モノづくりの世界には「前工程と後工程」という概念があります。
トヨタ式のモノづくり現場では、「前工程は神様、後工程はお客様と思いなさい」という言葉があるのだそうです。

一人ではできないモノづくりをする上で、チーム意識や仕事の目的を考えさせられる良い言葉だと私は思います。なくてはならない存在である協力業者さんを前工程の神様、後工程はお客様のためにという捉え方は、すべてはお客様のためにという考えのもと、成り立っているのでしょう。

人事戦略の流れに置き換えると、前工程は応募者と出会うまで。後工程はそこから入社、そして、その先にある定着や戦力化までを指す使い方をすることが多いです。採用もマーケティング活動だと考えるなら、応募者をお客様として捉えることは有意義で、いまどき、「採用してあげている」というスタンスで採用できる企業はごく一部に限定されます。

モノづくり同様、採用活動においても、全ての工程が重要です。が、差がつきやすいのは後工程への工夫だと私は考えます。採用活動における前工程とは、ほぼ母集団形成を指し、後工程は、何度かある面接や、内定～承諾までの工程を指します。採用担当の方はよくご存じだと思うのですが、採用業務の中で一番時間と予算も割くのが、どんな広告や主客手法を使ってどう集めるかです。人事への指標も多くの企業が採用数と集客数（母集団数）に設定されていることが多く、何人と会えたか？は採用活動の命運を握っています。

そうなると、後工程での面接の内容や工夫、内定を出してからの辞退率対策などは、二の次、三の次になることが多く、そちらに重点を置いている企業は少ないのが実情です。しかし、冷静になって数値分析をしてみると、たくさんの応募者を募るよりも、応募者のうち一人でも多く面接に来てくれる施策や、選考途中に離脱しないための施策、内定辞退防止のためにどんなことができるのか？といった後工程施策の方が、入社数の安定やギャップ離職防止、定着率を高めるために重要なポイントとなるのです。

そして、後工程への工夫よりも、もっと重要なこと。それは採用全体の「つながり」に対する工夫です。全体のスケジュールや選考フローはもちろん、ターゲットや全体のコンセプト、自社の見せ方などの表現がつながっているかがこれにあたります。そもそもターゲットに届かないコンセプトや自社表現になっているまま、なんとなく集めてなんとなく面接し、なんとく辞退されている企業は意外に多いものです。

大手企業の採用チームにはおかかえのクリエイターがついていることが多いのですが、このクリエイターが、採用全体のつながりのチェックや、広告表現等に強いこだわりを持ち、自社の採用システムのつながりを磨き上げることで毎年の安定採用につながっているのです。

採用活動における集客の営業担当と会うことや、発注予算に頭をひねる時間だけでなく、自社のお客様（ターゲット）とはどんなものなのか？そのターゲットに届くストーリーやシナリオになっているのか？つながりが途切れているのはどこなのか？を見直してみてはいかがでしょうか。