近年、人材の採用に課題を抱える企業が多い中、採用活動にマーケティングの手法を取り入れた「採用マーケティング」に注目が集まっています。
今回の記事では、採用マーケティングの基本的な考え方や、導入するメリット、採用力強化につながるポイントを解説します。
目次
採用マーケティングとは何か?
採用マーケティングとは、ビジネスにおけるマーケティングの概念と手法を採用活動に取り入れることを指します。
一般的なマーケティングとは、顧客を理解しニーズを満たす製品を作る、またはターゲットとなる層に自社製品やサービスを認知してもらう活動のことです。
採用マーケティングでは、「企業が理想とする人材のニーズを把握し、待遇や職場環境などを整える」「採用ターゲットとなる層に認知を広げ、興味関心を促す」ことを戦略的に実践し、採用成功に導きます。
マーケティングで用いられる考え方や戦略は採用活動にも効果的で、近年採用マーケティングを重要視する企業が増えています。
採用マーケティングと採用ブランディングの違い
採用マーケティングと併せて語られることが多い言葉に「採用ブランディング」があります。
採用ブランディングとは、自社のあり方やカルチャーを対外的かつ継続的に発信し、求職者に企業イメージを狙い通りのブランドとして定着させていくことです。
採用ブランディングは、自社のイメージを構築していくためのプロセスとも言えます。
一方採用マーケティングは、採用活動成功のため、どの層にどんな手法でアプローチするのかを考える取り組みです。
また、採用マーケティングでは、求職者の動向だけではなく、同業他社などとの比較といったように相対的に自社をとらえることも大切です。
採用には企業の持つブランドイメージも大きく影響するため、採用ブランディングは、採用マーケティングとも密接に関わっています。
採用マーケティングが重要とされる背景とは?
採用マーケティングが重要視されるようになった背景には、採用競争の激化が関係しています。近年では転職が一般化し雇用市場では流動化が進んでいます。
また、求職者はSNSの浸透などによりさまざまなチャネルを活用し情報収集しているのが現状です。
従来のように採用ナビサイトへの広告掲載や人材紹介サービスの活用だけでは、よい人材を採用できないことが課題になっています。
また、新卒採用においても人材採用が難しく、戦略の見直しが必要です。
株式会社ディスコがおこなった「キャリタス就活2022 学生モニター調査結果」によると、2022年卒業予定の学生の5人に1人(21.1%)は、大学3年生で内定を獲得しています。
加えて、通年採用を実施する企業も増えたことで、採用の早期化・長期化が進んでいるのも要因の一つです。
企業にとって採用の難易度が高くなっている状況下において、採用にマーケティング視点を活用する採用マーケティングが注目されているのです。
(参考:株式会社ディスコ「キャリタス就活2022 学生モニター調査結果」)
採用マーケティングのターゲットとなる層は?
採用マーケティングでは、転職顕在層だけでなく転職潜在層も含めた転職希望者がターゲットとなります。
この転職潜在層の中には、自社の社員やアルムナイ(退職者)、過去不採用になった候補者や内定辞退者などの選考参加者もターゲットとして含まれます。
以下では、採用マーケティングにおけるターゲットとなる層についてご紹介します。
幅広い層にアプローチすることで、自社の求める優秀な人材確保を目指しましょう。
自社の社員
採用マーケティングにおいて、自社の社員もターゲットの一つです。マーケティングの観点で「社員=既存顧客」とみなし、戦略上重要な位置づけとなります。
自社の社員がいきいきと働ける環境を整備し、エンゲージメントを高めて帰属意識の醸成を目指します。
自社に愛着を持ってもらうことで、リファラル採用やアルムナイ採用の活性化に加え、結果として社外へのイメージ向上にもつながります。
社員のエンゲージメント向上には、社内コミュニケーションの活性化やワークライフバランスの向上など、社員がストレスなく働ける環境づくりが求められます。
更に、社員のスキルを最大化するため、適材適所への人員配置やキャリア支援、人材育成なども効果的です。
退職者(アルムナイ)
ビジネスでのアルムナイとは、「定年退職以外の離職者・退職者」のこと。
採用マーケティングにおいては、採用候補者、自社の情報発信者、顧客の3つの側面を持っています。
退職した元社員と良好な関係を築くことで再雇用の可能性があるだけでなく、自社での就業経験に基づく信頼性の高いクチコミ発信も期待できます。
また、自社と近い属性の業種に転職した場合など、アルムナイが仲介者となり新たな顧客獲得の機会も生まれます。
外資系企業や国内の大手企業などでも、アルムナイネットワークが活用されるなど注目を集めています。
良質なアルムナイが自社に及ぼす影響は大きく、採用マーケティングの観点からも重要度の高い層と言えます。
内定辞退者や過去の選考参加者
過去の選考参加者もまた、採用マーケティングの対象です。内定辞退者だけでなく、過去不採用になった選考参加者もターゲットに含めます。
不採用だからとないがしろにしてしまうと、SNSや口コミで「対応が悪かった」などネガティブな発信をされてイメージダウンにつながるリスクがあります。
企業イメージの悪化を防ぐだけでなく、選考参加者はタイミング次第で意向醸成やスキルマッチが可能になり、再度候補者となる可能性もあります。
内定辞退者や最終選考まで残った候補者ほど、マッチング度が高い傾向にあるため、採用マーケティングのターゲットとして適切な対応が不可欠と言えます。
採用マーケティングのメリット
採用マーケティングを導入するとどのようなメリットがあるのでしょうか。4つのメリットを紹介します。
- ターゲット人材からの応募が増加する
- 潜在的なターゲット層への認知が進む
- 採用コストの削減につながる
- ミスマッチによる早期離職を防止できる
ターゲット人材からの応募が増加する
従来の採用活動に比べ、採用マーケティングのプロセスでは、特定のターゲット人材に刺さるようなメッセージ発信や訴求をおこなうことが特徴です。
そのため、訴求が成功すれば自然に母集団におけるターゲット人材の含有率が増加する傾向にあり、採用の精度を上げることを期待できます。
潜在的なターゲット層への認知が進む
労働人口の減少が確実であることから、企業はこれからも採用難に直面するでしょう。
採用マーケティングでは「この会社で働きたい」と思える情報発信を継続的におこない認知を拡大していきます。
特に潜在層に向けた情報発信では採用情報に限らず、自社のメッセージ、社員、文化、福利厚生といった魅力を多角的に伝えていきます。
ターゲットに転職のタイミングが訪れた際、転職の有力候補先として採用マーケティングは時間差でも効果を発揮することが期待できます。
採用コストの削減につながる
採用マーケティングは、コスト面でも多くのメリットがあります。
採用マーケティングを導入することで、ターゲット人材に特化した訴求をおこない、効果的な採用アプローチが可能になります。
それによりこれまで不要にかけていた広告費などを減らせ、採用コスト全体の削減につながります。
また、マッチング率の向上は離職率の低下につながり、長期的な採用コストや育成コストの削減も期待できるでしょう。
ミスマッチによる早期離職を防止できる
ミスマッチによる人材の早期離職防止も、採用マーケティングをおこなうメリットです。
採用マーケティングでは、採用ターゲット像となるペルソナを設定することでマッチング精度の向上につながります。
情報発信の際には、採用情報以外にも企業理念や代表のメッセージ、社員のインタビューなど自社の強みや魅力を伝えましょう。
応募者の企業理解を深められるため、「思っていたのと違った」などギャップによる内定辞退や早期離職を防ぎ、定着率の向上が期待できます。
採用マーケティングの流れ
新たに採用マーケティングを導入する企業では、採用活動にマーケティングの思考方法を取り入れ実践していく必要があります。
ここからは、採用マーケティング導入までの流れを紹介します。
(1)自社の特徴を分析
採用マーケティングをおこなう際は、自社の経営理念や戦略をあらためて見直し、強みや弱みを把握するところから始めます。
例えば強みとしては、特定分野における製品の優位性、福利厚生の充実などが挙げられます。弱みの一例としては、認知度が低いことや若手社員が少ないなども挙げられるでしょう。
自社の特徴を色々な面から客観的に見直し、情報発信することが採用マーティングの第一歩となります。
(2)採用ターゲット選定
マーケティング戦略において重要な要素のひとつがターゲティングです。
採用マーケティングでは、自社が求める人材の特徴を明確にし、アプローチの対象を絞り込みます。
ターゲット設定が曖昧では、施策の効果が出づらく、コストと労力だけが消費されていく事態になりかねません。
採用マーケティングでは、狙う人材に集中的にアプローチすることが重要です。
(3)採用ターゲットのニーズ調査
設定した採用ターゲットがどのようなニーズを持っているかを調査します。
例えばターゲットが求める職場条件は、SNSによるアンケート調査結果やこれまでの採用活動で得られたデータなどから導き出せます。
自社での調査が難しい場合には、外部の採用活動のプロフェッショナルに相談してみるのもよいでしょう。
(4)効果的なアプローチ策を検討
整理したニーズから、ターゲットに響く効果的なアプローチ方法を検討します。
転職活動中の求職者と転職潜在層へのアプローチ方法は異なるため、フェーズごとに響く施策というのは当然変わってきます。
重要なのは「興味関心を強める施策」であり採用結果につながること。自社に最適なアプローチ方法を検討します。
(5)採用施策の実施
採用施策を実施していきながら、日々振り返りをおこない改善点がないかをチェックします。
例えば、「広報に反応がない」「採用ターゲット違うタイプの応募が多い」「辞退者が多い」などの問題が発生することもあります。
データ分析などをおこない原因を究明し、課題を解決するにはどうするべきかを具体的に考えた上で施策を改めて講じていきます。
社会情勢の変化も激しいためPDCAを回しながら、採用マーケティングを継続していきます。
採用マーケティングの成功事例
採用マーケティングの成功事例として、専門メディアを立ち上げ運営した例をご紹介します。
スマートフォンアプリの開発や運営をおこなう情報サービス企業A社では、採用ブランディング確立のための専門メディアサイトを作成しました。
事業内容の紹介や販促などを目的としたコーポレートサイトとは別に、採用候補者に向けて企業風土や採用情報を発信するオウンドメディアを運営しています。
採用に特化した情報を一か所に集約したことで、求職者側のCXも向上する上、求職者とのコミュニケーション効率も改善されました。
応募前や入社前に情報共有ができた上で、選考や入社をスムーズに迎えられるのもメリットと言えます。
まとめ
人材獲得競争が難しい状況にある中、採用マーケティングの思考を取り入れていくことは重要です。
自社での採用マーケティングが難しい場合には、専門知識のある採用コンサルティングサービスへ協力を依頼し、戦略を構築していくこともできます。
今回の記事を参考に自社の採用活動に採用マーケティングを導入してみてはいかがでしょうか。
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