは、新規採用ではなく多様なスキルや経験を持つ、中途採用をメインにしたほうがよい結果をもたらします。
採用戦略を検討する際は、自社の人事戦略を理解し、施策に統一性と一貫性を生むことで求める人材獲得につながるでしょう。
自社が求める人材に応じた採用手法を選択する
採用戦略を実行する際は、自社が求める人材に適した採用手法を選択することも不可欠です。
特に中途採用においては、自社の課題に応じて必要なスキルや経験が異なるため、採用手法の選定は慎重におこないましょう。
採用手法はそれぞれに特徴があり、採用ターゲットによって有効な手法やチャネルが異なります。
また、各採用手法にはメリット・デメリットがあるため、欠点を補う形で複数の採用手法を組み合わせるのも効果的でしょう。
外部パートナーを含めた「採用プロジェクト」を実施する
採用戦略を進めるにあたっては、人事リソースが不足していないかの確認もしましょう。
その上で、戦略実施のリソースが確保できない場合は、外部パートナー企業をうまく活用し、採用プロジェクトを実施することが肝要です。
外部パートナーといっても種類が多く、人材紹介会社から採用アウトソーシングなど多岐に渡ります。
事例で紹介したように、時間のかかる書類選考や応募者対応を採用代行で賄い、コア業務にあたる面接だけに注力するといったことも可能です。
採用課題によっては自社だけで採用戦略を実施しようと考えず、採用のノウハウを持つ専門業者の力も借りながら、中途採用の成功に向けた施策をおこないましょう。
PDCAサイクルを回し改善を図る
立案した採用戦略が適切であったか、PDCAサイクルを回し効果を検証しながら改善を図ることも大切です。
半期や年度ごとなど、定期的に採用活動の手順や成果を確認し、戦略が正しかったかどうか確認しましょう。
なお、採用活動中のPDCAサイクルの実施は、スケジュールの遅れや方向性の違いの可視化につながります。
早期に戦略とのズレに気づくことで、軌道修正も可能となるでしょう。
戦略の実施と改善はセットで考え、課題や改善ポイントを洗い出すことで、次回の中途採用における戦略の精度を高めることにつながります。
採用戦略立案までの流れ7ステップ
採用戦略の立案の流れを7つのステップに分けて解説します。
(1)中期経営計画・事業計画の把握
まずは、事業計画の把握から始めます。
採用戦略は、事業計画の実現に向けて、どのような人材が必要か、配置や育成は具体的にどのように実施するのかなど、企業の中長期経営計画に基づいた立案が重要です。
市場環境の変化を踏まえた事業拡大や新規事業の開始など、自社の成長を見据えた人材採用を検討しましょう。
(2)人員計画の策定
中長期的な事業計画をもとに、採用人員の計画を策定します。
採用人数の検討時は、新卒や中途社員の採用以外にも、さまざまな人材確保の方法を理解しておくことが大切です。
事業内容によっては、内部調整やアウトソーシングの方が適切なケースもあるでしょう。
(3)採用ターゲットやペルソナの設定
採用人員の計画とともに、どのような人材を獲得したいのか、採用ターゲットやペルソナの設定をおこないます。
採用ターゲットを絞り込む際は、自社が求職者に求めるスキルや経験などの特徴を洗い出します。スムーズに選考を実施するためには、求める条件に優先順位をつけておくと分かりやすくなります。
ペルソナとは、人物像を詳細に定義すること。価値観やライフスタイルなど、ターゲットよりも具体的に採用したい人物像を設定します。
詳細なペルソナを設定することで、自社の採用したい人物像が明確になり、採用のミスマッチ防止につながるでしょう。
(4)3C分析をおこなう
設定したターゲットやペルソナが自社に適した人材であるかを可視化する際に、3C分析の実施が有効といわれています。
3C分析とは、「Customer(顧客・市場)」「Company(自社)」「Competitor(競合)」の頭文字をとったマーケティングの分析方法です。
採用における「Customer」とは、自社の求人倍率や求職者のニーズを整理することです。
「Company」とは、採用活動における自社の強みや弱みを把握することです。給与や賞与といった福利厚生以外にも、仕事のやりがいも含まれます。
「Competitor」とは、自社と比較検討される企業のことです。競合他社の採用方法や採用ポジション・給与などを把握します。
3Cを分析することで、他社にない自社のアピールポイントを探し出すことに役立つでしょう。
(5)採用手法やチャネルを選定する
採用チャネルとは、採用活動を行う際に求職者にアプローチするための手法のことです。
手法には、求人・転職サイトや人材紹介、社員紹介、再雇用などさまざまな種類があります。
採用ターゲットによって有効な採用チャネルは異なるため、自社の状況に応じた最適な手法を選定することが重要です。
(6)採用活動・面接の開始
実際の採用活動や面接の実施では、選考フローにおいて自社で決めた求職者に求める条件を当てはめながら絞り込みます。
一度に全ての項目を確認することは難しいため、書類選考や筆記試験、集団面接など各選考フローにおいて何を確認するのか設計しましょう。
(7)内定者フォローの実施
内定後や入社後におけるフォロー体制も肝要です。
優秀な人材を獲得しても、早期離職に至ってしまっては採用戦略を立案して進めた意味がなくなってしまいます。
入社後の研修以外にも、既存社員との交流会や定期的な1on1など、自社に早く馴染み向上心を持って業務に取り組めるような受け入れ体制の整備に尽力しましょう。
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まとめ
優秀な人材獲得の手法である採用戦略は、労働人材が不足し求人倍率が上昇している昨今において、その重要度は増しています。
採用戦略立案に向けた具体的なステップは、自社の中長期的な事業戦略を把握した上で、必要な採用人数とペルソナを考察し、3C分析を取り入れながら自社に適した採用手法を導入することが大切です。
今回紹介した立案までのステップや実行するうえでのポイントを参考にしながら、自社の成長につながる採用戦略を立案し、企業全体で取り組みましょう。
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