私の父親は国家公務員で、陸上自衛隊に勤務していた。
父親の仕事、仕事への姿勢から、
現在の私自身の仕事観は、かなり大きな影響を受けている。
国家公務員は国民への奉仕が仕事であり、その任務が最優先だ。
災害発生時、友達の父親は早々に帰宅して側にいるのに、
我が家では常に父親は不在だった。
災害が起これば父親はいない。それが当然だと思っていた。
また、私が子どもの頃から、
父の部下たちがよく家に来て、遅くまで酒を飲んでいた。
個人より組織を優先する考え方、指揮系統の重要性、
上司と部下との関わり方などの父の仕事観を、
その晩酌の席で聞きながら、私は育った。
先日、埼玉の県立高校女性教師が我が子の入学式に出席し、
担任するクラスの入学式を欠席したという話題をご存じだろうか。
この行動に対する世の中の意見は、
批判もあったが、女性教師を容認する意見が非常に多かった。
また、状況は異なる例だが、
今月、読売巨人軍の原監督が父親の病床を見舞うため、
当日の試合の采配を託し、病院に向かったという報道を見た。
この原監督の行動も、世論は支持しているようだ。
我々よりも上の世代、父の世代、日本の高度成長期には、
「自己を犠牲にして会社に奉公する」のが美徳だったのだろう。
しかし、終身雇用制が崩壊し、ビジネスモデルが激変する社会で、
今や「会社」は絶対の存在ではないし、依存する先でもない。
少なくとも、会社が自分を一生守ってくれる存在にはなり得ない。
それが経済の変化であり、時代や世代の変化なのだ。
会社に対する考え方の変化は、
同時に、家族に対する考え方の変化だ。
そして時代の変化、年齢や環境によって、
個々人の会社や仕事に対する考え方も変化する。
今、子どもの入学式や卒業式に、
両親が揃って出席するケースが非常に増えている。
以前の私には、これは大きな違和感のあることで、
母親が出席できるなら父親が仕事を休んでまで行く必要はない。
そう考えていたが、自分の考えは変わってきているようだ。
私自身、最近は育児に関わる時間が増えている。
10年前も同じくらいの年の子どもを育てていたが、
当時と今とで、私の育児への関わり方の違いは大きい。
今は、子どもを保育園へ送ってから出勤することがよくある。
時間の調整ができる日ならば、極力自分が送るようにしている。
送りながら周囲を見ると、送ってきているのは父親の方が多い。
私に限らず、今は父親も育児のために仕事を調整するのだ。
当社には育児休業後に復帰している女性社員が何名もいるが、
保育園の送り迎えができるように時短勤務をしている社員たちが
周囲に気を使ってストレスになっていないかと気遣っている。
しかし昔の私にそんな意識は全くなかった。
今思えば、育児への配慮の足らない経営者だったと思う。
経営者や上司が育児期の子どもを抱えている場合はともかく、
子どもの年齢がその段階を既に通り越している場合、
その大変さを理解するのはなかなか難しい。
しかし、これから一層人材の獲得が困難になるこの時代、
育児への協力体制は、会社の人材計画の一部と言えるだろう。
働きたくても復帰できていない女性たちは、
言うまでもなく、潜在的な優秀人材の市場だ。
若年労働者の不足や外国人労働者の受入れを考える前に、
女性の戦力化、復職支援を日本社会全体で考えるべきだと思う。
そして、企業として、経営者として私たちがすべきことは、
受け入る側、企業としての仕事観を変えることだ。
社会、経済、時代の変化とともに、
働く個人の家族観は変化し、伴って仕事観も変化している。
組織を動かす立場にある我々経営層、人事関係者と、
法人としての家庭観、仕事観を変化させることこそが、
採用のため、社員のための環境整備なのではないだろうか。
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