カンボジアで人材派遣事業（技能実習送り出し機関）と進出コンサルティングをはじめて10年が経ちました。事業責任者である私は、この10年で海外事業ならではの難しさを多々経験し、多くの企業の成功と失敗を目にしました。

カンボジアは外資100％で法人設立が可能で、「ドル経済（国内での決済通貨に米ドルが利用されている）が確立されている」「銀行米ドル定期預金5％」と聞くと、とても魅力的に感じます。ただ競争も激しく思うような結果を出せなかったり、資金不足に陥ったりと、多くの企業が撤退しています。海外では日本のような銀行取引をすることはとても難しく、融資を受けられるケースは多くありません。そのため、攻めるマーケットに見合った資金計画を慎重に検討する必要があるでしょう。また、海外の事業環境には様々なリスクを伴います。この10年間でもタイやミャンマーでは軍事クーデターがあり、メコン川流域では何度も洪水が発生し、各地でテロが起こっています。国内とは異なるリスクが発生した場合には撤退せざる負えないケースもあります。万一のため撤退費用についても確認する必要があるのです。

成功した企業の秘訣は各企業様々で、「これをすれば成功する」というセオリーは特定できません。しかし、海外事業から撤退した企業には多くの共通点が見受けられます。海外事業の成功確率を高めるためには、失敗事例を多く研究することが重要です。

今回は海外事業での失敗を減らすために、マーケット選定と現地で働く人材採用のポイントについてお伝えします。

海外事業でまず必要なことは、マーケット・ターゲットを絞りこむことだと考えています。事業発足当時、私は初めからASEAN地域での事業を模索していたので、まず候補にした各国を訪問し、現地の状況を確かめました。同じASEAN地域内の国でも、人口・宗教・教育・通貨などが大きく異なります。結果的に私はカンボジアを選び、顧客となるターゲットを絞り込むことで、10年ものあいだ人材派遣事業（技能実習送り出し機関）と進出コンサルティングを継続できているのです。

ここで、カンボジアでターゲットの絞り込みに成功している事例を一つ上げます。

私が住んでいる首都プノンペンでは、1杯のコーヒーは$0.5～$4と価格に幅があります。現地でもカフェはとても人気があり、多くの海外企業が出店を加速させており、競争が激しく撤退するカフェも多くあります。成功しているのは大資本とブラントを武器に攻勢をかけている欧米企業、価格を抑えて多店舗展開を加速するタイなど近隣諸国の企業です。そんな中、1店舗ですが、日系カフェがローカルから人気を集めています。小さな店舗ですが、厳選したコーヒー豆で丁寧にドリップすることでターゲットを絞りこみ、他のカフェとは異なる商圏を確立しています。

対象とするターゲットが決まったら、次はその海外事業を担う人材の選定です。語学が堪能なことや、海外での生活経験などにより人材を選ぶケースもよく伺います。海外では新規開拓力や交渉力などが重要になるため、これらも人材選定の項目に追加することが望ましいでしょう。また、せっかく現地で優秀な人材が活躍しているにも関わらず、決済権限がなく案件を失い事業を撤退するケースもよくあります。現地での決裁をある程度任せられる人材を選定することも重要です。

ここ数年海外留学や海外転勤を希望する人材は、新型コロナウイルス感染症の影響もあり減少しています。社内で人材を探すだけではなく、海外進出を目的とした人材を採用し、海外事業責任者として赴任させることも施策の一つでしょう。また、「日本に留学している外国人を採用して海外事業を担当させることはどうか」という質問をよくいただきます。進出する国にもよりますが、新興国を検討しているのであれば現地で採用したほうがいいとお答えしています。というのも、国費や奨学金などの支援がある場合を除き、金銭的な面で新興国から留学できる人材が新興国にはあまりいないのです。一方で、現地にて日本語を学習し、日本での就職を希望する学生は多くいます。そのような人材を採用し、日本で教育し、現地に戻して事業を立ち上げた方が、事業の成功確率を高めることに繋がるでしょう。

今後、ますます少子高齢化が進む日本に留まらず、他国のマーケットへの進出も事業拡大の大きなチャンスになります。マーケットを先に選ぶか人材を選ぶかはそれぞれの企業によって異なりますが、どちらにしても海外進出が企業の発展のためには必要な施策になることでしょう。

海外での事業展開をご計画される際にはご相談ください。