企業にとっての人手不足は、日本社会において深刻な課題の一つです。業界・職種によりバラつきはあるものの、あらゆる企業で慢性的な人手不足に陥っています。
この記事では、人手不足の現状と原因や人手不足解消のために企業が取るべき施策などについて紹介します。
目次
日本企業における人手不足の状況と原因
人口減少が進む日本では人手不足が深刻化し、企業の人材獲得競争は激しさを増す一方です。特に、中小企業では人手不足が経営に直接影響を及ぼすため、より深刻な課題となっています。
2022年8月、帝国データバンクがおこなった「人手不足に対する企業の動向調査」によると、人手不足の割合は、正社員で49.3%、非正社員で29.1%で、2020年4月のコロナ禍以降最高の割合となりました。
また、パーソル総合研究所のおこなった「労働市場の未来推計2030」によると、2030年には644万人の人手が不足するという予測結果が出されています。
日本の企業にとって人手不足は深刻な課題であることは明白です。
なぜ、多くの企業において人手が不足しているのでしょうか。
人手不足の主な理由としては、以下のものが挙げられます。
- 少子高齢化
- 社会情勢の変化
- 生産性が低い
(参考:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」)
(参考:パーソル総合研究所「労働市場の未来推2030」)
(1)少子高齢化
日本で問題視されている少子高齢化は、今後ますます加速すると言われています。
内閣府の出した「令和4年版高齢社会白書」によると、2021年時点で1億2,550万人いた日本の総人口は、2055年には9,744万人にまで減少すると予測されています。
出生率の低下も影響し人口が減少する一方で、65歳以上の高齢者は全体の28.9%まで上昇しています。
就労可能な64歳以下の労働人口が減少していくため、少子高齢化が慢性的な人手不足の原因となっているのです。
採用難の中で企業は、人材のミスマッチを防ぎ、定着率を高める施策が求められています。
また、シニア層の雇用や今いる人材の育成など、限られた資産の活用に乗り出す企業も増えています。
(参考:内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)1 高齢化の現状と将来像」)
(2)社会情勢の変化
人手不足の原因として、社会情勢の変化も挙げられます。これまでの日本社会では、終身雇用が一般的でした。
しかし、近年の企業努力ではどうにもならない社会情勢の激化により、終身雇用が崩壊しつつあります。
こうした社会情勢の変化を受け、一つの企業に居続けることに不安を覚える若い世代も増えていることから、人材の流動性が高まっています。
2021年11月に厚生労働省が発表した「令和2年転職者の実態調査の概況 」によると、転職者の直前の勤め先の通算勤務期間は「2年以上5年未満」が26.9%と最も高い数値でした。
20~40代の約3人に1人が2~5年で転職しており、転職が当たり前の時代へとシフトしていることがわかります。
(参考:厚生労働省「令和2年転職者の実態調査の概況(2021年11月)」)
(3)生産性が低い
経済協力開発機構(OECD)によると、2020年の日本の「就業者1人当たりの労働生産性」は加盟国38カ国中29位という結果でした。
ここで言う労働生産性とは、1人当たりの従業員が生産できる成果を数値化したものです。
日本の就業1時間あたりの労働生産性 は、49.9ドルと、2020年と比較すると実質ベースで1.5%上昇しているものの、米国の85ドルと比較して6割に満たない水準となっています。
日本は世界と比べても生産性が低く、労働時間が長いのにも関わらず利益が少ないのが問題視されています。
その大きな原因として、利益に直結しない「ノンコア業務」と呼ばれる業務の比率が高いことが挙げられます。
ノンコア業務とは、具体的に以下のようなものがあります。
- 書類作成などの事務作業
- 郵便物の仕分けやメールの返信対応
- 面接の日程調整
- 形骸化した慣習やルール など
全体の業務に占めるノンコア業務が多いと生産性が上がらないため、結果として人手不足に陥ってしまうのです。
(参考:公益財団法人日本生産性本部「ⅠOECD諸国の労働生産性の国際比較」)
人手不足はどのような業界で多いのか?
(参考:厚生労働省「労働経済動向調査(令和5年2月)」)
多くの企業が人手不足に悩んでいますが、特に深刻となっている業界・職種は以下の通りです。
- サービス業
- 飲食業
- 医療業界
- 介護・福祉業界
- 建設業
- 運送業 など
厚生労働省が発表した2022年1月の「一般職業紹介状況」では、上記の業界の有効求人倍率は1.93~4.86倍と人手不足に陥っていることがわかります。
求職者一人に対して約2~4件もの求人があるという状況です。
各業界が人手不足になる理由はさまざまですが、主な理由には「低賃金や休みが不規則」「精神的・体力的負担が大きい」など労働条件が悪いことや、「社会の変化により業界の需要が高まっている」「必要となる専門的知識や技術を持つ人材がそもそも不足している」ことなどが挙げられます。
コロナ禍の社会情勢も影響する中で、これらの業界・職種は特に深刻な人手不足にあると言えます。
その中から、上位3つの「医療・福祉」「建設業」「運輸業・郵便業」について人手不足が深刻な理由を以下でご紹介します。
(参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(2022年1月)」)
医療・福祉
医療・福祉業界は慢性的な人手不足となり、他業種の中でも最も人手が不足しています。
特に介護領域の人手不足は深刻で、少子高齢化により介護サービス量は年々増加しています。
2025年には2017年に比べて、20%以上のサービス量の増加が見込まれる一方で、賃金格差や施設運営における整備不足などが理由となり人材確保が難しい状況が続いています。
2025年に向けた介護人材の需給ギャップは、約38万人と推計されており、対策が迫られています。
建設業
建設業の人手不足の原因として、労働人口の減少以外にも給与水準の低さや不安定さ、建設業の需要拡大などさまざまな理由が挙げられます。
建設業の就業者数は、ピーク時の1997年と比べ2020年には約28%減少しており、2025年には90万人もの需要ギャップが予測されています。
建設業に対する悪いイメージが新規雇用の妨げになり、労働人口の高齢化を進行させているのが現状です。
運輸業・郵便業
近年、インターネット通販の普及や新型コロナウイルスの影響により、宅配便の取り扱い数は急激に増加している一方で、ドライバー不足が深刻化しています。
主な理由には、「労働生産性の低さ」「給与水準の低さ」「長時間労働」などが挙げられます。
現役のドライバーの高齢化が進み、2030年におけるドライバーの需要ギャップは、8.6万人と推計されています。
人手不足が企業に与える3つの影響
人手不足は、企業にさまざまな悪影響を及ぼします。主なデメリットを以下で3つご紹介します。
労働環境の悪化
厚生労働省がおこなった「人手不足が企業経営や職場環境に与える影響について」の調査結果によると、人手不足が企業に及ぼす具体的な影響として最も多かった回答は「残業時間の増加、休暇取得数の減少」でした。
人手が足りないため、従業員一人あたりの業務量が増え、結果として残業時間の増加や休暇が取れなくなるなど、労働環境が悪化しています。
特に、「医療・福祉関係専門職」「技術系専門職(研究開発、設計、SE等)」「教育関係専門職」などの非定型的業務の比重が高い職種で強い影響が生じています。
はたらきがいや意欲の低下
業務量が増えるため、従業員の肉体的・精神的な負担が大きくなりモチベーションの低下につながります。
業務をこなすのに精一杯の状態では、仕事にやりがいを感じられなくなります。
特に、「製造・生産工程職」「事務職(一般事務等)」など定型的業務の比重が高い職種において影響が大きい傾向にあります。
モチベーションが下がると、前向きな姿勢が失われ生産性が低下する可能性があります。
一方、企業側はあまり問題視しておらず、労使間でギャップが生じていることがわかります。
事業の縮小
事業の縮小も、人手不足が及ぼす影響の一つです。
厚生労働省がおこなった調査結果では、人手不足が企業に及ぼす具体的な影響の中に「離職者の増加」があります。
これは3番目に多い項目でした。
前述したように、人手不足により労働環境が悪化し従業員の負担が増えることで最悪の場合、離職につながります。
結果として、既存事業におけるリソース不足を招き事業縮小を余儀なくされてしまいます。
事業を維持するだけで精一杯となり、新規事業の立ち上げも難しくなります。
市場での成長機会を失えば業績も伸びず、「将来性がない会社だ」と人材流出を招く悪循環に陥ってしまいます。
(参照:厚生労働省「人手不足が企業経営や職場環境に与える影響について」)
人手不足に対して企業が取り組むべき対策
人手不足解消のために、企業が取り組むべき対策として、以下のような内容が挙げられます。
- 職場環境の改善
- アウトソーシングの活用
- 採用方法・雇用人材の多様化
- DXの推進
- リスキリングの導入
- 副業・兼業を許可する
- 非効率な業務を改善する
ここでは上記の7つの対策について詳しく解説していきます。
自社で取り組む際にぜひご参考ください。
(1)職場環境の改善
まずは、自社の職場環境を改善して、今居る従業員に働き続けてもらえる仕組みづくりに取り組みましょう。
従業員に「この会社で働きたい」と思ってもらえる魅力ある職場環境にすることが大切。人材の流出を防ぐだけでなく、従業員のモチベーションや生産性の向上にもつながります。
給与や福利厚生など収入面の改善のみならず、リモートワークやフレックスタイム制の導入などといった働き方の改善も有効です。
従業員が心地よく働ける環境の整備は、人手不足解消に必要不可欠な施策となっています。
詳しい離職防止対策について知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。
(2)アウトソーシングの活用
人手不足を解消する施策として、アウトソーシングの活用も効果的です。
アウトソーシングとは、自社の業務の一部分を外部の企業が運用・代行してくれるサービスです。
費用は発生しますが、その道のプロに業務を依頼するため、新たに人材を採用するよりも手間と時間を削減できます。
指揮命令の必要もないので、社内のリソースをほとんど割くことなく依頼できるのがメリットです。
人手がすぐに必要な場合やプロの力が必要な場合には、アウトソーシングを検討してみてはいかがでしょうか。
(3)採用方法・雇用人材の多様化
自社の人材採用を見直し、より幅広い人材獲得に向けた柔軟な体制づくりに取り組むことも、人手不足の解消につながります。
少子高齢化に伴う若年層の人材獲得が難しい今、従来の「待つ採用」ではなく「ダイレクトリクルーティング」や「リファラル採用」などあらゆる採用方法を取り入れるのも有効です。
採用のメインターゲットではないシニア層や女性の雇用を促すなど、採用の間口を広げる見直しも効果があります。
パートや業務委託など、雇用形態のバリエーションを増やすのもよいでしょう。
ダイバーシティが推進される現代において、多様性に富んだ人材の採用は、企業の発展を促す一助となってくれます。
(4)DXの推進
DXを推進し、生産性の向上を図ることも人手不足解消に効果的です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用してサービスやビジネスモデルを変革するとともに、企業の優位性を確立するための取り組みです。
例えば、手作業でおこなっていた業務を自動化することで、従業員は浮いた時間をより生産性の高いコア業務に費やせます。
サービスや業務品質の向上は顧客満足度にもつながり、結果として会社の価値向上に寄与します。
DXは、離職率の低下や生産性の向上など人手不足解消につながるさまざまなメリットがあります。
人材獲得が難しい場合、社内の体制構築に目を向けてみましょう。
(5)リスキリングの導入
人材戦略の一つとして「リスキリング」を導入し、従業員を育成することも人材不足解消に寄与します。
時代の変化とともに、従業員に求められるスキルや能力は多様化してきています。
そのため、今自社で働いている従業員の育成に注目が集まっています。
リスキリングとは、これまで従業員がおこなっていた業務とは異なる職務や、新たな分野のスキルを身につけることです。
DX化やIT化が進み変革せざるを得ない状況の中、従業員に新たなスキルを取得させて新規事業やより付加価値の高い職務を担ってもらう人材戦略です。
一人ひとりの能力を高めることで人手不足解消へとつなげます。
(6)副業・兼業を許可する
副業・兼業はどちらも「本業以外で、収入を得るためにおこなっている仕事」を指します。
政府の規制改革推進会議においても、雇用労働分野の「副業・兼業の円滑化」が取り上げられ、近年注目を集めています。
副業・兼業を認めることは、柔軟な働き方を求める人材の流出防止に有効な手立てですが、就業規則や運用ルールなどの社内規定や、副業・兼業先の業務内容、従業員の労働時間の把握など、十分に社内体制を整えたうえで取り入れましょう。
また、自社で副業・兼業人材を活発に採用することも、新たな雇用機会の創出につながり、人材不足の解消が期待できます。
働く側における副業のメリット
働く側における副業のメリットには、以下のようなことが挙げられます。
- 収入が増加する
- 人脈が広がる
- スキルアップやキャリアアップにつながる
- やりたいことに挑戦でき、自己実現の追求が図れる など
企業側の副業を許可するメリット
企業側が副業を許可するメリットには、以下のようなことが挙げられます。
- 従業員のスキルアップにより、自社の生産性が向上する
- 従業員の人脈を事業機会の拡大につなげられる
- 他社での経験を求める優秀な人材の流出防止になる
- 従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上につながる など
(7)非効率な業務を改善する
企業においては、人手不足の中でも高い成果を出すことが求められるため、業務を効率化することは非常に重要です。
多くの人手を必要とせずに生産性を高められる体制を構築できれば、限られた人材でも業務を進めることができます。
必要以上に手をかけすぎて、工数や経費がかかりすぎている作業や工程がないか、業務プロセスを見直すようにしましょう。
中小企業においては、社員一人の業務が大企業と比べて多岐に渡る場合が多いため、むやみに業務の節減をおこなうのではなく、人材の適材適所ができているか、個人レベルでタスク管理ができているかなどを確認することも必要です。
ここでは、業務プロセスを見直す際のポイントをお伝えします。
業務プロセスを見直すときのポイント
業務プロセスを見直す際は、まず現場において長期間見直しをしてこなかった業務の棚卸しをすることがポイントです。
特に非効率さの原因になりがちなものとして、定型業務や形骸化した定例会議、不必要な残業などが挙げられます。
また、以下のような項目も業務プロセスを見直すポイントになるので、プロセスを見直す際に確認しましょう。
- 人材の適材適所ができているか
- 従業員一人あたりの業務量は適切か
- 個人レベルのタスク管理ができているか
- 従業員それぞれの役割が明確か
- マニュアルが整備されており、属人的な業務がないか
人手不足の解消に成功した企業事例
人手不足の解消に成功した事例をご紹介します。自社で取り組む際の参考にしてください。
ワークライフバランスを向上し採用難を打破
電気機械器具の製造業を手掛けるA社では、新卒・中卒採用ともに応募者数の減少や内定辞退者の増加などの採用難に陥っていました。
特に、女性の結婚・出産による退職に課題を感じていたため、女性の声を拾い「働きやすい環境」を整備するべくプロジェクトチームを設置。
短時間勤務制度の見直しや、女性社員のキャリア研修の実施などを積極的におこない、女性活躍推進の取り組みを人材募集時にもアピールしました。
その結果、女性の出産・育児を理由とした退職者がなくなり、育児休業取得率・復帰率ともに100%を実現しました。
働き方改革に取り組み離職率0%を実現
企業内保育施設の企画・運営をおこなうB社では、離職率が44%と高く、サービスの質の低下が課題でした。
一部のスタッフに負担が集中するなど、チームワークが悪化したことでサービスが低下してしまい離職者が相次いだことから、顧客からもクレームが発生する状況に。
そこでB社は、再度従業員に企業理念達成に向けたビジョンを伝え、「残業ゼロ」「有給完全消化」を目指して代替スタッフの確保を実行。
加えて、ITツールの活用により業務の効率化を図るなど働き方改革に取り組んだ結果、離職率0%を実現しただけでなく、チームパフォーマンスも向上したことで顧客の満足度の向上にもつながりました。
まとめ
ここまで、人手不足の原因や対策、人手不足が深刻な業界などを紹介しました。少子高齢化や働き方の多様化など、企業の人手不足はますます深刻化することが予想されます。
目まぐるしく変わる社会情勢の中で生き抜くためにも、企業にとって人手不足の解消は最重要課題と言っても過言ではありません。
人手不足に悩んでいる企業は、この記事を参考にどの施策が自社に合っているのかをしっかりと検討し、人手不足解消に役立ててください。
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