ビジネスコラム
”通年採用”というガラパゴス的トレンド
ヒューマンリレーション事業部 グループマネージャー 李 泰一
ここ数年、求人倍率の高まりに伴って、“通年採用”という言葉が採用市場で頻出するようになり、一つのトレンドになっています。
「通年採用」とは「新卒一括採用」の対義語として使われ、
企業が卒業予定の学生を対象に年度毎に一括して求人し、在学中の一定の時期にエントリーを募り、選考を実施し、内定を出す、という従来の方法を見直し、より現実に即したカタチにしようという動きだと言えます。
ご存知の通り、「新卒一括採用」は、世界に類を見ない日本独特の雇用慣行です。
アメリカの場合は、新卒の一括採用はもちろん存在せず、一流大学に通っていて成績が良くても、「職歴」がなければ書類選考すら通らないことが多いそうです。職歴のない大学生はインターンシップに参加し、それを職歴の代わりとしてレジュメに記載するそうです。
ドイツでは、卒業後に就職活動を開始するのが一般的で、新卒者用の求人はありません。また、新卒者の多くは、最初の1、2年間は期限付きの雇用契約しか結べないことが多いそうです。
韓国の場合は、2009年から施行された年齢差別禁止法によって新入社員募集時の年齢差別禁止が義務付けられるように。例えば、企業が求人広告を出す時に「2018年卒業(予定)者」、「大学卒業後2年以内」のような表現が入っていると差別になり、罰則または過怠金を受けることになるそうです。
実は日本も2007年に雇用対策法が改正され、「事業主は労働者の募集及び採用について、年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならない」とされ、年齢制限の禁止が義務化されました。
ところが、厚労省が「日本的雇用慣行」を守るために、新卒採用を法律の適用除外にしているため、例外的にいまの制度が保たれているのです。
「新卒一括採用」という考え自体が日本独特の雇用慣行で、世界各国では当たり前に通年採用をしているわけですから、日本の“通年採用トレンド”はガラパゴス的だと言わざるを得ません。
さて、日常に話を戻しましょう。
日本の採用市場において昨今、通年採用という言葉が2つの意味合いで使われています。一つは、既卒者や秋卒業の留学生、また外国人など多様な人材を採用するために、既存の枠組みに縛られず自由度の高い採用活動を実施しようという動き。
もう一つは、いわゆる採用活動のピーク時の、春から夏にかけて目標人数を採用しきれないため、秋や冬まで年間を通じて採用活動を継続しようという動き。
どちらも、求人倍率が高い中で、より自社にマッチした人材を採用しようという企業の努力だと言えます。
実は、過去にも日本では求人倍率が高い時代に通年採用導入の流れがありました。バブル期に横行した「青田買い」も“通年採用”を象徴する出来事の一つです。しかし、結局は定着しませんでした。私は求人倍率の低下・買い手市場化が原因だと分析しています。
「銀行は雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を貸す」という言葉があります。企業の経営が安定し好調の時はどんどん融資してくれるのに、経営が苦境になり資金が必要な時には資金を回収しようとするという意味です。
売り手市場で採用が難しい時にだけ“通年採用”で求職者への門戸を広げ、景気が悪くなり求人ニーズが落ち着くと効率の良い“一括採用”に逆戻りしていたのでは、上述したそれと同じです。
自社の採用力向上だけに焦点を当てても、競争の激しい時だけ頑張るのではなく、他社が採用に投資を控える時期にこそ、採用にパワーをかけることで、より優秀な人材の採用が実現できることは明白です。
昨今の”通年採用”化現象は、単なるトレンドなのでしょうか。それとも歴史的な転換点なのでしょうか。
2016.12.14 KSN 131
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