私がこの20数年、一人の経営者として自社組織を、
人材サービス事業者としてクライアントの組織を見てきた中で、
各社それぞれが独自の個性的な組織であると感じると同時に、
成長ステージと抱える人材課題の関係には
どの企業にも通じる共通点が確実に存在するとも感じている。
企業を成長させつづけるという前提で考えるならば、
そのために採らねばならない人材、もしくは
育てなければならない人材のタイプが厳然と存在するのだ。
商品のライフサイクルと同様、
企業組織にも大別すると4つの成長プロセスがあると言われる。
起業からの成長過程を導入期、成長期、成熟期、衰退期とすると、
一般的に30年でライフサイクルの衰退期に入り、終わりを迎える。
導入期にあたる会社のスタート時期は、
まだ組織が組織の体をなさない創業者のワンマン経営だ。
商材もほぼ単一で、日々の売上獲得が第一である。
ゆえにこの時期に必要な人材は現場を動かすマネージャーで、
そのマネージャーがイコール経営幹部であり、現場担当でもある。
社長自身もいち現場担当者かつマネージャーであるため、
ほぼノーマネージメントで一人立ちして動き、
会社に売上貢献できる人材が、会社にとって最高の人材である。
導入期にこのタイプのマネージャーを何人獲得できるかで、
この後の会社の成長スピードは決定する。
次の「成長期」の企業は、
人材の獲得という面では一番楽なステージかもしれない。
成長期の組織は独特の雰囲気で、成長志向の人材は集まりやすい。
特に若い人材は企業の将来性さえしっかり伝えることができれば、
たとえ少人数の組織であっても、比較的集めやすいと思う。
マネジメントに関しても一番楽なステージで、
成長期の初期段階は仕事も増え、サービスや組織が拡大しており、
会社内のどこの部署にいても前向きな仕事が多いため、
「仕事が人を育てる」状態になり、マネージャーも育ちやすい。
ただ、経営的には人材を採用しやすく育成しやすいこの成長期を
いかに長くつづけ、事業を拡大しつづけることができるか、
いかに次の新分野を開拓するかが最重要課題である。
新展開を仕掛け、事業をマーケットに定着させられれば、
中小企業というカテゴリからの脱皮も可能になってくる。
そのためにこの時期に株式を公開するのも、経営戦略の一つだ。
成長期から成熟期への時期に挑むべき人材課題は、
初代マネージャー陣の次の世代となるマネージャー候補の養成と、
今現在の企業レベルを超えた優秀な人材の獲得になってくる。
既存の事業や現在の人材レベルではなかなか集まらない人材を、
ここで集めなければならない。
企業に勢いがある時にしか、このチャレンジはできないのだ。
その手は決して多くはないが、手間とお金をかけさえすれば、
企業レベル以上の人材に出会える機会は必ずつくることができる。
成熟期に入ると、新分野を開拓できる戦略思考力を持つ人材と、
実績をゼロから作る実行力のある人材が必要になる。
このタイプの人材は当然成長期にも必要なのだが、
採用成功の可能性で考えると、成熟期に最も注力したいタイプだ。
この時期にはもう経営が安定しているため、
複数のマネージャー候補の人材を獲得することも可能だし、
新たなボードメンバーとしてハンティングすることもできる。
経営的には自社が成長期から成熟期に入ったことを察知すること、
そしてここで人材獲得に投資できるかどうかで、
来るべき衰退期に備える体制に入るのか、
新たな成長ステージへと脱皮できるが決まると言えるだろう。
どちらの道を選ぶかは経営陣の描く経営戦略次第であるが、
それは人材戦略に限らず、マーケティングや商品開発、
現場での販売戦略にもリンクする非常に困難な経営課題だと思う。
しかし、この困難な課題に挑むことが、
成熟期の次を再度成長期にする、唯一の方法なのだろう。
ライフサイクルでは次が衰退期なのだが、
私はまだ衰退期の組織を経営した経験がなく、
人材要件の想像は難しい。しかし、
業績が下降し、組織が縮小していく中でのマネジメント、
組織を維持するための経営を経験したことはある。
衰退していく状況でのマネジメントは、本当に大変だと思う。
他の言葉では言いようがない。
優秀な人材の採用はどのステージでも難しい挑戦だが、
人材は採るよりも「辞めてもらう」ことのほうが数段難しいのだ。
企業のライフサイクルとは、人材と組織のライフサイクルである。
組織が成長ステージに対応した人材構成であることが理想だが、
実際には、必要な時期に必要な人材がいることは少ない。
成長組織においては人材に充足を感じることがほぼないのだ。
企業が成長するため、成長をつづけるためには、
こうして次のステージに必要な人材要件を考えることと、
人材の獲得と育成に挑むことが本当に大事なのだと実感している。
今いるステージはどこか。次のステージへの人材要件は何か。
選択肢はそれだけか。その判断は正しいのか。
経営者は常にこの課題に挑戦しつづけなければならないのだ。
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