2023/9/13 vol.293 KAKEHASHI SKY NEWSは、第二・第四水曜日配信 “人的資本情報の開示方法や具体的手法について” 青山学院大学経営学部教授 山本 寛氏 近年、人的資本関連の情報開示の義務化が、大企業を中心に広がってきました。「人的資本」とは、仕事をする上で必要となるスキル、知識などの総称であり、「雇用主に対し自身の価値を高めるような専門的な価値の蓄積」を意味します。つまり、組織で評価されるような専門性の高い知識やスキルなどのことです。 1.同業他社やその他企業との比較による変化の開示
第1の方法は、同業他社やその他企業との比較による変化の開示です。パーソル総合研究所の調査によると、上場企業の役員層・人事部長が人的資本情報の開示で重視する要素として「優秀人材の採用実績の増加」に次いで「他社の動向」が挙げられています。自社の課題に加え社外の要素が重視されていることがわかります。特に、離職率等業界全体の数字が開示されている場合等では、それとの比較は今後の企業間競争においても重要になります。他の多くの企業で開示している情報は開示する必要性が高いといえます。 2.改善に向けたストーリーの構築
第2の方法は、改善に向けたストーリーの構築です。ストーリーは人を動かすとよくいわれますが、人的資本情報の開示でも同様です。前回の記事(「人的資本経営とは?」)でも触れましたが、例えば、離職者が多いことが大きな課題で人事戦略として社員のリテンション(定着)を重視している場合を想定してみましょう。そうした企業の場合、離職率だけを開示するよりも、人的資本の価値向上の取組としても重視されている(企業と個人の結びつきを意味する)従業員エンゲージメント調査の情報を同時に開示することです。 3.縦断的な経年比較による変化を開示する
第3が、縦断的な経年比較による変化を開示することです。ストーリーを構築するには、作文の起承転結ではありませんが、時間の流れによる変化を開示することが求められます。前述の例でいえば、離職率、従業員エンゲージメントの情報を、継続的に測定し開示していくことが必要です。また、新たな施策をいつ実施したかについても同様です。これによって、施策→従業員エンゲージメント向上→離職率低下→新たな施策→さらなる従業員エンゲージメント向上→さらなる離職率の低下という、ある行動の結果やその情報を利用して、その後の行動をさらに調整・改善していくプロセスを継続的に繰り返すフィードバックループの形でストーリーを構築することが可能になります。 Pick up Seminar Articles |