前号のKAKEHASHI SKY NEWSでも触れていたが、
大学生の就職活動開始時期を、現在の3年生の12月から
4年生の4月とするよう、政府が経済界に要請した。
これに対する経済界の反応は一様ではない。
開始時期変更の対応を会員企業に周知する意向を示しているのは、
日本経済団体連合会など、主に大手企業が加盟する経済3団体。
対して、IT企業など約700社が加盟する新経済連盟の代表理事、
楽天の三木谷浩史氏は異論を唱えている。
新経済連盟に加盟する多くの新興企業にとって、
新卒採用は入社早々に利益を生み出す戦力であり、
新卒大学生を限りなく即戦力に近い人材として捉え、
採用に臨んでいるのだろう。
いわゆる大手企業、有名企業にとって、
新卒大学生の採用は‘将来の戦力’の確保であり、
投資効率のいい先行投資である。
大学生の学業優先を尊重し、採用活動を多少後ろ倒しにしても、
同クラスの大手企業が横並びで賛同する限り、大きな影響はない。
仮に遅れを取ったところで、予算を追加して追加募集すれば、
ある程度の効果を上げることは可能だ。
そして、万が一その年度の新卒採用を失敗しようとも、
中途採用でリカバーすることもできる。それが大手企業だ。
つまり、新経済連盟加盟企業と大手企業とでは、
新卒採用に対する期待度と真剣度が違うのだ。
では、政府から要請を受けていない中小企業の採用活動は、
どうあるべきなのか?
私は、企業活動が自由競争で経済合理性を求めるものである以上、
大企業に向けて発信された政府要請に捉われる必要はなく、
あくまでも競争原理に従うべきであると思っている。
企業規模などのハード情報と雇用条件を重視する中途採用市場と、
今現在の状況よりも未来を見る新卒採用市場では、
同じ就職活動と言っても求職者の志向が大きく異なる。
中途、新卒以外にも派遣や紹介など様々にある採用市場で、
新卒採用市場だけが唯一、
「小よく大を制す」が可能な人材市場なのだ。
当然中小企業はここが最高のチャンスだと捉え、
採用活動に力を入れるべきだろう。
そもそも大手の採用活動が後ろ倒しになることは、
中小企業にとって経済的な視点で大きなメリットがある。
現状で、経団連の倫理憲章に拘束されない企業にとって、
採用活動は原則自由な企業活動である。
極端に言えば、
大学1年生を対象に採用活動をおこなうことだってできる。
だが、そんな早くに動く企業は多くない。
なぜならば、まずお金がかかるからだ。
また、いち早く動いたところで、学生も就職先を決断できない。
もし早々に採用を決め、入社を決意した学生がいたとしても、
企業は入社まで放っておくわけにはいかない。
そのフォローにもお金がかかる。人も動く。
中小企業がどんなに早く動き、優秀な人材確保を目指しても、
揺れる学生の心と内定後の就職活動を止めることはできないのだ。
企業は、成果と掛かる費用との最適ラインを探りながら、
採用活動をおこなっている。
合理性の追求の結果、インターンシップという
「採用活動に定義されない活動」を3年生の夏からおこなう。
そのあたりが、成果を見込めるギリギリのラインだということだ。
意欲的で優秀な学生は、政府や経済界の意向がどう動こうが、
就職活動が短期化しようが、長期化しようが、どうなろうが、
自分の目指す企業と接触し、内定を獲得する。
就職活動の短期化で困る学生は、早くから動いたらいい。
そのスケジュールを管理できるかどうかも、学生の能力だ。
政府がアベノミクスによる円高で恩恵を受けた大手企業に
昇給の要請をおこなうことには賛成だが、
企業の採用活動の自由や、
学生の就職活動の自由を奪うような要請には賛成できない。
企業も学生も、自由競争の中でチャンスを掴む努力をすべきだ。
私はそう考えている。
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