人には、他人の行動を参考にして自分の行動を決める傾向がある。
特に、状況が不明確で自分だけでは判断ができない場合には、
周囲の他の人たちの行動を正しいものととらえ、
自分がどのように振舞ったらよいかを決める手掛かりにする。
これを心理学用語で「社会的証明の原理」という。
たとえば、広い駐車場で出口がわからない時には
他の多くの車が進む方向に向かったり、
書店ではベストセラーや売れ筋ランキングを参考にする。
高速道路を走る速度が周りの車のスピードに影響を受けるのも、
「社会的証明の原理」の現象である。
社会的証明の原理では、
ある行動をとる人が多ければ多いほどそれが正しいと見なされ、
状況が明確な時よりも、不明確な方がより強く作用し、
自分と似た他の人がどう行動するのかに最も強く影響を受ける。
先週、2015年度採用の会社説明会を開催した。
参加してくれた学生に聞いてみたところ、
その日に初めて企業の会社説明会に参加した学生は少なく、
すでに数社を経験した学生が大半であった。
2014年卒の昨年と比較して、学生の活動は早い。
就職サイトのオープンが2ヶ月後ろ倒しになったからといって、
その分学業に専念できるとは思えない。
むしろ、不明確な時期が長くなる就職戦線の中で、
周囲にいる積極的な学生の活動に影響されやすくなっている。
夏休み頃から実施される企業のインターンシップ企画は、
開催する企業数も回数も、昨年より格段に増えた。
つまり、インターンシップ企画に夏から積極的に参加し、
業界研究、企業研究を早々にスタートした学生も増えている。
学生の意識が、早めに活動する層とのんびり構えている層とに
二極化しているのも事実で、
当然ながら、早めに活動する意識の高い層に優秀な学生は多い。
早期開催の会社説明会に優秀な学生が多いのは、
まず活動をはじめた意識の高い学生層が、周囲を動かすからだ。
この原理で考えれば、
会場いっぱいに学生がいる説明会の方がいい企業と感じるし、
質疑応答では挙手が多い方がさらに学生の手が上がるし、
説明会が盛り上がるほど、入社意欲は高まる。
選考でも、他の学生の志望度合いからの影響をうけるので、
採用したい学生以外の応募者への対応も、大事な採用戦略だ。
採用する側も同様で、
他社の選考に落ちた学生よりパスしている方が魅力的に映ったり、
すでに他社の内定を持っている学生に内定が集中するのは、
まさに社会的証明の原理である。
突出するのを避けたり、横並びの思考性の強さが、
日本の経営者に共通する特徴だとよく言われる。
しかしこれは、日本人経営者の特異性ではない。
日本人に限らず、経営者に限らず、
人は他人の行動を基準に自分の行動を決定するのだ。
選考基準が他社の影響を受けるのも当然と言えるだろう。
景気の影響も、社会的証明の原理そのものだ。
景気とは「経済活動の勢い」であり、「経済の気の集合」である。
経営者が他社の動向をみて投資や採用計画を決めるのも、
集まった気から影響を受けるためだ。
私は採用を業とする経営者として、最近強く、
近年感じられなかったほどに積極化する変化の波を感じている。
日本経済の長くつづいた不景気の影響で、
企業はなんとなく自信を失い、先行きの不安を抱え、
新たな雇用と採用活動に慎重になってきた。
ただ同時に、長引く不況下での経営が無駄を省き、
確実に筋肉質な経営体質をつくりあげてきているように思う。
数年後には確実に認識できるであろう好景気の波に乗るべく、
積極的な採用活動に打って出るべき時期が到来したのだ。
原理は大きく動きはじめている。
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