2016年卒の新卒採用が本格化してきた。
アベノミクスの景気浮揚策と経団連による実質的な就職協定で、
売り手市場化を実感した昨年度と比べ、さらなる激化を感じる。
新卒も中途も、ますます売り手市場が深刻化するとしても、
事業を伸ばすためには優秀な人材を採らなければならないのが、
企業の宿命だ。
売り手市場での採用活動となれば、
企業の採用予算は拡大し、広告に予算を投じることになる。
しかし、広告量と効果は単純には比例せず、
一回あたりの広告効果は下がってしまう。
そのため企業はさらに多くの広告費を割くが、
投資効率はどんどん落ちるというスパイラルに入るのだ。
経済学に、「限界効用」という概念がある。
ここでいう限界とは、ある財が1単位ずつ追加された場合に
もたらされる効用の変化量を指し、効用は満足度のことを言う。
例えばビールを飲む時、最初の1杯は異常に美味しく感じるが、
2杯目、3杯目と飲み進むに従って、
同じ1杯あたりの満足度(効用)は下がっていくのが普通だ。
ビールに限らず、他の食べ物やサービス(財)でも同じで、
これを限界効用逓減の法則という。
採用広告の効果も、まずは露出頻度に応じて上がっていくが、
ある回数を超えたところでその効果は頭打ちとなる。
その理由こそ、この経済学の大原則なのだ。
採用広告の頻度が高くなったり、広告スペースが広がったり、
露出度が上がると、まずは顕在求職者が呼応してくれる。
しかし、あまりにも広告露出が増えすぎると、
求人に積極的である理由が、成長企業というイメージから、
人材の定着が悪いイメージなどのマイナスに切り替わり、
顕在求職者だけでなく、潜在求職者層に対しても、
マイナスの企業イメージを与えてしまうようになるのだ。
それでも、資金力のある企業や採用予定人数の多い企業は、
広告量を増やす戦略が有効だし、効果を出すことができる。
ただし、限界効用の法則を考えれば、
重要なのは広告内容で、クリエイティブ力の勝負となる。
一方、体力のない中小企業の場合、
SNSやWEBサービスをうまく活用して情報発信したり、
限りある広告費の投資効果を高める工夫が必要だ。
そもそも知名度がないため広告露出もある程度必要だが、
その広告コンテンツは、求職者の反応を得るために、
意識的にターゲットを絞り込んだものにする例も見かける。
数年前までは、給料が飛び抜けて高いとか、
福利厚生に力を入れていることを訴える広告を見かけたが、
今の時代、その類のコンテンツでは求心力が弱い。
データ面の優位性ではなく、たとえばユニークな選考方法や、
社会性ある事業、社会貢献性の高い仕事内容、
女性や高齢者に優しい職場環境などの企業姿勢が、
求職者を惹きつけるコンテンツだと言える。
このような企業姿勢のコンテンツ化が、
「採用ブランドを作る」という戦略である。
もちろん、採用ブランドは単年度では作れない。
だが、潜在求職者にプラスイメージを与えることができれば、
採用広告が会社のファン層を作り出すことにつながる。
そして、イメージ訴求は採用年度を重ねるごとに蓄積され、
徐々に採用ブランドという「資産」が構築される。
広告というフロー費用が、採用ブランドというストックとなり、
会社の資産となって残っていくのだ。
弊社カケハシで言えば、自社サイトである「ミートボウル」や
リアル脱出ゲームなどを用いたユニークな採用手法、
若者の意識改革と地方活性をつなげる事業である「島キャン」、
カンボジアでの大学進学を支援する奨学金プログラムなどが、
そのコンテンツにあたると言えるだろう。
採用事業者である弊社の場合、
これらが自社事業の可能性を表現する役割にとどまらず、
同じく社会性の強いお客様企業の採用ブランド構築でも、
その一端を担える可能性を秘めているのではないかと思っている。
今後もしばらく、売り手市場が続くだろう。
短期的な戦略だけでは、この激化の波は乗り越えられない。
中長期的な取り組みとして、
採用ブランドについて考えることをおすすめしたい。
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